190121 障がい者と建築対応 <机上のバリアフリー 都条例案「客室の浴室・トイレ入れぬ」>などを読みながら
人のために仕事をするというのはどんな仕事でも骨が折れます。まして建築となると、建築物の種類・用途によって違ってきますね。私も仕事柄多くの建築士さんと一緒に仕事をしましたが、弁護士も十人十色ですが建築士さんもそうですね。ましてや施主を含むステークホルダーが多様な場合余計ややこしいでしょう。
さらにバリアフリーというと多様な注意点がありますね。今回は障害のうち、車イス利用者に焦点をあて、ホテル客室を対象として、東京都が既存のバリアフリー条例を強化する改正案素案を示したところ、問題になっています。
今朝の毎日記事<ともに・2020バリアーゼロ社会へ机上のバリアフリー 都条例案「客室の浴室・トイレ入れぬ」>です。
<2020年東京五輪・パラリンピック開催を控え、東京都が示した改正バリアフリー条例の素案に対し、見直しを求める声が上がっている。>
理由は<全国に先駆け、ホテルの一般客室をバリアフリー化する内容だが、示された基準では一部の車いすが浴室やトイレに入れなくなるからだ。都は実験をせず、机上の検討で基準を決めたといい、障害者団体はバリアフリー促進を歓迎しつつも「誰でも使えるようにしてほしい」と訴えている。【成田有佳、市川明代】>ということです。これだけ読むと一体どういうことかと思ってしまいます。
具体的には<都が改正するのは「建築物バリアフリー条例」。東京大会や高齢化社会で車いす利用者が増えることから、新築・増改築部分の床面積が1000平方メートル以上のホテルの全ての客室について、段差をなくし、客室の出入り口幅は80センチ以上、室内の通路とトイレや浴室の出入り口幅は70センチ以上にすることなどを盛り込むことにした。>客室出入り口と室内通路やトイレ・浴室の出入り口の幅が問題になっています。
支援団体と研究者が<基準に従って段ボールで客室を再現して実験したところ、手動車いすは通路から曲がって浴室やトイレに入ることができるが、簡易電動や電動の車いすは壁にぶつかって入れないことが判明した。>ということで、手動以外はダメということです。でも曲がってはいるなんてことは若い人なら可能でしょうけど、高齢者だと手動でも無理かもしれませんね。つまり曲がってはいる構造自体、よほど余裕をもたせていればともかく、どうかと思うのです。
そもそも国の基準(ガイドラインですが)では幅80㎝となっているのに不思議ですね。
<国土交通省が17年に改正したガイドラインは、バリアフリーに配慮した一般客室の設計標準をトイレと浴室の出入り口は原則80センチ以上、通路幅は100センチ以上としている。>
東京都の説明は事業者が現状を変えなくて済む点に配慮して素案を作ったようです。
<素案策定に関わった都政策企画局の本木一彦担当課長によると、基準はJIS規格の車いすの幅が70センチ以下であることを参考に定めた。入り口幅が70センチなら、多くのビジネスホテルで使われているユニットバスの広さのまま対応でき、ホテル側が導入しやすいことなどを考慮したという。>
しかし、これではバリアフリーというのは羊頭狗肉(false advertising)と言われそうですね。どうも東京都は大きくなりすぎたのか、聞こえのいい看板を打ち上げるのですが、中身を伴わないことが少なくないように思います。そういえば小池都知事について以前ブログで書きましたが、彼女のキャスター時代はすてきでしたと過去形にならざるを得ないかもしれません。
それはともかくここから本題に入ろうかと思います。長い前置きでした。まずはこの入り口幅の広狭は手動車イスならOK、簡易電動や電動の車イスはダメということで問題にされています。
手動で車イスを移動させる方は割合元気な方が多いでしょう。また上肢は健康な方ではないかと思います。でも下肢だけでなく上肢も不自由な方にとっては一人でのホテル滞在はこのような東京都の姿勢ではあきらめないといけないように思われます。
このような人はいろいろな支援を受けて、移動はもちろんさまざまな手を使うことが困難な中努力してようやく一人でも簡単なことができるようになったのだと思うのです。そういう人にとって、トイレや浴室(多くはシャワーかもしれません)を一人で利用する場合、ドア自体に手の不自由さを配慮したものでないと使えなくなる可能性があります。
私は以前、住宅建築で障がい者の立場でそのような問題を担当したことがあります。工務店は障がい者の不自由さを一般的には理解しようと努めたのだと思われますが、不自由さをきちんと具体的に詰めていなかったため、もの凄い数の不具合が生じました。
おそらく障がい者の人もまた十人十色の多様な不自由さをお持ちでしょう。それに応じるにはとりわけ住宅では個別的な対応が求められるでしょう。これは極めて繊細な作業でないと不適合になります。むろん建築基準法やバリアフリー法にはそんな配慮がありません。まさに建築士・施工者の腕の見せ所、プロとしての力量が問われるのかもしれません。
費用対効果といいましょうか、工事費用との関係がありますから、そのような配慮が必要だと当然その分費用がかかる一方、それを受け入れてもらえるようにするか、他の費用を抑えるといった代替案で見積もるなど工夫が必要でしょうね。
では、ホテル客室の話に戻すと、本気でバリアフリーを考えるのであれば、足は不自由でも上半身は健康なアスリートタイプの方を対象にしたのでは、海外からはもちろん国内でも評価されるはずがないでしょう。ホテル客室の例だけでなく、わが国の多くのバリアフリーは極めて限定的な対応にとどまっているように思います。ホテル客室にたどり着く前に、移動するいろいろなところで躓くのではないかと懸念します。
公共空間の動線にそった的確なバリアフリー措置を東京都が率先して行い、その上でホテル客室など特定施設についてその障害に多様に対応する措置を抜本的に高じてもらいたいものです。
ところで参考までに
国交省の<建築物におけるバリアフリーについて>
その中にある
東京都の<建築物バリアフリー条例>
を引用しておきますので、関心のある方は
相変わらず焦点の定まらない話となりました。はじめ書こうと思っていた内容がどうもピントがはっきりせず、ぼやっとなりました。
今日はこの辺でおしまい。また明日。
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