おととい、21日、ロシアでは大統領による議会報告が行われた。プーチンのスピーチの内容は8割、9割は当然国内の方針の話でそれはそれで興味深いが、残りの国際関係の部分についての言葉も今週はとりわけ重要だった。
Presidential Address to the Federal Assembly
この部分。政治的動機に基づく勝手な制裁の乱発に皆が慣れ切っていることにふれ、続けてこういう。
しかし、今日、この慣行はさらに危険なものに変質しています。私は、クーデターを組織し、大統領を暗殺しようとした、最近暴露されたベラルーシでの直接的な干渉について言っています。
同時に、そのような激しい行動でさえ、集団的に言ういわゆる西側では非難されていないのが通例です。誰も気づいていないようでしたし、誰もが何も起こっていないふりをします。
But today, this practice is degenerating into something even more dangerous – I am referring to the recently exposed direct interference in Belarus in an attempt to orchestrate a coup d’état and assassinate the President of that country. At the same time, it is typical that even such flagrant actions have not been condemned by the so-called collective West. Nobody seemed to notice. Everyone pretends nothing is happening.
ベラルーシでの事件は、ロシア圏内では治安当局が撮ったビデオがテレビ報道され、どういうことが起きようとしていたのかが周知されている。
ルカシェンコを、軍事パレードの最中にイスラム過激派に殺されたエジプトのサダト大統領のように殺そうというプロットだったらしい。言うまでもなく、狙われていたのは5月9日でしょう。
で、これは単体ではなく、
・ベラルーシでルカシェンコと家族暗殺によるクーデター
・サイバー攻撃でベラルーシのインフラ破壊、混乱
・NATO(or 米)、黒海からベラルーシ救援
・ウクライナ、ドンバスを攻撃、流血の惨事
・グルジア、オセチアで騒動を起こす
・ナワリヌイがプーチンに殺される~、のメディアの騒ぎ
・ナワリヌイを助けろ、というロシア国民の大規模デモ
と、全体が連動していたのだろうという観測が出回ってる模様。
つまり、拡大マイダン、みたいな感じでしょうか。
そして、これが成就された暁には、西側メディアが、長年のプーチン支配に対する不満が鬱積したことから、ロシアでは国民からの反発で混乱が広がっています、とかなんとか書くはずだったんでしょう。
ところが、ベラルーシ関係者が逮捕された。おそらく、そのプロットのために動いているネットワークの全体がある程度把握できたから、逮捕となったんでしょう。
流れから見ると、多分、ロシア当局の動きがわかったために、黒海への米艦船の派遣は見送られたって感じなのではなかろうか。つまり、失敗したから出なかっただけ。
ウクライナ:黒海航海キャンセル、サミット失敗、おバカ丸見え
こうやってみれば、ナワリヌイというどうでもいい人が勝手にハンストして死にそうとかいう話がなぜまた急に出てきたのかもわかりますね。ロシアで大変なことが起きている、というムードが欲しかった。
そんなにナワリヌイが心配なら、まず飯を食えとなぜ言わないのだという、実に馬鹿げた事態だった。あはははは。
ナワリヌイは実際には、ロシア当局が刑務所で医者に見せてる模様で、別に死にそうではないみたいだ。
で、これによって、ロシア当局は事件に関連した、外国資金の入ったNGOだのなんだのの取り締まりを本格化させるでしょう(ようやく!)。また、この間書いた制裁の中で何人かのアメリカ人がロシアへの入国禁止になっていたように、関係者の接触も難しくなることが見込まれる。
さらに、ロシアとベラルーシの連合国家構想の中で共通ルールができるだろうから、同じ措置が取られていくものと思う。
ということで、ウクライナとポーランド+B3あたりは引き続き、アホの巣窟として猖獗を極めるとしても、西側はベラルーシを失った、って感じか。あきらめないだろうけど。
ウクライナ周辺での兵力の集合は、大規模演習は滞りなく終わりましたとロシア国防相が発表している。通常に戻るでしょう。
