たそかれの散策

都会から田舎に移って4年経ち、周りの農地、寺、古代の雰囲気に興味を持つようになり、ランダムに書いてみようかと思う。

ノーベル賞の虚実 <NHKスペシャル “ノーベル賞会社員”>などを見ながら

2019-02-18 | 企業・事業・研究などの不正 適正な支援

190218 ノーベル賞の虚実 <NHKスペシャル “ノーベル賞会社員”>などを見ながら

 

トランプ大統領は次々と話題というか物議を醸し出す人ですね。そのトランプ氏と肝胆相照らす関係にあるかのような安倍首相、この発言に唖然としたのでしょうか。内心ほくそ笑んだのでしょうか。毎日記事の<トランプ米大統領 「安倍首相がノーベル平和賞に推薦」>では、公約である国境の壁建設で窮地に立ったトランプ氏、異例の非常事態宣言を発表するのに、これまでノーベル賞に値する成果を成し遂げたとでも自画自賛するのに、安倍氏の推薦を受けたとまで、この席で発表するのですから、さすがは取引上手といわれる所以でしょうか。わが国の文化にはとても似合わないように思うのですが。

 

ノーベル平和賞は政治的な色彩が強いとは言え、ここまで自分の無理矢理の政策実現のための道具に使われてはその評価もさらに一段と落ちたかもしれません。まあトランプ氏と安倍氏の間ではそれでもやむをえないかもしれません。

 

毎日記事<首相 トランプ氏のノーベル平和賞推薦、否定せず 「コメントは控える」>の対応は、わざわざノーベル賞推薦規則のようなものまで調べてまで、事実を秘匿するほどの話かと思いつつ、これこそ忖度政治が外交内政で行われている証かなと思ってしまいます。

 

しかしより厳密に科学的な評価が問われる科学分野のノーベル賞にも意外な落とし穴があるのですね。

 

昨夜<NHKスペシャル 平成史 第5回「“ノーベル賞会社員”~科学技術立国の苦闘~」>を見ました。国谷裕子氏を久々に見ましたが、取材内容も取り上げ方、彼女の語りもさすがでした。田中耕一氏の本音がとても素直に表現されていたように思います。

 

それにしても主人公の田中耕一氏の姿形に驚きました。私よりずいぶん若いのに、一瞬私より年上だったかと勘違いしてしまいました。その苦労の痕跡がにじみ出ているように思いました。

 

まず田中氏の冒頭で衝撃的なことばを述べています。それがはっきり思い出せないのですが、ノーベル賞の呪いみたいな表現であったかな(耄碌したのか恥ずかしい話、とても驚いたため忘れてしまいました)と思います。トランプ氏とは似ても似つかぬ、日本人の普通の感覚をお持ちの方のようにうかがえました。なぜ自分がノーベル化学賞受賞者に選ばれたのか、その日から16年もの間、苦闘してきたというのです。

 

たしかに田中氏は、他のさまざまな受賞者が長い専門的な研究の結果ようやく発明したことに比較すると、たんぱく質を抽出する発見という成果は偶然のミスから生まれた成果で、まさに瓢箪から駒のようなことだったようです。しかも博士などの肩書きもなく分野の異なるエンジニアであったわけですから、ノーベル化学賞受賞といわれても、心底きょとんとするしかなかったのかもしれません。しかも誠実でまじめな方ですから、その世界的な名誉に恐れおののいたのかもしれません。

 

ノーベル賞の価値をなにかと利用しようとする人にとっては利用価値があるでしょうけど、田中氏のような誠実に生きてきた方にとっては大変な重荷だったのでしょう。

 

しかし、田中氏は苦闘しつつも、誠実に生きる姿に変わりなく、重荷をしっかり受け止め、ノーベル賞を受賞できた所以を自問自答して、発明、イノベーションについても自分なりの問い直し、新たな発見という意味にとどまらず、新しい結合とか、新しいとらえ方とか、新しい活用法といった見方で、前向きに取り組むようになったそうです。

 

それは失敗を怖れず、過ちを怖れず、知らない人の意見を尊重し、異なる立場の人を結合していくなど、実践的に物事をすすめるのです。

 

むろんこれも一人ではなしえなかったですし、制度支援もありました。所属の島津製作所の当時の社長が田中氏に年間1億円を拠出して自由に研究する場を与えました。また、小泉政権の施策で、科学技術分野にも競争原理が導入され、財政当局によりねじれたものの、田中氏の研究にはたしか年間7億円でしたか?大きな支援があったかと思います。

 

その田中氏が発案した新たな企画は画期的なものでした。「血液一滴で病気の早期診断をする」という検査方法の開発です。最澄の「一隅を照らす」ではないですが、田中氏は世のためになることをしようと決意し、難病に苦しむ人の助けになることを考えたのです。

 

田中氏はいろんなところから、若い研究者を集め、彼ら彼女らの自由な研究の場を提供するのです。そしてたんばく質を抽出したように、若い研究者(任期付き)の絶え間ない実験の結果、アルツハイマー病の原因?物質とされていたアミロイドβを抽出することに成功したのです。ところがガスクロマトグラフィでしょうか、グラフにはアミロイドβとともに未知の物質も、大きく検出されていたのです。そのため、その抽出が有効かどうかはっきりしなかったのですが、アルツハイマー病の専門医である柳澤勝彦教授に相談したところ、不審に?思われつつも理解が得られ、症状のある患者さんとそうでない患者さんとで、分析したところ、アルツハイマー病の患者の場合、むしろ未知の物質の方が多いことが判明したのです。

 

このことでアルツハイマー病の早期診断の未知が開けたというのです。認知症の方の多くにアルツハイマー病が見られることから、早期発見だけでなく、治療法も近い将来見つかることが期待されるところです。

 

私の担当している方にも罹患されている人がいますので、関心をもって見ていきたいと思っています。

 

それにしても田中氏の穏やかでおとなしそうな外見とは異なる、内面の弱さと強靱さにはじーんとくるものがありました。こういう人こそやはりノーベル賞受賞に値すると思ってしまいました。

 

なお、もう一つ重要な本庶佑氏が憂う科学研究に携わる若い研究者を育成する基盤を失いつつある状況については別の機会に触れてみたいと思います。

 

今日はこのへんでおしまい。また明日。