クリスマスだというのに、というかクリスマスだからなのかロシア南部ソチの沿岸で航空機が落ちた。シリアに向けて、有名な軍のコーラス隊を運んでそこでクリスマスの催しをする予定だったらしい。
だもんで、乗っていた人はコーラス隊、ジャーナリスト、人権派というべき著名なアクティビストがほとんど。
このコーラス隊はアレクサンドロフ・アンサンブルという名称だけど、ソ連があった頃、赤軍コーラスとか赤軍合唱団とかいう名で有名だった。冷戦終結後その帰趨が危ぶまれたものの、プーチン復活とともにそのプレステージを復活させて、むしろ人気があがったというグループ。この隊は紛れもなくロシアのお宝のひとつですね。
ロシア軍の航空機が黒海に墜落 92人が死亡
12月25日 16時19分
http://www3.nhk.or.jp/news/html/20161225/k10010819321000.html
ロシア南部のソチ沖合いの黒海で25日、内戦が続くシリアに向かっていたロシア軍の航空機が墜落して、乗っていた兵士や、軍の合唱団のメンバーなど92人全員が死亡し、捜査当局では、機体のトラブルが墜落の原因ではないかと見て調べています。
ロシア国防省によりますと、墜落したのはロシア軍の航空機ツポレフ154型機で、兵士のほか、軍の合唱団のメンバーや、ロシアのテレビ局の取材班など合わせて92人が乗っていました。
この航空機はモスクワ郊外の軍用空港を出発し、25日早朝に南部のソチの空港で給油を行い、離陸した直後に黒海に墜落したということです。
NHKの記事はおおむね冷静。他は、「ロシア軍機」とかいう意味不明な書き方をしてて、ちょっと笑った。ツボレフは別に作戦に使うという意味での軍用機ではなくて普通の航空機。ただ、軍が持っているという意味では「軍の機」かもしれないけど。
なんでひっかかったかというと、昨日ロシア草の根のブログとか見てたら、英米メディアは、軍の飛行機が墜落した、つまり兵士が死んだ、それは仕方がないと見せてくるんじゃないかという話があったから。ほんとに来たなと思ってちょっと苦笑。
■ ヴァレリーさん
しかし実際亡くなったのは、ロシアのお宝ともいうべきコーラス隊、つまり音楽家、芸術家だというのにね、ということ。
美しい声をもった美しい魂が失われ、本当に痛ましいと率直に思います。
で、分けても、私はこのアンサンブルの芸術ディレクターのValery Khalilovさんが死亡者に含まれているのを知ってショックを受けました。私にとっては政治的事件ではなくて、好きな芸術家の死となりました。間違いであってほしいと、私の勘違いであって欲しいと何度も思いました。
プーチン復活以降のロシア軍の5月9日のパレードが徐々に劇的に芸術性を高めていった一因はどうやらこの人のようだったんですよ。ヴァレリーいいよ、ヴァレリーとかマジで感心していた。
パレードはソ連時代からそれなりの骨格が出来上がってそれはそれで立派だったんだけど、それはやっぱり軍のパレードの範囲にあるわけでいろいろ限界があった。しかし、最近のはそれでいて通しで音楽として聞いても素晴らしいものになっていた。
この動画で指揮してる人。
Russian Anthem by Russian Army
■ 難しい対応を迫られてるロシア
そういうわけで、私にとっては涙を禁じ得ない事態なわけですが、私なんか問題ではなく、ロシアの人にとって、あるいは広くスラブ圏の人にとって悲しい出来事だと思います。もちろん、コーラス隊は増員、拡充して存続できるだろうし、その質が劇的に低下するとも考えられないけど。
で、それはそれとして、これが事故かテロかがまたまた問題になるわけですが、まぁ、単なる機械不良じゃないと私は思います。多分、サボタージュを契機にして起きたのではないですかね。
で、ロシア当局は微妙な言い回しながらも、テロじゃない、機械的故障や人的ミスの可能性も、とかなんとか言ってますが、この態度はむしろ、おおかた見当がついているからこそ情報規制をしてるということなんじゃないかと愚考します。
今日はカザフスタンのアスタナでロシア、イラン、トルコが集ってシリア問題が語られる。アスタナ会議には国連も米国もいない。この成立を面白くなく思っている人は多数くいる。
この状況で墜落の原因追及を騒ぐと、ロシア国民の中に疑念や、不合理な自信喪失といった感情が生まれる可能性が予想されるし、おそらくトルコ、ウクライナに埋まってるかく乱要員に餌を与えることになるだろう、ということなんじゃないんですかね。
黒海周辺から地中海東岸には多数のスリーパーを含むかく乱要員つーかエージェントつーかという人たちがいるわけでしょ。これを仕切る、無効化、中立化するのはとても難しいんだと思うんです。だって昨日、今日はじまった話じゃないから。
結構大変なことになってると思うんです。とはいえ、別に絶望する必要もないですが、
1917年を見直す時になるのか2017年
という時にふさわしい怪しい雰囲気が漂っているとは思う。
■ 参考記事
ヨーロッパ1000年のロシア恐怖症
ピースメイカーズ〈上〉―1919年パリ講話会議の群像 | |
Margaret MacMillan,稲村 美貴子 | |
芙蓉書房出版 |
ピースメイカーズ〈下〉―1919年パリ講話会議の群像 | |
Margaret MacMillan,稲村 美貴子 | |
芙蓉書房出版 |
「西側」は認めたがらないけれど、ロシア文化は、哲学、科学、芸術、あらゆる領域で個性的で奥深く、水準が高いです。この合唱団の演奏はシリアの廃墟の人の心を慰めたに違いない。ほんとうに痛ましく、悲しいです。
おっしゃる通りだと思います。そして、素晴らしいからこそ、ロシアの手によって達成されるすべての善きことが気にいらないのだとしみじみ得心する頃ごろです。
昔は、それは言い過ぎだと思ってたんですがそうでもなかったです。試みにあわせず、悪より救い出したまえと祈りたいと思います。
多分、そうはならないと思います。重すぎるから。これは文化、文明の問題なので。