Defense chief ends large-scale drills in Russia’s south after goals achieved
■ 大使がいない米ロ関係
で、騒動はいったん下火にはなったものの、実のところ米ロ関係はマジで冷戦時代でもなかったほど、関係がこじれてる。まぁ西側はロシアを跪かせるまで頑張るんでしょうか。
この間、表の派手な動きの影であんまり注目されていなかったと思うけど、駐ロシアの米国大使は、帰国するよう示唆された。
ペルソナ・ノングラータの指定こそしないものの、その2歩ぐらい寸前の措置だと思う。示唆したと言われている(ラブロフが他国での会談でそう話したらしいので確定的だとされている)のは、ロシア大統領府の顧問の人なので、これは大統領の意思。
US envoy to Moscow invited to meet Kremlin aide
そして、駐ロシアの米サリバン大使は、帰らないと言ったが、ロシアの態度は変わらず、結局、サリバン大使は昨日帰国することになった。理由として、家族に1年も会っていないことだし帰国するが、数週間のうちに戻る、といって帰国の途について、現在はワシントンに到着した。
US ambassador to Russia John Sullivan arrived in Washington
このいちいちが、ロシアの報道に出ていた。米大使、公邸を出た、空港到着(帰国する)、ワシントン到着、といった具合。
他方、駐米のロシア大使は、バイデンがプーチンをkillerと言った一件で、本国と相談のためという理由でモスクワに呼び戻されている。
これは一体何なのか。サリバン米大使が、今般の他国の政権転覆を狙ったほとんどテロリストまがいの出来事一切を知っていて見過ごしていることに対するある種の懲罰だろうか。本来ならペルソナノングラータに指定するところ、それは事態を悪化させすぎるので自主的に帰らせた、と。
しかし、この人は前任者のように明白な活動家タイプの大使のようには見えない。そして指名したのはトランプ政権なので、現在の西側の「他国侵入による革命教唆」勢力の一味ではないのではなかろか・・・。であれば、逆に、監督不行き届きになったであろうことは推測できる。
ロシア側から見れば、お前じゃ話にならん、ってこと。だから、本国に帰ってお前んところの政策を確認してくるがよかろう、という措置を取り、全体として、大使の交換を止めて、事態は通常ではないと我々は認識しているということを示したのか。
サリバン大使が、家族に云々と言い残しているはその逆であるという意図なのか。私は事件が会ったから帰るのではない、大事件があったとは認識してないということを示した、と。
しかし事件は起きてる(笑)。やっぱり監督不行き届き、お前じゃ権限ないだろう、という線か。
ただ、現状、大事件なのはベラルーシであってロシアではないという解釈もできる。ロシアは、しかしながら、そうは思ってない。ロシア全体を崩しに来てると思ってる。
ここらへんに綾があるのかもなぁ。
ロシアは、連合国家としてベラルーシとは一体であるという態度を取るため、ベラルーシへの攻撃は我が国への攻撃と同等と見なす、だからお前と俺は交戦中のような関係だ、大使交換(一定の友好関係)どころではないのだ、と示す。
逆に、米は、ロシアとベラルーシはあくまで関係のない2国なので、同一視させることはできない、ロシアと米は普通だと主張してるつもり。しかし、大統領がkillerとか言い出してて意味不明な制裁をかけてくるわけだから、対ロ関係だって普通じゃねーんだよ、実際、ということ。
わかりません。でも、いずれにしても、冷戦中にもなかった事態になっていることは確か。
■ 核心
どうあれ、根本的に問題なのはNATO東方拡大。
NATOが今後も東方に拡大する気なら、それはつまりロシア領への侵略を明言しているようなものなので、事態が正常なわけもない。やっぱり、話し合うしかない。だが話し合いたくない西側、ってところ。
何度も書いてるけど、こここそ話の核心。
NATO東方拡大:ゴルバチョフはマジで約束されていた
ロシア分割・弱体化を望んだ西側の賭け
制裁された報復に制裁しかえしているロシアさん。今回は、在ロシアの米大使館を標的にしているっぽいです。
その中の一つとして、米大使館はロシア人を雇用できない、とした模様。第三国人もダメ。アメ人しか雇用できない。
CIAとかが勝手に入ってきて国内を移動していたところも外交官以外とみなされ、禁止される模様。
NGO等にもいろんな制限が付き、米によるロシアでの「活動」がしにくくなっている、というより、追い出されているという感じ。