あすか塾

「あすか俳句会」の楽しい俳句鑑賞・批評の合評・学習会
講師 武良竜彦

武良竜彦 祝辞 ダイジェスト

2023-07-26 16:40:47 | あすか創刊60周年記念祝賀大会

あすか創刊60周年祝賀大会

 武良竜彦 祝辞 ダイジェスト

「あすか」誌創刊六十周年おめでとうございます。六十年、分厚い歴史ですね。

六十年前と言ったら、私は十五歳で宮沢賢治文学に夢中の少年でした。野木桃花先生は十六歳で「私は女芭蕉になる」とすでに決意されていたそうです。野木先生の俳歴は「あすか」誌と同じで、六十年の厚みがあるということですよね。

 そして今から三十年前に「あすか」の主宰になられました。俳句界が多様性の時代に突入しつつあったときに、野木先生は「伝統俳句でも前衛俳句でもなく、多様な表現のいいところを学びつつ、そのどれにも偏らず、みんなで楽しく自己表現することを目指します」と、結社継承の決意を述べられているのですね。 

 あの時代にこういう独自の視座をすでに持っておられたのですね。

 毎月「あすか塾」というページの連載をさせて頂いて五年になりますが、その切っ掛けを作って頂いたのが、斎藤愼爾先生でした。ある日突然、斎藤先生から電話があって、「今度、深夜叢書社から横浜のすごい俳人の句集を出す予定で、そのゲラを送るから、よく読んで解説鑑賞文を書きなさい」とおっしゃるのですね。「君が絶対何か書きたくなるすごい俳人だから」ということでした。そしてゲラが送られて来ました。本当にすごい句集でした。

 一読しただけで感動して、すぐ解説鑑賞文を書いて送りました。句集の「栞」として斎藤先生と私の文が掲載されることになったわけです。 

 その『飛鳥』という句集ですが、感銘を受けた句はたくさんありますが、いちばんの代表作をあげますと、次の句です。

  火に仕へ水に仕へて昭和の日

 現代俳句史に遺る名句だと思います。

 環境汚染問題などが、今、喫緊の世界的な社会問題のひとつになっていますが、そういう事態を引き起こしたのは、自然を人間中心主義で、勝手放題に使ってきた現代文明が引き起こしたせいですね。

 自然を人間より下に置いて、都合のいいように利用しても良いという考えが、環境破壊という事態を引き起こしているわけです。でも、野木桃花先生のこの句は、自分を自然の中に置いていますよね。

 ここには自然に対する敬虔な畏怖心があります。そんな心構えで自然と向かい合い、日々の暮らしを噛みしめて、丁寧に生きている人でないと、こんな視座は持てないでしょう。

 私のライフワークは石牟礼道子文学論ですが、石牟礼道子の現代文明批判のまなざしと同じものを感じて、とても感動したのですね。私がこの句集に感動して、何かを書かずにはいられなくなる筈だ、と斎藤先生は見抜かれていたのですね。

 そのことにも後で感服しました。

 そのご縁で「あすかの会」という句会兼勉強会を創設して頂いて、毎月招かれることになったわけです。

 初めて「あすかの会」の句会に参加して、そしてまた、その運営の仕方にも感動したのですね。通常の句会では「選」の後、得点順に合評する慣習があります。その場合、無得点の作品は合評もされないことがあります。また主宰が推敲添削例を示して、まるでそれが絶対であるかのように「教える」という姿勢も見掛けます。 

 ところが野木先生の句会運営方法はまるで違うのです。高得点作品については、たくさん共感してもらった喜びを分ち合いますが、合評は得点とは無関係に、選句表の順にやっていくのですね。この句で、作者がいちばん表現したかったのは何んだろうと、皆で推論し合って、だったらこういう表現にする可能性があったとのではないか、というような合評の仕方なのですね。一人一人を実に大切する姿勢です。「あすか」の内部方たちは当たり前だと思っているかも知れませんが、これは画期的な方法だと思います。そのことを斎藤先生に話したら、自分も見学したいとおっしゃって傍聴に来会されました。

 そして、会の後、斎藤先生が述べられた言葉がとても印象的で忘れられません。

 先生はルソーの教育論『エミール』の、「教育は一方的に知識や技術を教え込むことではない。その時点の一人ひとりの達成を共に喜び、自ら成長しようとする内的力を信じて、共に成長しようとすることの中に、真の教育はある」という言葉を紹介して、次のように話されました。

《「あすかの会」はそのお手本のような考えの結社で、とても感銘を受けた。私の知る限りこんな結社は他にない》と。

 もう一つ私が感動したのは、私が子供たちに俳句を教えるときに参考にしたシュタイナーの知性、感性、意志、悟性の魂の力の芸術教育哲学と、野木メソッドが完全に一致する考えだったことです。

 斎藤先生は今年、幽界に旅立たれてしまいましたが、先生に結んでいただいたご縁を大切にして、今後とも「あすか」の皆様と、交流を深めさせていただきたいと願っております。

 本日は本当におめでとうございます。

  ※

付記

 なお、「あすか塾」で話をさせていだたいた内容を、横浜俳話会の俳句大会で講演させていただくことになりました。私が学んだシュタイナー芸術教育論と、野木桃花先生の「野木メソッド」、ドッキリ、ハッキリ、スッキリの俳句表現における意義についてお話しする予定です。聞きに来ていただけましたら幸いです。

 十月二十九日(日) 午後0時より

 かながわ県民センター 当日句会あり

   受付開始 午前十時三十分 

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 7・8月合併号 | トップ | あすか創刊60周年記念祝賀大... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

あすか創刊60周年記念祝賀大会」カテゴリの最新記事