読売がバカなことを言っていた。
見出しだけ見ると、協議を続けよと見えるけど、
北朝鮮の非核化 米朝は協議再開の環境整えよ
https://www.yomiuri.co.jp/editorial/20190316-OYT1T50272/
中身を見ると、
北朝鮮がこうした行動を改め、段階的な非核化の見返りに制裁解除を求める戦術を転換しない限り、交渉の進展は見込めまい。
米国は、北朝鮮が完全な非核化に踏み出すまで制裁を緩めない方針を維持しつつ、外交的な働きかけを続ける必要がある。
北朝鮮だけ裸になれ、あとはガーダッフィ―になるのを待つばかり、という話でしょ、これ。
この下品さ、そして愚かさ。北朝鮮が丸裸になるまで制裁を緩めず、それでどうやって外交的な働きかけができるわけ? まるっきりアメリカのネオコンそのもの。
アメリカのネオコンの思考回路は脅せば相手は必ず引くというというもの。これしかなく、これを異常なまでに堅持することで、失敗しても失敗してもまた同じように脅してくる。このへんはロシアがらみを見ている人の中では有名なある種の公式。
従って、相手とすればそれを読み切って、対応を考えればいい。ある意味簡単。単にネオコン/介入主義者は手段を択ばず出て来るから危険は伴うのでそれにも用心しましょうとなるだけ。
■ まさしく戦後体制のお話
でもって、そもそも日本とアメリカは北朝鮮と国交のない数少ない国のうちの2つなわけで、できることは限界があるでしょう。
緑が北朝鮮と国交のある国。日本とアメリカ、サウジアラビア、イスラエル、フランスなど少数が国交を樹立していない。つまり北を国家承認していない。
何度も同じこと言ってますが、結局この問題は、冷戦終結後に、日本と一部南朝鮮が、東ドイツを亡き者にした西ドイツのマネをして、北朝鮮を亡き者にして南主体で統一させようとしたが、できませんでしたという話だと思うな。
このへんでまとめた話。
南北が協力して日本の責任を追及すべき by 南北
で、なんで東ドイツを亡き者にした西ドイツのマネをしたかったかというと、日本にとっては、北朝鮮を存続させると、1945年に終わった戦争の帰結を直視しないとならないからではなかろうかというのが私がたどり着いた考え。
東西挟み撃ち体制が見たくなかったらしい
朝鮮半島、中国東北部(満洲)というのは、ソ連軍が侵攻したことによって「解放」された。アメリカが日本に勝ったので自動的にそうなったなんて話ではない。
そして、大日本帝国はナチスドイツと組んで東西からソ連を攻めていた。だから東京裁判における審議でも、「対ソビエトの日本の侵略行動」の章が存在する。
しかしそれらを加味して公式の歴史を書くと、日本は大ざっぱにいえば、海では米に、陸ではソ連に負けたことになると認めないとならない。
そうすると戦後処理においてソ連と協力的な態度をどこかで取らないとならなくなる。それは日本を独り占めしたいアメリカにとっても、アメリカ様にだけ占領していただきたかった日本の支配層にとっても面倒になる。
そこで、ソ連を悪者にする必要性が生まれる。そこに丁度よく朝鮮戦争が起こった。
というより、これは作った戦争ですね。内戦をしているんだから両方が全土は自分のものであるという主張を持っていた。そこに、南の言い分だけを聞いて国連軍を作って朝鮮に進軍させたのはアメリカ。
ソ連はこの行動を批判したが国連を握ってるのは数において西側なので抵抗できなかった。
日本の右派がここ何年か、いいですか、ソ連は拒否権があるんですよ、それなのに朝鮮への国連軍に拒否していない、それは冷戦が八百長だったからですとかなんとか言ってますが間違ってる。というか、この人たちは知ってて嘘をついている。
・ソ連は、1950年1月以降、前年に建国した中華人民共和国を中国の代表しろと主張して入れられず安保理をボイコットしていた。
・1950年6月65日 38度線突破。
・1950年6月27日 安保理、北朝鮮弾劾・武力制裁決議に基づき韓国を防衛するため、必要な援助を韓国に与えるよう加盟国に勧告(国連決議84)
・1950年7月4日 ソビエト、米国が軍事介入を進めることに抗議。(米国の情報は韓国側のばかりだ、北朝鮮は国連に入ってないから言い分を聞かれてない、そもそも内戦なんだからこんな軍事介入は国連憲章の想定外)
・1950年7月7日 国連軍結成、投入
・1950年8月が常任理事国の主催の当番にあたったためソ連再登場
・1950年9月 仁川上陸作戦
・1950年10月 ソ連の拒否権を封じるために、ジョン・フォスター・ダレスの策略で、新たに「平和のための結集決議」という決議方法を導入。
特別緊急総会において出席者(加盟国代表)の3分の2以上の賛成があれば、平和と安全のために措置を勧告することができる。 平和のための結集決議
という代物。結果的に朝鮮戦争では使ってないが、ソ連の拒否権を回避するために作ったことは明白。普通にこれは公知。
United Nations General Assembly Resolution 377
