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BY HAYLEY MAITLAND、MOTOKO FUJITA
BY ALICE NEWBOLD
BY ELISE TAYLOR
BBCリアリティー・チェック・チーム
イギリスではこのところ、エリザベス女王の死去と新国王チャールズ3世の即位に関連する複数の行事で、王室反対と抗議する人たちが警察に拘束される事態が続いている。
市民の自由や人権のために活動する「リバティ」など複数の民間団体が、王室に反対する人たちを含めて市民の抗議する権利が制限されているのかと、懸念を示している。
そこで、逮捕された人たちがなぜ逮捕されたのか、そして抗議する権利について法律はどう定めているのかを検討する。
11日にはスコットランド・エディンバラで、新国王の王位継承布告式の最中に女性が逮捕された。手にしたプラカードには罵倒語と「王室を廃止しろ」と書いてあった。女性は後に、治安妨害の罪で訴追された。
同じ日には、オックスフォードであった別の即位布告行事で、サイモン・ヒルさん(45)が公序良俗に違反した疑いで逮捕された。「誰が彼を選んだんだ」と叫んだとされる。
ヒルさんは当初、今年4月に施行されたばかりの「警察、犯罪、量刑と裁判所法」にもとづき逮捕されたと主張。これに対して現地のテムズ・ヴァリー警察は、公共秩序法違反の疑いで逮捕したのだと説明した。容疑者は後に、自分は警察によって逮捕から「解かれた」と述べた。
ヒルさんはブログ投稿で、いったい自分は何を理由に逮捕されるのかと警察に尋ねたところ、「混乱した答え」が返ってきたと書いた。
12日には、スコットランド・エディンバラの中心部を女王の葬列が進む中、アンドリュー王子に野次を飛ばしたとして、男性が逮捕された。男性は公共の秩序を乱した罪で訴追された。
同じ日にはロンドンの議会前広場で、白紙を手にしていた法廷弁護士のポール・ポウルスランド氏が、もしそこに「自分の国王じゃない」と書いたら逮捕するぞと警官に告げられたのだとツイートした。
このやりとりの動画をポウルスランド氏が投降すると、ロンドン警視庁は同日夜、「市民にはもちろん抗議する権利がある。警察が現在行っている臨時の活動に携わる全警官には、このことを明確に伝えている」と声明を出した。
イギリスではだれもが、平和的に抗議する権利がある。
欧州人権条約は表現と集会の自由に関する権利を定めており、イギリスでは1998年の人権法にその内容を盛り込んでいる。
しかし、その人権には制限がある。
他の法律が、必要で相応な場合にさまさまな自由を制限する権利を警察に認めている。特に、国の安全保障や国民の安全を守るために必要な場合、騒乱や犯罪を防ぐために必要な場合、警察にはその権利が与えられる。
公共秩序法のもと、これに違反する人は逮捕される場合がある。
同法の第5条にもとづき、イングランドとウェールズの警察には、いやがらせや不安・危機感につながり得る行動をとった者を逮捕する権限がある。抗議行動でこれに違反したとみなされ、起訴されれば、罰金刑を受ける可能性がある。
2021年4月~2022年3月の1年間に記録された同法違反は47万件を超える。これは、新型コロナウイルスのパンデミック前の2019年4月~2020年3月と比べると36%の増加だ。
「秩序の紊乱(びんらん)」容疑で逮捕されることもある。これは、その人の行動が他人やその持ち物に危害を加えた、あるいは加える可能性があると判断された場合で、警察はこの罪を犯している、あるいは間もなくその罪を犯すと判断した者を逮捕することができる。
イングランドとウェールズでは、この「秩序の紊乱」罪は非常に古い概念で、現代的な犯罪事由にはまだ完全にはなっていない。しかし検察庁は、これを理由に被告の行動を制限するよう裁判所に要請することができる。
「秩序の紊乱」とそれがもたらす「危害」の定義がゆるやかなことに、多くの法曹関係者は疑問を呈している。ドノヒュー弁護士事務所のケヴィン・ドノヒュー弁護士によると、イギリスではこの定義が「対象者を逮捕する警官によって乱用されたり、誤った解釈をされたりすることが多い」という。
スコットランドでは、秩序を乱すことは刑事犯罪で、このところ王室関連の行事で逮捕された人には、この罪状が適用された。一般市民を怯えさせたり、地域社会に深刻な混乱をもたらすような行為が、対象となる。
これには、怒鳴ったり罵倒したり、悪口雑言に満ちたメールを送ったりすることのほか、持続的な暴力行為や武器を振り回すなどの疑いも含まれる。
スコットランド高等法院は、犯罪成立の要件として、その行為が「合理的な人ならば誰でも、文脈から本当に警戒心を抱かせ、不安にさせる」行動でなくてはならないと定義している。
2020-2021年にスコットランドで記録された秩序紊乱の罪は3137件。最高刑は60日間の実刑判決、または最高2500ポンドの罰金だ。
2011年にウィリアム王子とケイト・ミドルトンさんが結婚した当日には、抗議を計画していたとして複数の人が逮捕された。予定されていた抗議行動の中には、「ゾンビの結婚式」が含まれ、これは式典の進行を妨げる可能性があるとされた。
逮捕されたうち9人(結婚式が終わるまで拘束され、訴追されずに釈放された)は、逮捕の正当性についてまずイギリスの裁判所で争い、その後は欧州人権裁判所(ECHR)でもイギリス政府を相手に争ったものの、訴えを却下された。
ECHRはこの時、逮捕された原告たちの権利と、秩序を維持するという警察の義務をめぐり、すでにイギリスの司法制度が比較衡量を済ませているため、ECHRとしてこの件を検討することはしないという判断を下した。
他方で、これとは別に「ジーグラー判決」として知られるようになった判決でイギリス最高裁は、武器の展示会へと至る道路を封鎖した抗議者たちが妨害行為で有罪になったことについて、これは不当だという判断を示している。この事件をめぐり最高裁は、抗議者たちが一時的かつ平和的に抗議する権利は、尊重されるべきだったと結論した。
この判決を判例として、気候変動危機の重要性を訴えてロンドン中心部の道路や橋などを封鎖してきた「エクステンション・リベリオン(XR、直訳で絶滅への反逆)」の抗議者たちの有罪判決が、複数覆されている。
これまでのところ、今年4月に施行されたばかりの「警察、犯罪、量刑と裁判所法」にもとづき、王室反対者が逮捕された事例はない。
この新法によってイングランドとウェールズの警察は、デモなどの抗議行動を制御する権限が拡大された。新法にもとづきイングランドとウェールズの警察は次のことができるようになった。
政府は、この新しい措置は、「秩序を甚だしく乱し、時にきわめて危険」な抗議行動への対策として、必要なものだと説明している。
政府は、「エクステンション・リベリオン」などの抗議行動は、「公共の資産への負担」になったほか、たとえば人種差別に抗議する「Black Lives Matter」運動でも警官への暴行が相次いだためだとしている。
他方で、英議会の人権合同委員会は、「すでに警察が十分な権限を持つ分野」において政府が「新しい権限」を作ろうとしていると批判している。
(英語記事 Is there a right to protest at royal events?)