カタールと断交せよとサウジ様がおっしゃる中、米のティーラソン国務長官が緊張緩和を呼びかけた。
カタールとの国交断絶 米国務長官が緊張緩和呼びかけ
http://www3.nhk.or.jp/news/html/20170610/k10011013021000.html
アメリカのティラーソン国務長官は、中東のサウジアラビアなどがカタールと国交を断絶したことについて、アラブ諸国の国どうしの対立が過激派組織IS=イスラミックステートの軍事作戦の妨げなどになっているとして、双方に緊張の緩和を呼びかけました。
サウジアラビアやエジプトなどは「テロ組織を支援している」としてカタールと国交を断絶し、波紋が広がっています。
アメリカのティラーソン国務長官は9日、声明を発表し、カタールに対しては、テロ組織への資金流入を阻止するためのさらなる取り組みを促しました。
一方、カタールは今日土曜日外務大臣がモスクワに行ってロシアの外務大臣と懇談する予定。
Qatari Foreign Minister Mohammed Al Thani will arrive in Moscow on Saturday for talks with Russian Foreign Minister Sergei Lavrov, a source in the Russian Foreign Ministry told Sputnik.
https://sputniknews.com/politics/201706091054469520-qatar-crisis-russia/
サウジの本当のターゲットであるイランは、カタールに対して食料の供給を申し出ている。ロシアも、必要があるというのなら準備はできていると表明している。
ここまでの成り行きで目につくのはイランの大国ぶりでしょう。カタールに対するサウジのプレッシャーの一方で、イランではテヘランでテロ事件が起きて17名だったかが亡くなっていた。イランはサウジのさしがねだろうと非難。
イラン政府 “テロ事件の容疑者とサウジにつながり”と主張
http://www3.nhk.or.jp/news/html/20170609/k10011011471000.html
(略)
イランでは、今月7日、議会の建物など国の2つの重要施設が、ほぼ同じころ、武装グループに襲撃されて17人が死亡し、5人の容疑者はいずれもイラン出身で過激派組織IS=イスラミックステートのメンバーだったとされています。
とはいえ、別に、よーし、決着だぁみたいな態度にも出ていない。
ということで、このフェーズは、サウジ(+イスラエル+米) vs イラン(+ロシア)という組み合わせの上で、カタールがサウジ組に脅され、では、とロシアに向かい、おそらくロシアは潜在的な仲介者になる。といっても多分よほどのことがない限り直接介入はないでしょう。
でも、カタールのモスクワ行きは目立つ動きなので、それじゃみっともないので、ティラーソンが表に出てきて、調整してるの俺だからと言ってみた、みたいな。
とはいえ、カタールは米の中央軍の本拠地だから実際にはカタールが米を裏切るとかそういう話にはなりようがない。なってもいいけど、現状そんなことまでは誰も望まないでしょう。
また、トルコがカタールに兵を出す法案を可決しているので、カタールの防備に一役買うつもりらしい。ここはだから、NATO組は実はさりげなくカタールを守っていると考えるべきでしょうね。
■ テスト
一体これは何なのか。明らかに、この間のトランプの中東訪問、とりわけイスラエルとサウジアラビアとの仲間確認みたいな動きが何かを誘発していると考えられる。
具体的に何を相談したのかは知らないけど、でも、カタールに圧をかけて、なんらかのきっかけからイラン叩きに持っていきたいんだろかな、といういかにもサウジやイスラエルが直情的に行動するとこうなりそうだよなという感じはした。イランでのテロ事件、シリアでの米軍による再度のシリア軍攻撃なども同時に起こった。
で、何なのか。思うに、現状確認テストみたいなものでは? これの感じ。
上院議員:シリア上空を支配するというオプションはどうですか?
ダンフォード将軍:シリアの上空すべてを今支配するということになると、それは私たちに戦争することを求めます。シリアとロシアに対してです。それはかなり根本的な決定です。ですからもちろん私は決定できません。
宴の始末(13) 「飛行禁止区域設定するって、ロシアと戦争だよ」by 参謀本部議長
去年、米大統領選のかたわらで、米議会の議員たちが、わーわーシリアに介入しろー、no-fly-zoneの設定だ~とか騒いでいる時に、上院の公聴会でマジもんの軍の責任者が出てきて、シリア上空を支配しろということはロシアと戦争することを意味します、と発言した。
つまり、議員たちはわけもわからず、自分が言っていることの帰結が何なのかも考えずに自分で勝手に強い言葉を探して騒いでいる。本当にそれをやるとどうなるかといえば、こういうことですと本職が一言で押し返した場面。
現在、サウジ、イスラエル、一部アメリカ人はイランを敵視して、イランと戦争するすると言い続けている。あるいはそこを先途として中東のマップを書き換えようとしているようだ。
そこで、それをやるとどうなるのか。今回の話は、まったく簡単な話ではないことをシミュレートさせることになったのではなかろうか。イランと戦争するって大変なんですよ、周辺プレーヤーの動向も見てみましょうね、という意味ではなかろうか。もちろんそれを意図していた人がいたんじゃないかと思う。
で、結果として、カタールはイランと断交するわけでなく、モスクワ訪問なんかしちゃう。