いつものように日本語版は雑だが、ともあれ一応ある。
という成り行きで、ソ連がいたら6月、7月の動きは拒否権を使われて成立させられなかっただろうと米国は考え、だからこそ継続中の戦争のために平和のための結集決議なるものを拵えただろうと考えられている。逆に考えれば1月からボイコットしていたからこそ事件が起きたと考える余地もあるのではなかろうかと思ってみたりもする(ここまで行くと陰謀論的かもしれないわけだが)。
多分、アメリカがあんまり、北が悪い、北が悪いと最近言ってないのは、南北合わせた朝鮮との今後の付き合いにとって、つつくとむしろ不利、少なくとも面倒だと思ってるからなんじゃないかと思ってみてる。上でも書いた通り、ソビエトのクレームはだって、それなりに合理的では? だって、どうして内戦にいきなりフル稼働で強い軍隊が出て行って北を粉砕する必要があるの??? 最初の決議が北朝鮮をaggressor(侵略者)と決めつけるというのも、内戦の当事者に侵略者もないものだと思うわけだが。
そういえば、トランプにしても、南は金持ちになった、自信を持て、北の体制なんかよりずっといい、みたいなことを言っていただけで、そもそも北朝鮮が悪いから南北が割れたのだとは言ってなかった。パット・ブキャナンあたりの冷戦期がピークだったおじいさんたちは、折に触れ、我々は南を北から守ったのだという点を力説するのだが、どうもアメリカの読者がそこで、そうだーー、となっている風には見えない。どういう機序でそうなったのか不明だが、一つには、朝鮮戦争での米主体の国連軍による朝鮮人の殺しっぷりが物凄いことが地道に知られたため、到底自慢できる感じがないというのは大きいように思う。にもかかわらず勝てもしなかったわけだし。
■ ツケは大きい
で、真面目に思うわけだが、東ドイツを潰して西ドイツがドイツ全土を乗っ取った形式を朝鮮に当て嵌めたいと思うのが韓国人ならまだ理解しないでもないが、それを日本人が真剣にやっていたようだ、というのがこの問題の馬鹿げたところではないのかと思う。
どうしても自分が朝鮮半島、あるいは朝鮮半島から満洲にかけてを支配していい、そうすべきだという思いこみが抜けない人たちがいるんですよ、日本の中には。朴政権との間で締結した日韓基本条約の隠れた狙いも日本の影響力の保持なんじゃないかと疑ってみてもいいと思う。当時、両国民が納得していないし、中身を知らされてもいないこの条約に反対した人たちがいたことを現在は忘れられている・忘れさせられているのがその証拠かもしれない。
しかし、いずれにしても南の朝鮮の人、つまり韓国人は知られる限りずっと、戦争やって北を潰そうとか思ってる人は少数派であるように見える。
そうであるのなら、日本の一部に巣くった邪なる一派の欲望は最初から勝てる見込みはなかったというべきなんじゃなかろうか。
にもかかわらずこれをごり押ししたため、各方面に無理が来ているって感じが今でしょう。
国内的には、社会党を潰しにかかった大きな理由は、社会党左派と自民党リベラルの一部が北朝鮮と太いパイプを持っていた、シンパだった、ってことなんでしょう、多分。
だから、拉致問題が確定した時、なぜだか真っ先に社会党叩きが始まった。これは傍観者だった私には違和感満載だった。だって戦後政治を担ってきたのは自民党であって社会党ではないんだから、社会党だけ叩くってフェアじゃないだろう、だったから。
しかし、北朝鮮を潰そうという話の一環として考えるのならば理解できる。
理解はできるが、評価としては、実に愚かしいとしか思えない。
ということで、読売がいくら叫ぼうが、日本の強硬路線が好転する兆しはないと思うな。
■ オマケ
元外交官の天木直人さんの見立てが、まぁまぁピントがあってる気がする。
北朝鮮の外務次官のひとことで攻守逆転した米朝非核化交渉
http://kenpo9.com/archives/5742
わずか一日で攻守逆転した米朝非核化交渉(続)
http://kenpo9.com/archives/5748
しかし読売&米の一部が大慌てしているのは、北の外交官の一言だけでなく、それと連動して北朝鮮が外交団をロシアに派遣し、ロシアが連邦外務委員会を北朝鮮に派遣し、といった外交的な協調関係が存在するからでしょう。
北朝鮮:米国との非核化協議中断を検討&朝露間交流
Federation Council delegation arrives to North Korea
http://tass.com/politics/1048971
今年はプーチンが4月に中国を訪問し、年後半には習近平がロシアを国賓訪問するというスケジュールも念頭に置くべきかも。その間、G20で日本に来るというのもある。
この2人は、会い続けることによって、関係が崩れていないことを確認し、アピールしてるわけですからね。ロシアと北朝鮮が、と考える際に、中国は違う動きをするかもと考えるのはもはや意味がないと思う。