たそかれの散策

都会から田舎に移って4年経ち、周りの農地、寺、古代の雰囲気に興味を持つようになり、ランダムに書いてみようかと思う。

農地転用許可と隣地承諾 <農地転用申請に隣接農地所有者の同意書を求める扱いについて>

2017-11-16 | 公共事業と多様な価値

171116 農地転用許可と隣地承諾 <農地転用申請に隣接農地所有者の同意書を求める扱いについて>

 

わが国は長い歴史の中で向こう三軒両隣のなかで生きてきたように思えます。ちょっとした法律相談の中で、草枕の一節を思い出しつつ、過去の宅地開発から農地・山林の開発までの出来事もふと思い出してしまいました。

 

宅地開発で言えば、宅地開発指導要綱というのがたしか90年代までいつもチェックする必要があったように思います。中には各市町村の要綱を都市計画法などと一緒にうまく整理して書籍化しているのもあったと思います。その中で、近隣同意書は必須とされていたかと思います。

 

日本社会では、そのような近隣の同意を得ることが紛争防止に、あるいは近隣社会の平穏な維持に有効であったのかもしれません。しかし、驚異的なバブル開発は全国に及び、そのような縛りは、都市計画法や建築基準法など法令上の根拠がない、合理的根拠がないとして、違法視され、ついには裁判で否定され、いつの間にか要綱行政という言葉も消失していったように思います。むろん、その中心の一つであった近隣同意書も要求される時代は過去の物となりました。

 

ただ、都市計画法33114号は次のように定めて、近隣者との調整を求めたのです。

「十四 当該開発行為をしようとする土地若しくは当該開発行為に関する工事をしようとする土地の区域内の土地又はこれらの土地にある建築物その他の工作物につき当該開発行為の施行又は当該開発行為に関する工事の実施の妨げとなる権利を有する者の相当数の同意を得ていること。」

 

開発行為の施行等の「妨げとなる権利を有する者」とありますが、はたしてどの範囲の権利がそうなるかは簡単ではありません。そのため、最近では各開発許可権限のある自治体では条例でより明確にその内容を合理的に定めようと努力しています。単に隣接地だからそうなるとは限りませんね。

 

より合理的な既存住宅と新規開発の調整基準が次第にできあがっていくのが本来でしたが、わが国では中央で決めた法令が優先され、自治体の条例はそれに劣後する物として、地域的でより民主的な自主的規制たる条例が育たないまま今日に及んでいるように思います。そこが北米のゾーニング条例規制と大いに違う局面でしょうか。

 

他方で、農地についていえば、向こう三軒両隣的な土地利用秩序がまだまだ実務的には残っているといってよいでしょう。たとえば農地転用の場合、申請書には隣接する農地の同意書を当然のように必須要件としているのが自治体行政ではないかと思います。

 

たしかに実際、畑を山林にする場合、日陰になったり風通しが悪くなったりするので、隣接の畑所有者の了解を得るのが普通でしょう。同様に田を畑にしたり、畑を田にする場合でもいろいろな影響がある場合もあり、隣地の理解を得るようにすることが少なくないと思います。農地を宅地や雑種地にする、転用の場合は、よりその必要性が高まるのは理解できる話です。

 

しかし法令上の根拠があるか、疑問があり少し調べてみました。宅地開発の場合は少々異なる仕組みになっています。

 

農地法46項の規定の中に、転用許可ができない場合を定めていますが、そのうちの3号が妥当すると考えます。

 

「申請者に申請に係る農地を農地以外のものにする行為を行うために必要な資力及び信用があると認められないこと、申請に係る農地を農地以外のものにする行為の妨げとなる権利を有する者の同意を得ていないことその他農林水産省令で定める事由により、申請に係る農地の全てを住宅の用、事業の用に供する施設の用その他の当該申請に係る用途に供することが確実と認められない場合」

 

上記の下線部です。しかし、この規定から当然に、隣接する農地所有者の同意なり承諾を必要とすると解することには無理があると思います。でも各農業委員会の実務では隣地承諾書か同意書を求めるのが普通です。

 

3号の解釈を考えるとき、その他の規定をも参考にすべきではないかと思うのです。4号はそのヒントになると思うのです。

 

「申請に係る農地を農地以外のものにすることにより、土砂の流出又は崩壊その他の災害を発生させるおそれがあると認められる場合、農業用用排水施設の有する機能に支障を及ぼすおそれがあると認められる場合その他の周辺の農地に係る営農条件に支障を生ずるおそれがあると認められる場合」

 

これは転用によって実害が及ぶ場合です。すると上記3号の「妨げ」というのは単に隣接関係にあるだけでは、同意を求めることまで要求するのは過大ではないかと思うのです。現在自治体行政で行っている隣地所有者の同意書を求める扱いは、憲法が保障する財産権規定に抵触するおそれが高いと思います。合理性がないと考えます。

 

でもまだ裁判例をチェックしていませんので、宅地開発指導要綱のような裁判例があるのかどうか、こんど時間があるとき調べてみたいと思います。

 

なお、この条文の運用解釈を定める通知が農水省からたびたび発せられていて、その重要な一つが次の通知です。

 

農地法の運用」と題する通知です。農業委員会や事務局はこの通知を根拠に運用しています。この中に次の規定があります。

 

(2) 立地基準以外の基準(一般基準。法第4条第6項第3号から第5号まで) (1)の立地基準に適合する場合であっても、次のいずれかに該当するときには、許 可をすることができない。

農地を転用して申請に係る用途に供することが確実と認められない場合(法第4 条第6項第3号)

 具体的には、次に掲げる事由がある場合である。

 () 転用行為を行うのに必要な資力及び信用があると認められないこと(法第4条 第6項第3号)。

 () 申請に係る農地の転用行為の妨げとなる権利を有する者の同意を得ていないこ と(法第4条第6項第3号)。

 「転用行為の妨げとなる権利」とは、法第3条第1項本文に掲げる権利である。>

 

上記の(イ)の「申請に係る農地の転用行為の妨げとなる権利を有する者の同意を得ていないこと」として同意を求めています。その「転用行為の妨げとなる権利」については、やはり明らかにされていません。解釈・運用に任されているのでしょうが、実務は先に述べたとおりで、農水省もそれを認めているのかどうか、まだ確認できていません。これは簡単に調べられるので、近いうちに問い合わせてみたいと思います。

 

と今日は別の話題(米海軍が111日付けで報告した最近のイージス艦衝突事故原因)を取り上げるつもりが、そろそろ帰宅時間になりましたので、今日はこの辺でおしまい。別の機会にします。


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