たそかれの散策

都会から田舎に移って4年経ち、周りの農地、寺、古代の雰囲気に興味を持つようになり、ランダムに書いてみようかと思う。

不動産の私的所有のあり方 <社説 持ち主不明地 増加に歯止めかけよう>を読んで

2017-02-27 | 不動産と所有権 土地利用 建築

170227 不動産の私的所有のあり方 <社説 持ち主不明地 増加に歯止めかけよう>を読んで

 

今日は一体なにを忙しくしていたのだろうと、夕方になってはたと気がつきました。あれやこれや雑務に追われ、整理しつつ、法律相談など来客対応で、とくになにもしたということもなく、一日が終わりそうです。ある訴状を書き上げるつもりが、まったく手もつけられず、その他もろもろも今日は残りの時間をブログに回して、明日がんばろうかと思っています。

 

さて今日のブログのテーマを何にしようか、この時間になって記事を眺めていても、ぴんとくるものがなく、社説をとりあげることがなかったような気がしたので、見出しの記事、どう扱うか、少しネットサーフィンして、まだ整理できない頭の中で書き始めようかと思います。

 

この社説では、持ち主不明地の増加を問題にしており、それが90年代初頭から顕著になっているとしています。不明地というので、土地を対象としつつ、空き家については空き家対策特別措置法が施行され、一定の条件で対策が講じられるようになったことを指摘しつつ、土地についても新たな方策が必要としています。

 

ところで、なぜ持ち主不明地が増大しているかは、はっきりとした理由が検討されていません。強いて言えば、所有者死亡に伴う相続登記が一部の調査結果で、11~30%となっていることから、相続登記がなされないことが要因の一つととらえているようにも見えます。

 

<問題の根っこには、人口減少と都市への集中がある。>と、人口流出という土地と人との関係の断裂といったものが地殻変動的に生じていることが問題の本質とみているようにも思えます。

 

この問題を簡単に一義的にとらえることでは実態を把握できないように感じています。一部の統計資料を取り上げたり、人口動態の推移をピックアップしたりするだけでは的確な情報とはいえないように思います。

 

といって私自身もこれだという情報を持ち得ていないので、批判のための批判をするつもりはありません。ただ、私的所有権のあり方について、そろそろ本格的な議論をしてもいいのではないかと、この所有者不明の土地を例にとって少し私見を思いつきで述べてみたいと思います。

 

上記の実態を反映していない相続登記の促進について、二つの取り組みが紹介されています。一つは<京都府精華町は、死亡届が提出された際、登記や社会保障などの手続きを併せて案内することで登記の届け出数が増加>と、<日本司法書士会連合会は、・・・転出によって住民登録が抹消された住民票の除票の保存期間を現在の5年からもっと長くすることで、所有者を捜しやすくなる>制度手直しを提言しているといいます。

 

それぞれ現状に即した、一歩前進というか、行政努力を図っているところでしょうか。しかし、私は、そろそろ私的所有権のあり方について、多様な・本旨的な変革が必要とされる中で、とりあえず所有地不明問題の解消という明確な目的のために(それは社説で指摘しているように将来の災害復興対策等重要なソフトのインフラ整備として不可欠という趣旨もあります)、いくつかの抜本的対策を考える必要があると思っています。

 

いま所有者が死亡した場合に、相続登記を義務づける規定はどこにもありません。不動産登記法は不動産所有権の権利移転(相続という一般承継も含め)について、登記を義務づける規定はありません。登記をするかどうかは権利者の自由に委ねています。登記法の精神は基本的には実態の変動、現状に適合するように登記されることですが、制度的にはその担保がありません。

 

ここからはあくまで相続だけ主眼として、検討します。人が死亡したとき、相続登記がなされない理由はなんでしょう。費用がかかるといった経済的理由は、相続登記に関しては特に軽減しているので、通常は考えにくいと思います。手続きが難解だという理由も、通常の核家族での死亡例であれば、だれでも簡単にできます。司法書士の手を借りるまでもなく、法務局の窓口は親切に書類作成に協力してくれます。そこは裁判所とはかなり違います(裁判官は法廷ではかなり一般の方からの訴訟進行には親切に対応しているのを見かけますので、裁判所が不親切というわけではありません)。

 

ではどんな場合に相続登記がされないのでしょうか。それは簡単にすべてを語ることができないでしょう。一つは、戦前の家督相続の場合は戸主一人が家の財産を全部相続する家督相続制でしたので、簡便でしたが、戦後の民主化で生まれた憲法の下で、民法は家制度を廃止し、平等思想に配慮しつつ、配偶者・子・親・兄弟姉妹の親族関係の中で、扶養関係をも加味しつつ、複雑な相続制度になったと思います。

 

そのような新しい制度を的確に学ぶ機会もなく、突然、相続分割といった問題に直面すれば、ときには容易に遺産分割がすすまず、放置されることもあるでしょう。農地や山林、湿地、池沼といった場合にはその利用価値の激減に伴い、関心が湧かない一方、適切な配分や利用方法の話合いの仕組みもなかなか確立しないまま、今日に到っているのではないかと思うのです。

 

それに加えて、地租改正は私的所有権が確立したと評されるのが一般の理解ですが、江戸時代以前に行われた検地が境界確認として有効でなかったと同様に、地租改正以降に行われた測量も大同小異で、現在かろうじて細々と実施されている地籍調査で確立するまでは、多くの境界は判然としない状態に置かれています。

 

