芸能界の大御所・加堂孝次郎の箱根の別荘で十四人の賓客を迎え、華麗な晩餐会が開かれようとしていた。その中に浅見光彦と幼なじみ野沢光子の当惑した顔があった。実は二年連続して不審な死亡事故が起きているのだ。果たして男優の永井智宏が何者かに毒殺された。いよいよ連続殺人劇の序曲が始まる!!裏表紙より。
元の本は1987年7月(祥伝社)。
名門の落ちこぼれのお坊ちゃんが鮮やかに事件を解決する有名シリーズ。
第一章 誰かが誰かを殺してる大御所・加堂孝次郎のパーティーにお呼ばれした一流芸能人たちの様子から。
・・・どいつもこいつも程度の差はあれろくでもない。フィクションです。
そしてそこには、パーティーで2年続いた不審な死(警察は病死と事故扱い)を心配した加堂孝次郎に警護を依頼された主人公・浅見光彦の姿もありました。
「ひどいもんだな。女っていうのは本質的には残酷だという説があるけど、まったくだね」ああ、これ当分結婚しないわ光彦。
「そうよ、思い込んだら何を仕出すか分からないんだから。感情の昂ぶり次第では、それこそ殺人だってやっちゃったりするわよ」
「怖い怖い・・・・・・」
浅見にとっては、このまるで住む世界の異なる連中の、複雑怪奇な言葉のやりとりや、はたまたしんねりむっつりの無言劇には、興味を通り越して感動すら覚えた。一流芸能人の『やりとり』にはドン引きですなぁ・・・フィクションです。
「ねえねえ、こえれはいったいどういうことなの?」
光子も瞳を輝かせて浅見にささやいた。
「見たとおりだよ。この顔触れでひと悶着起きなかったら、世界中から戦争がなくなるだろうね」
浅見は、万華鏡を覗く少年のように、好奇心と期待に胸を弾ませていた。
常連によると、どうも今年のパーティーは客もスタッフも少なすぎるらしい。
主催の加堂孝次郎が現れないまま、とりあえず始まるパーティー。
第二章 開幕ベルは鳴らなかった
浅見が怖れていた殺人事件は起きてしまったのです・・・。
とにかく外部に知らせないと!
ところが・・・
「あ、あの、車が、車がありません」『事件のことより』て、おいwww
「車がないって、うちの車、ベンツだけど、じゃあ山口のやつ、どこかへ行っちゃったのかしら?」
「いえ、そうではないのです。永井様のお車だけでなく、皆様の車が全部、なくなっているのです」
「えっ? それじゃ、僕のソアラも?」
浅見は驚いた。まだローンが二年と八ヵ月も残っているソアラだ、事件のことより、ソアラの行方ほうが気になる。
こういう庶民的な部分があるから脱力して読みやすいんだろうなと思う。
第三章 ひょうきんマンの死浅見光彦(33歳独身)。
結局、浅見だけが一人部屋ということで、あとの六組はペアが成立した。光子が「大丈夫なの?」と目顔で訊いた。
正直、人一倍怖がりの浅見としてはあまり大丈夫な心境とはいえなかったが、やむを得ない。
まあトイレは室内にあることだし、現れるのは幽霊より殺人鬼のほうらしいから、なんとか抵抗のしようもありそうだ。
・・・本当に頼りないな!
「さすがの名探偵も、困ってるみたい」そして困惑している内に次々と事件が・・・。
「ああ。登場人物が皆、芝居がかっているからね。言ってることもやってることも、どこまでが本当で、どこからが虚構か見分けがつかない」
第四章 帝王死すはたして浅見は真相に辿りつけるのか・・・!?
「こんなふうに、どんどん人が死ぬなんて信じられない。まるでホラー映画かサスペンスドラマを観ているみたい」
「ドラマか・・・・・・なるほど・・・・・・」
浅見の瞳から充血の濁った色がスーッと消え、いつもどおりの、何事も見通さずにはおかない、鋭く怜悧な眼差しに戻った。
浅見光彦シリーズとしては異色作だとおも・・・っていたら・・・
自作解説作者が認める問題作でした。
内田康夫
さて、この『終幕のない殺人』ですが、この作品は僕にとって、ある意味での問題作といっていいと思います。お読みになった方も「あれ?」と首をひねられたのではないでしょうか。実際、いつもの僕の作品とは、いささか以上におもむきが異なっています。まるで別人が書いた作品のように思えないこともありません。書いた本人がそう言うのですから、たしかです。
しかし誤解しないで頂きたい・・・『問題作』であって「失敗作」ではないのデス。
こういうのも対応できるんだーという「浅見光彦」の汎用性が感じられる作品。
「いつものが好き」を超えて「いつものじゃなきゃヤダ」って人は、
作者に抗議文を送りつけかねないので注意が必要。