カタールはサウジと似た傾向は確かにたくさんあるのだが、持ち物が天然ガスなので、ロシア、イランと協働することにはメリットがある。そして、サウジと同様ワッハーブ派優位の過激派メンタリティーだが、イスラエルではなくパレスチナ寄り(イスラエル寄りのサウジの方がおかしい)。そして、アルジャジーラをともあれ維持できるだけのある種のリベラルな発想を許容できる。
■ 結構大きな中間の果実
今後どうなるかは全然わからないが、ここまでの成り行きで出た結果としては、カタールはテロ支援国家だという、まぁ知ってる人は誰でも知っていたことがここに来て表に出た。
多くの人は、サウジもな、と言うでしょう。つまり、この二国の動向は潜在的な国際世論によって多少の制限を受けることになった、→ テロ支援に支障かも、って感じじゃないでしょうか。
トランプは、カタールはテロ支援国家だとくどいほど盛大にわめいているので、世界中のメディアも書かないわけにはいかない。もちろん、サウジ+イスラエル+一部アメリカのつもりでは、カタールはイランというテロ支援国家を支援している、という極めて限定的で独自の解釈で言っているつもりなのだが、トランプ、ティラーソンはそこを斟酌していないと思う。
■ 宴の始末
要するに、こうなることをある程度読みながら画策した人がいるとすれば、その人たちの意図は、悪の枢軸たるサウジ、イスラエルあたりに正面切って文句言うと、同様に行動してきた側にも被害が及ぶ、さりとてこのまま自滅するような作戦に協力していくわけにもいかない、だからなんとかして落ち着かせようとしている、って感じじゃなかろか。
まぁこれも一つの宴の始末だと思う。
■ オマケ
カタール問題はロシアの画策だ~、とかいうバカな論がいっぱい出てますが、これはカバーアップのつもりなんじゃないですかね。つまり、カタールは米の中央軍の本拠地だという点から考えれば、ロシアに振り回されていると考えるよりも、米の画策を疑うのが本筋でしょう。しかし、そうすると、サウジ(+イスラエル)を裏切ってるかのような(まぁそうなのだが)ことになるので、ロシアが~、ロシアが~にしているのではなかろうか、と思う。
ちなみに、ひょんなことから今頃出て来たこれは本当。
ロシア、ロスネフチ株売却時に買い戻し合意していた=関係者
http://jp.wsj.com/articles/SB12078387365092103612704583193612790465582
ロシアは昨年、国営石油会社ロスネフチの株式19.5%をカタールとスイスの商品取引・鉱業大手グレンコアに売却したが、この取引には異例の条件がついていた。複数の関係者によると、ロシアとカタールの両政府はロシアが株式を買い戻すことで合意していた。
しかし、別に今日はじめてわかったことではなく、去年の契約締結時に盛大に経済紙が書いていた。
当時の記事は例えばこれ。
Glencore, Qatar buying 19.5 percent stake in Russian company
https://www.bloomberg.com/news/articles/2016-12-10/glencore-qatar-commit-3-billion-in-equity-to-rosneft-stake
ロスネフチの株式をカタールが買ったというのがまず驚きだったが、買戻し特約がついていたことでさらに驚きを呼んだ。それはロシア側の希望であり、それがネックになって他の購入候補者は落ちたらしかった。
しかし、買い戻し特約って「異例」なのか?ウォールストリートジャーナルは経済に詳しくないのだろうか(笑)。
簡単にいうとこういうことだと思う。
ロシアは資源安と一連の騒動で起きた財政赤字を補填しようとしてロスネフチの株式売買を決定したが、ロシア政府は既にBPに20%ぐらい売却して既存株主として影響力を持たれているのでそれ以上の外部プレーヤーの影響が大きくなることを望まなかった。
そこで、グレンコア(スイスの資源商社)、カタールが10%弱ずつ購入した。これぐらいだと取締役会に役員を送る権利が発生しないらしい。さらに買戻特約もついていた。
その代わりに、グレンコア、カタール向けの配当は既存株主の配当よりも優遇。
ということで、ロシアは今は現金ゲットして時期が来たら買い戻そう、カタールはどうあれ投資として儲かる、グレンコアは資源商社だからロスネフチとの取引で原油取引を広げ、ロスネフチはグレンコアの欧州側の販路で共同して儲けよう、ってことで八方丸く収まってる。それの何がいかんの?(笑)
しかしちょっと興味深い背景は実際ある。おそらくカタールの動向にOKを出した、あるいは仲介したのはエクソンなんじゃないかと噂があったりする。
エクソンでないにしろ、米のエライ人が何も知らないわけはないだろうと私も思った。だってカタールは、何度も書くけど中東における米軍の本拠地なんだもの。
トルコは例の事件でNATOが潜在的な敵として周知されただろうし、こんなことされたらカタールだって今後の付き合いを考えるでしょう。
そうそう、去年はトルコで揉んで今年はカタールと思ってみればいいような。
でも、カタールは別にサウジと離れるとかそういう話じゃないでしょう。みんな隣人だし。カタールは金の使い方が上手い国だなぁって感じ。
極東でも似たようなことが起こるいうことと思って考えておく必要がありますね。
脅迫のつもりなんだけど、どうなるんでしょうね。壮絶なバックファイヤでインドネシアとマレーシアも纏めて中露に持ってかれる展開になるような。
極東方面は日本とオーストラリアをくっつけて極東NATOにして中国にぶつける形にするというのが基本構想なんだろうと思うけど、そのためにはフィリピンをこの仲間に入れないとくっつかない。
ところがフィリピンは中国にいじめられた歴史じゃなくてスペイン、アメリカから独立なので、アメさん助けて~とかいうポーランド的な役割が合わない。構造的にダメポっぽいですね。