先祖の所有地とされる登記が残っていたとしても、それがどこにあるか分からない、その境界がわからないといったことは山林では、相当数あります。農地でも最近は増えているでしょう。宅地・雑種地の場合は、地籍調査が進まない地域では、境界が画定しないことから、土地利用も放置され、空き家状態ないしはそうでなくても建替が困難なところもあるでしょう。

 

それぞれについて、個別に具体的な手法を、さまざまな専門領域の関係者、それは従来、業として専門に行ってきた士業に限るのではなく、より広い分野の知見・知恵を働かして問題解決の施策を検討すべきだと思います。

 

私自身は特別の有効策はありませんが、私的所有権の制限が基本だと思っています。一つは、相続登記の義務づけです。

 

現在の法令の中で、死亡したとき、相続の届け出という制度をとっているのは、唯一農地法だけではないかと思います。まず、同法3条の3を以下に挙げます。

 

(農地又は採草放牧地についての権利取得の届出)

第三条の三  農地又は採草放牧地について第三条第一項本文に掲げる権利を取得した者は、同項の許可を受けてこれらの権利を取得した場合、同項各号(第十二号及び第十六号を除く。)のいずれかに該当する場合その他農林水産省令で定める場合を除き、遅滞なく、農林水産省令で定めるところにより、その農地又は採草放牧地の存する市町村の農業委員会にその旨を届け出なければならない。

 

これは耕作放棄地対策の一つとして、最近の「大」改正で生まれた制度ですが、あくまで権利移転が合った場合の届け出義務ですし、農業委員会に対して行うだけです。しかもこの義務違反があっても以下のとおり過料の制裁に過ぎません。

 

第六十九条  第三条の三の規定に違反して、届出をせず、又は虚偽の届出をした者は、十万円以下の過料に処する。

 

農家を代表する農水省が立案する農地法改正ですから、農家から不満や抗議が出そうな改革など到底無理な話です。いや農業族といわれる政治家が許さないでしょう。

 

ついでにいえば、農水省は、この相続の届け出もお願い調でしか、農家に求められないのです。それが現在の農業行政の実態でしょう。

 

耕作放棄地40万haといわれる(この数字は長年同じで実態調査は的確にやられているとは思えません)農地ですら、この状態ですから、なんらの相続届け出義務のない、山林や宅地などは一切、それぞれの自由に委ねられています。

 

しかし、全国に利用されない建物(空き家でなくても)、利用されない宅地、これらはいずれも荒廃状態ではないでしょうか。同様に、農地・山林の荒廃状態は惨憺たるものです。それでいて、再開発だとか、いろいろなイベント事業のための開発ラッシュ?、新たな宅地造成、マンションや戸建て住宅の新たな建築は増えています。利用しようと思えば簡単に利用できる既存の宅地を、権利関係が不明だとか、境界が不明だとかを理由に、はっきりしているところで新たな開発がどんどん行われています。

 

放置された宅地、農地、山林は、負の遺産として残り続けます。それはだれのせいか、考えてみませんか。所有者が所有者として果たすべき義務を果たしていないといえないでしょうか。

 

空き家対策特別措置法は、限定された条件の下、所有者の権利を制限し、あるべき所有の方法・利用の適正化を求め、行政の所有者に代わる役割を積極的に認めました。

 

同様に、土地自体についても、まずは相続登記や境界確認という割合、権利侵害の少ない領域で、その義務化を進め、一定の条件の下、行政ないし第三者機関が代替して行うことを考える時期に来ているように思うのです。

 

話が飛びますが、班田収授法は私有地をなくし、全国を国有地として全員に土地を付与して耕作させて、租税収入を得ようとしましたが、荒廃した土地だったり肥沃でない土地だったりすると、負担に耐えられず逃亡したり放棄したりで、100年程度で自然に崩壊したのではないかと思います。

 

地租改正以降の私的所有権も、江戸時代までに醸成しつつあった私的所有概念を破壊し、無理な家制度の導入や、戦後も極端な個人的所有権とアンバランスな農地法・森林法や都市計画法・建築基準法などの土地利用規制とがあいまって、適切な私的所有権概念が日本人の中に意識化できないできたように感じています。

 

個人の努力や自由意志に委ねるのでは、かえって私的所有権の適切な利用を阻害することになりかねないと思っています。

 

その意味で、繰り返しますが、相続登記手続きの義務化については、より簡便に行う制度設計がまず必要ではないかと思います。住民票の保存期間延長や除籍謄本などの入手方法の簡便化などは些末な対応ですが、これも無視できないと思います。まずは相続制度の簡易なあり方や、遺言制度を含め生前に行う相続仕組みの普及・円滑化が必要ではないかと思います。それはある意味、相続の意識化と、その準備のための権利関係の確認・調整を前倒しすることに繋がると思っています。

 

もう一つは、地籍調査です。より簡便な方法を多角的な角度で行う仕組みが必要でしょう。AI機能を活用するのも検討してよいと思います。そして土地の種類に応じて、境界確定の手法を簡易化したり、GPSなどIT技術で大きく代替するのも一つではないかと思います。

 

むろん既存の制度枠組みを大きく変えない工夫をして、私的所有権のコアを保障しながら、現在の不明所有地問題解消の早期解決という公共の福祉、公益に合致する範囲で、その整備を本格的に検討する必要を感じています。約1時間半書きまくりました。勝手な意見ですが、またいつか整理してみて、より実現性のある提案ができればと考えています。


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