綴り字と発音
母音
2. 母音字 --- 母音(φωνήεν 複 φωνήεντα)を表す文字は α, ε, η, ι, ο, υ, ω の7個である。これらの文字は単独または2個組で用いられて,日本語の「アイウエオ」にほぼ対応する5つの母音を表す。
α | ι, η, υ, ει, οι, υι | ου | ε, αι | ο, ω |
[a] | [i] | [u] | [e] | [o] |
a. 母音 [u] は,日本語の「ウ」よりも口を狭くして鋭く明瞭に発音する。日本語には子音直後の語末または子音と子音の間の [u] が脱落する傾向があるので,そのような場合には特に意識して強く発音する必要がある。たとえば,σου は「ス」ではなく「スゥ」と言うような気持ちで発音するとよい。
b. ει, οι, υι, ου, αι へのアクセント記号(τόνος)は,εί, οί, υί, ού, αί のように2番目の文字の上に書く。
3. 母音の長短 --- 古代ギリシャ語や日本語の場合と異なり,母音に長短の区別はない。アクセントの置かれた母音が自然に長く発音されることはあるが,語義や綴り字とは無関係である。
半母音
4. 母音字 ι, υ, ει, οι, υι は,次に母音字が続く場合,しばしば半母音(μισόφωνο)として発音される(発音記号は [j])。すなわち,ια, ιου, ιε, ιο は「ヤ,ユ,イェ,ヨ」のように発音されることがある。
a. アクセントのある母音字は,常に普通の母音として発音される: θείος, κρύος
b. 母音字と母音字の組み合わせが複合語の2つの部分にまたがる場合,それぞれの母音字は普通の母音として発音される: διεθνής (δι-εθνής)
c. それ以外の場合には,母音字 ι, υ, ει, οι が独立の母音として発音されるか半母音として発音されるかを決定する一般的な規則はない。歴史的には,これらの母音字は本来独立の母音として発音されていたものが,次第に半母音化したものである。この現象をギリシャ語学では συνίζηση (動詞は συνιζάνω) と呼ぶ。現在も進行中の現象であり,話者の年齢や出身地などによって影響の度合いはかなり変化する。文章語・専門語よりも日常語の方が συνίζηση を起こしやすいという傾向がある: καρδιά [karðjá], καρδιολόγος [karðiolóγos]
d. 現代希希辞典の1つ ΝΕΟ ΕΛΛΗΝΙΚΟ ΛΕΞΙΚΟ は,συνίζηση を起こすかどうか曖昧な見出し語に対して,ασυνίζ. (ασυνίζητο 半母音化しない),συνιζ. (συνισμένο 半母音化する)と注記している: ήλιος (συνιζ.), μόριο (ασυνίζ.), μυαλό (συνιζ.), σκιά (ασυνίζ.), ιατρείο (ασυνίζ.), αδειάζω (συνιζ.), μειώνω (ασυνίζ.)
e. いくつかの語は συνίζηση を起こすかどうかで文法的・意味的違いを生じる: άδεια [áðja] (形容詞「空の」), άδεια [áðia] (名詞「許可」), σκιάζω, [skjázo] (「おどかす」単純過去 έσκιασα), σκιάζω [skiázo] (「影を落す」単純過去 σκίασα), ακρίβεια [akrívja] (「値段が高いこと」), ακρίβεια [akrívia] (「正確であること」)
5. ου は,次に母音字が続く場合,半母音[w]として発音される。ただし,アクセントのある ού は普通の母音として発音される: ουίσκι [wíski], ακούει [akúi]
出典