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アンチ・ドーピングについて考える(2)

2013-01-16 06:54:25 | ドーピング問題

 ここで、今一度ドーピングの歴史を振り返ってみましょう。
 「ドーピング(doping)」の原語である「ドープ(dope)」の語源は、アフリカ東南部の原住民カフィール族が祭礼や戦いの際に飲む強いお酒"dop"とされています。これが後に「興奮性飲料」の意味に転化し、さらに「麻薬」という意味でも用いられるようになりました。
 英語の辞書に「ドープ」が初めて載ったのは1889年のことで、「競走馬に与えられるアヘンと麻薬の混合物」と説明されています。つまり、この当時のドーピングの対象はヒトではなく、ウマでした。いずれにしても、「薬物を使用すること=ドーピング」というわけです。
 一般的にドーピングとは競技に勝つために薬物を使用することと考えられていますが、実際こうした意味でのドーピングの歴史は古く、既に古代ギリシャ、ローマ時代の勇者がコカの葉を噛んで競技に出場したといわれています。これは競技力の向上というよりも、幻覚作用などを利用して精神の高揚を図り、命をかけた猛獣との戦いの恐怖から逃れるためにドーピングをおこなったのでしょう。また、同じような目的の麻薬使用は宗教儀式にもみられます。現在でも、中南米やアフリカの土着宗教・呪術(例えば、ヴードゥー教)に麻薬が重要な役割を果たしているとされています。
 麻薬というとまず「薬物常用」「薬物乱用」といった犯罪行為が思い浮かびます。医学的に必要のない不正な薬物使用という意味で似通った点はあるものの、これらの場合には「Doping」ではなく、通常「Drug abuse」と呼びます。スポーツ競技における不正な薬物使用を特に「Doping」と呼んで区別しているのです。
 今日、ドーピングとして禁止される行為は麻薬どころか、薬物使用にも留まらない範囲に規制が拡がっています。「Doping」と「Drug abuse」の区別には、そうした点でも実際的な根拠が生まれてきました。
 世界アンチドーピング機構(WADA)は、使用を禁止するドーピング物質や行為をリストとして公表していますが、これをご覧いただくと分かるように、歴史を重ねるごとに「ドーピング」の意味する範囲が拡がっているのが実態です。
 元々は麻薬・興奮剤の使用といった限られた定義からスタートしたわけですが、1960年代から筋肉増強剤である蛋白同化ステロイドが使われはじめ、それも合成ステロイドから天然ホルモンの使用へと"進化"しています。つまり、この時点でドーピング行為の禁止対象が(化学合成した)薬物ばかりでなく、生体に元来存在する天然物質を含むようになったのです。
 今日では麻薬のような習慣性薬物の弊害が知れ渡っているため、それらが理由で処分を受ける例はたいへん少なくなりました。むしろ、総合感冒薬を飲んでいたために、その成分の一つエフェドリンが検出されたというような「うっかりミス」が懸念される状況です。
 単なる「うっかりミス」ではなく、選手本人やコーチング・スタッフが不正を承知で薬物を使用する場合は、手段がより巧妙化しています。例えば、同じ筋肉増強剤でも合成ステロイドなら選手から検出された時点で申し開きの余地なく「不正行為」と判断できますが、天然ホルモンを使用されると不正を証明することははるかに厄介となります。なかには「限りなくクロに近い灰色」というケースもあります。ただし、もっとも「灰色」の選手は以後マークされることが多く、最後まで不正を隠し通せる可能性は低いといえます。 
 さらに、不正な薬物使用を隠そうとして利尿剤(ドーピング検査の材料となる尿の量を多くして、禁止薬物の濃度を薄めてしまう)や再吸収促進剤(禁止薬物が尿に出ていかないようにする)、その他の隠蔽剤(禁止薬物が検出されるのを化学的に妨害する)などを用いる企ても明らかになり、禁止行為とされました。これらは直接に競技力の向上に結びつく薬物ではなく、「本命」の薬物から目を逸らすように仕向ける「影武者」のようなものです。つまり、ドーピングの事実を隠すために別のドーピングを行っていることになります。
 薬物以外のドーピング行為の一つに「血液ドーピング」と呼ばれるものがあります。これは競技直前の輸血によって赤血球を意図的に増量するもので、持久力を高めることを狙いとしたドーピング行為です。その後、エリスロポエチン(EPO)や、人工酸素運搬物質(人工ヘモグロビン、フッ化炭素類)のように、血液を材料とする検査の方がより効果的に検出できるドーピング物質が増加してきたため、IOC医事委員会は2002年のソルトレーク市オリンピックで初めて血液検査を導入しました。その結果、アルペン距離競技に参加した3人の選手が陽性と判定されて失格したことはすでに報道された通りです。
 さらに理論的可能性として欧米で議論されているのは「遺伝子ドーピング」です。科学物質を用いるこれまでのドーピングに対して、将来はスポーツ界でも遺伝子操作が問題になると予想されています。

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