アジアはでっかい子宮だと思う。

~牧野佳奈子の人生日記~

興奮と憂いの中国

2006-11-23 | 中国・台湾の旅

訪れたのは、一般にはあまりメジャーでない浙江省の紹興市と杭州市、そして今まさにオリンピック狂ともいえる北京市。


一言に、中国はスゴい。
あの人口の多さ。そして渦めく貪欲さ。

何に感動したかといえば、中国というあまりに巨大な国ゆえの底知れぬ危うさと、それに対する日本の影響の大きさ・・とでもいおうか。


ここ数年間の中国の発展は見事なもので、北京などは私が7年前に訪れたときとは比べものにならないほど「キレイ」に様変わりしている。
モダンな高層マンションがバンバン建ち並び、厚化粧の若い女が外国ブランドの服やバッグを見せびらかしながら通りを歩く。夜になれば繁華街のネオンが輝き、露天商が客引きのためにハツラツと声を張り上げる。

「エネルギッシュ」とは、こういう状態を指すのだ。

歴史、文化、観光、ショッピング、経済、グルメ、どれをとっても外国人客を刺激し魅惑するに充分だと言える。
欲望が欲望を呼び、その増殖にどんどん拍車がかかる。
名所に隣接する路地裏のトタン屋根や、相変わらず多いチャリンコ族の貧しそうな雰囲気、グレーな空、油っぽいにおい、そういったものを換算したとしても、今や中国は “一度は観光に訪れたい国” になってることは間違いなさそうだ。


しかし、そういった華やかさの一寸隣に、隠し切れない陰の部分を恥ずかしいほどに露呈してしまっていることも事実で、そのことがこの国と国民の発展しきれない所以にもなっている。

例えば水の問題、ゴミの問題、環境問題、排気ガスの問題、電気・ガソリンの問題、食糧の問題・・・。
思いつくだけでもみるみる両手がふさがってしまう。


百聞は一見にしかず、「ムリだこりゃ・・」という愕然とした感情が私を襲った。
これだけの人間が集中している国で、それら社会問題をいっぺんに解決することなど到底ムリだ。

バスの窓越しに街の様子を眺めていると、漠然と憂いでいた中国の近い将来像が、驚く程あっさり切り捨てれる。
この国はきっと、そう長くはもたないに違いない。
   

負の連鎖は既に猛スピードで進行している。
都市化が進んで若者が都会に流れる。格差が広がる。農業は廃れる。荒れた土地に有害物質をまき散らす工場が建つ。公害が深刻になる。
一方で核家族化が進み、動けない年寄りが悲鳴を上げる。それでも13億という数の人間に、公的サービスが行き渡ることはない。

事実、中国では環境汚染による死亡者数が急増し、2004年には40万人もの人が大気汚染が原因で死亡、と発表されている。

また貴州省という田舎の地域では、人口の半数に当たる1900万人がフッ素中毒やヒ素中毒に冒され、足腰が極端に曲がったり下半身マヒの人で溢れて返っているのだとか。
(参考:http://www2.tokuyama-u.ac.jp/m33043/news2/%90%BC%95%94%8A%C2%8B%AB%96%E2%91%E8/002.htm)


どうすんだろ、中国。

近年は環境対策に前向きだと言われてはいるが、まさか諸問題への対応が驚異的な経済発展のスピードに追いつけるとは思えない。
国土と人口の巨大さが、更に対応を鈍らせている。


悲観的に考え過ぎ?
・・・いやしかし私は、やはり中国崩壊論に一票を捧げたい。

難しいことは言わない。それが私が現地で得た、最も率直な感覚なのだ。





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紹興市の行政機関で働いている余さんは、丸顔に恰幅のいい温厚そうな男性だ。
白く木目の細かい肌が若さを感じさせ、細い目の奥に光る眼光が、いかにもスマートなやり手の仕事人を思わせる。
福井県あわら市長を含む一行の今回の訪中で、彼は私たちのガイドと通訳、要人との仲介など様々な場面で活躍してくれていた。


余さんに聞いた。

中国は社会主義国なのに、経済はいかにも資本主義で貧富を拡大している。国民として矛盾は感じないのか?と。

余さんいわく、「中国は、何でもありなんです。より良くなるためには何でもする。私たちは、海外の良いものを真似るのが上手ですから、資本主義も良いところだけを真似て中国流にアレンジしているんです。」

つまり経済成長を促すことは、社会主義の国家体制とは別物なのだ、と余さんは言うのだった。


日本では中国の反日デモがショッキングなニュースとして話題を呼んだ近年。
実は国民の団結力を高めるための国家戦略として反日感情が煽られたのだとか何とか、テレビは連日同じ映像を繰り返しながら、批判的な中国論を報じた。

一方で、歪んだ社会主義国家の元、巨額な富を築いている上層部の人間にとっては、チッポケな島国・日本などもはや眼中にないのかもしれない。反日デモにいちいち過敏反応している私たち日本人の姿を、そういった金持ち達は実に滑稽だとあざ笑っていたかもしれない、そんな気がしていた。
  

日本のことを、中国の一般市民はどう見ているんだろう。
正直な意見が聞きたかった。

余さんは言った。

「 皆平等、その日本の価値観はすばらしい。例えば学校同士の交流で、日本は絵の上手な子の作品も下手な子の作品も、全部一緒に送ってくる。私たちには考えられないことです。子どもの絵は確かにどれも素敵なのに、中国人だったら上手な子の作品しか送らない。それが常識になっていますから。」

そして、日中友好の主張大会で優勝した心臓病を抱えた子どもが、先生や関係者の協力によって訪中を果たしたエピソードも教えてくれた。中国だったら間違いなく、病気を理由に諦めるよう説得するという。


中国にとって、日本は相変わらず「進歩してる国」に違いない。
もしくはそう信じた方がよい、と私は思う。
なぜならそれは、ようやくアジアが、 経済力だけじゃない真の先進国を目指せるようになると思うからだ。

例えば自分たちの文化を大切にすること、世界の平和を願うこと、障害者や年寄りの人権を尊重すること、環境を良くするためにアイデアを絞ること、政府に対しきちんと主張すること・・・、。
日本に観光に訪れる中国人裕福層が増えるほど、彼らは 私たちの普段の生活や行動に根ざしたものを観察する。 つまり日本が少しずつ改善してきた社会システムや社会保障のあり方で中国をリードし、それらを「真似するに値するもの」と評価されるならば、経済だけの醜い競争ではなく、お互いが緊張感をもってより良い社会づくりに励めるんじゃないか、と思うのだ。





経済発展と共に脅威を増す中国。
その実態を肌で感じるためにも、日本人こそ進んで中国を訪れてみるべきだと思う。

彼らに一体どんな「日本」を示すことができるだろう。

巨大な国の将来に影響を与えていることを思えば、日本人としての誇りと責任がメラメラと沸き立ち、多少の偽装問題など鼻の先で笑えるようにならないか?と思うのだけれど。