長時間労働・疾病・過労死を考える
一昨日のBSフジ・プライムニュースで、「『過労死』なくせるか?心のストレスと自殺」を取り上げていました。
登場者は、80年代後半から過労死110番を立ち上げ問題に取り組んできた川人博弁護士、この種の問題を日常的に医師として取り組んで来られ、「メンタルヘルス入門」、「セルフケアガイドブック」などの著作で実践的な解決の道を提案する産業医の桜澤博文氏。そして厚労大臣時代に、過労死等防止対策推進法を成立に導き、ブラック企業という名称を正式に呼称して世の中に警鐘を訴えた田村憲久氏。
最近も毎日新聞2016年10月14日 東京夕刊で、電通の新入社員が入社して8ヶ月で自殺したが、これが過労死として労災認定を受け、東京労働局等が強制調査に着手して、36協定では70時間となっているのに、これを超える超過勤務の実態を確認し、是正勧告の方針を示していると報道されました。しかも亡くなった女性は、過労死ラインとされる月80時を超える105時間の時間外労働であったとされていますが、遺族代理人の川人氏は最長月130時間であったと指摘しているとのこと。
電通は花形企業ですが、過去にも前歴があります。毎日を含め報道各社は継続してこの問題を追及しています。以前も他の著名企業で問題となった、法規を逸脱するため、サービス残業や労働時間の偽装も関連して問題になるかもしれません。
このような最近の事情を背景に、番組はこの3名にいくつかのテーマを取り上げて議論ししてもらいました。過労死や精神疾患を招く長時間労働を防ぐにはどうしたらよいかという点について、川人氏は、現行労働基準法が8時間労働、36協定が一定の上限(過労死ライン月80時間)をもっているのに、その違反をきちんと取り締まる監督官が少なすぎ、その増加を主張し、法執行の問題を取り上げていました。
産業医の桜澤氏は、長時間労働に至る要因として、過去の経済成長期の長時間労働の前提が異なっているのに、その慣行意識が残存していることに加えて、パワハラ、セクハラなどのを含むさまざまな圧力があること、企業内でメンタルヘルスを適切に指導する産業医が少ないこと、産業医を雇っている企業自体が少ないことなどを問題として指摘していました。
田村氏は、自民党として過労死防止対策大綱(この表現は正確でないおそれあり)で、次の目標を掲げ、問題を解決に取り組む姿勢を示しました。
週労働時間60時間以上の労働者の割合 5%以下
年次有給休暇取得割合 70%以上
メンタルヘルス対策に取り組む企業等の割合 80%以上
このような議論は、たしかに一歩前進をそれぞれ語っているように思います。ただ、本質的な解決はなかなか容易でないことも看取できます。
ところで、欧米人の働き方、相当違うように思うのです。むろんCEOなどトップマネジメントの担い手は、24時間、自分の判断でコントロールしながら、労働というのか仕事をしているでしょう。でも一般の事務労働者も工場労働者も、労働時間が短いことは長い間言われてきたことです。
私自身、カナダに2年ほど滞在しましたが、通常、あらゆる職場で午後5時前後になると、ラッシュ時間になり、帰宅を急ぎます。そして夕食を食べた後、再び繁華街などに出て、劇場や映画を楽しんだりしている風景を不思議な感覚で見ていました。休暇も、私の関係していた研究所では、研究員がそれぞれ3週間程度、自分の好きな期間を選んで、研究者同士で日程の調整をしていました。
日本にもさまざまな雇用形態が増えてきたとはいえ、長時間労働は当たり前という意識がまだ根強く残っているように思うのです。
労働という言葉は、マルクス・エンゲルスが指摘したように、また、維新時のイギリスの産業革命下の労働が拘束された、自由な時間を奪う、人間性を奪う、そういう性格をなかなか超越する労働環境や意識を作り出すことができていないのではないかと愚考します。
維新前の日本人は、好きなときに働き、異邦人からみたら怠惰このうえないと見た人もいると言います。他方で、とりわけ職人は自分が気に入るまで作業を止めない、百姓もそれぞれですが、その職分に自負を抱き、土地というものを徹底的に有効活用するため、土日もなく、朝から晩まで農作業をしても、辛い意識を抱かなかったとも言われています。ある意味、それぞれが身分にとらわれず、自分なりの生き方を楽しんでいた、だから、異邦人や他人に対しても、礼節と優しさを自然に提供できたのではないかと夢想してしまいます。
かなり脱線しましたが、近世日本の村社会や百姓、そして武士を含む身分制との関係については、最近の研究では、従来の教科書の紋切り型の描写を大きく変える内容が明らかにされつつあるように思います。
もう一つ脱線すると、人工知能(AI)とスパコンの活用が今後飛躍的に発達し、長時間労働する機会が減少するなど、労働力不足にも対応するとも言われています。ただ、AIは、チェス、囲碁などの世界No.1にも勝つ時代です。現在、知能労働といも言われる、行政書士、司法書士、弁護士、会計士、医師などあらゆる業態の仕事がとって代わる時代もあり得るかもしれません。むろん現在、ホームページでのこの種の情報は大量に流れていますが、いくら量が多くても、人やケース、人間の機微などに対しては、ほとんど対応できないものです。ところがAIとスパコンが高度になれば、そうはいっておられないかもしれません。未来は夢か、幻か、私の生きている時代には、見ることができないでしょうが。なお、あのスパコン「京」の数倍がもう一般で、現在はその100倍あるいは1000倍のスピードが開発目標だそうです。どうなることやら。
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