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スコットランドとウクライナ

2014-09-18 19:43:36 | 欧州情勢複雑怪奇

スコットランド独立問題は今日投票。明日もし「Yes」、つまり独立支持派が勝ったらエライことになるんだろうなぁと思う。でも、既にNoが勝ったとしても、スコットランドは自治権の拡大を提案されたりして、UKからの譲歩を引き出しているので、統一維持派にはもう「完勝」はない。

あと、スコットランド独立問題をEU内の混乱、EUの崩壊みたいな筋で読んでいる人がどうも日本にはいるらしいけど(アメリカにもいる)、逆じゃないのそれ?というのが私の考え。EUのソ連化でしょ、と。

スコットランド問題:EUという超国家の中で県が増えても別にいい

それはそうと、英テレグラフに、著名な歴史家というか政治的歴史家みたいな地位を築ているNiel Ferguson(ニーアル・ファーガソン)の論考が載っていた。ファーガソン氏はグラスゴー出身だと自分でしばしば言っている人なのでどうしているかと思ったら、やっぱり当然のことながらNoを支持。スコットランドに入って独立反対派のために活動している模様。

Scottish referendum: Alone, Scotland will go back to being a failed state
http://www.telegraph.co.uk/news/uknews/scottish-independence/11102126/Scottish-referendum-Alone-Scotland-will-go-back-to-being-a-failed-state.html

Niall Ferguson
6:10PM BST 17 Sep 2014

ファーガソン氏はこの本で一世を風靡した人。マネーの進化史/二ーアル・ファーガソン

で、氏の結論としては、スコットランド独立派は独立したら北欧のような国家になるんだみたいな夢のようなたわごとを言い募っているけど、スコットランドはそもそもイングランドとの連合以前には内輪の揉め事の激しい非常に荒れたところだったので、連合を外したら元に戻るだけだ、というところ。

歴史的にみれば実際それはそうだと私も思う。16世紀までのスコットランドはアフガニスタンみたいなところだったと思えばいいとファーガソン氏が言うのが面白い。でもスコットランドはアフガニスタンほど広くなく支配地域も限定的で、さらに、文明の衝突的なところではないので混乱はむしろひたすら内輪に集中している、また、それはそれなりに部分的には法治的なところもあって、全体として、私が思うに日本の戦国時代ぐらいだったと思えばいいんじゃないかと思う。

で、それから300年、大英帝国の重しである程度暴れても大丈夫な体制になっていたんだからこのままでいいじゃないか、というのがスコットランド出身のこの歴史家の意見、と。

でもって、ファーガソン氏もそうであるように長い間には親族の間にイングランド、スコットランドが混ざり合って、今さら分裂とか言われても・・・と困惑する人もいる。ファミリーを分断させるな、という意見もそういえば聞かれる。

ファーガソン氏がスコットランドに入って体験したところでは、独立派はもう聞く耳を持たない(妙な歴史認識と妙な現状認識と妙な将来展望に満ち満ちている人々が確実にいるらしい。(いわゆる、扇動された感じが見て取れる、ということなんだと思う)

■ ウクライナとロシアだって同じじゃないの?

さてそこで、私はやっぱりこの成り行きを見てウクライナを思わないわけにはいかない。

ウクライナとロシアは、スコットランドとイングランドよりも遥かに一体性がある。遥かに区分が困難だ。言語的差異も小さいし、歴史は殆ど一緒。連合したといった記念碑的なモーメントもない。畢竟、現在のウクライナとはソビエト政権が行政上の都合でただの一度も西欧の影響を受けたことのない地域(すなわち全くのロシア)をソ連内の共和国内に編入したところを、そのまま分離独立させてしまったという、ファミリーもクソもない線の引き方によって出来上がったもの。ここをもう一度問い直すという方向が将来あっても私は驚かないし、その方が道徳的に正しいとさえ思う。

で、現在のイギリス、アメリカ、その他G7、NATO、EU諸国は、そういう民族集団を分けて、片一方を大きい方に敵対する都合のいい勢力にしようと、鋭意努力している。ウクライナ内のロシア人の話ばっかり出ているが、ロシア内にもウクライナ人はたくさんいるし、その他両方が混じっていてどう分離したらいいのか困難な人が多数だ。これを敵対する軍事同盟にするのは間違いだ、と語っている人は西側にあっては実に少数だ。

また、ファーガソンが語る連合以前のスコットランド、そして、スコットランドというところが潜在的に持つ混乱とは、まさしくウクライナ西部のこと。さらに、扇動され、EUに入ったらバラ色の将来が得られるものという夢が売り撒かれた結果として、少なからぬウクライナ人の頭の中が到底冷静でないのも似てる。

文明が衝突する線付近なので何度も何度も揉めているところがウクライナ西部。まとまりなく、相互に敵対し、憎悪ベースで民族主義を煽る、それが西ウクライナだ。そして、そうやって揉めても適当な落としどころでまとまるとしたら、それはロシアという大きな重しの故だったと言えるだろう。それを西側はロシアの「圧迫」と呼び、スコットランドとUKの関係では、UKの重しは良きものと呼ばれる。

現在は、西側のnarrative、つまり物語が支配的なので、人々は、それは仕方がない、ロシアは悪い、で済んでいる。しかし、もしその物語の虚構性に気が付く人が多くなったら・・・・。

■ 主客逆転したらどうしよう

単純にいえば、大英帝国にリードされてきた諸国(いわゆる西側か)は、divide and rule(分断統治)を本質的な戦略としてきた。敵に回るところを切り崩して弱体化させて、その混乱に熱中させることが一番だ、そうすれば自分の方に跳ね返ってこない、と。

ただ、彼らが上手かったのは、自由とか民主主義とか適当な屁理屈をつけて案件にして、自分が売り込む側を「善」、敵対する側はどれだけ正統性があろうが「悪」として、それに対する異論を挟ませない体制を作ってきたことだ。

この体制とは、ある物語への信仰なんだと思う。つまり、西側筋(本当は誰だかわからなくても)がそう言って、一元的にすべての主流メディアがそう言ったならそれはそうなのだ、と人々に思い込ませること。

また、あらゆる信仰が常に現世利益的なものを伴うことで信者を増やすように、この体制にも現世利益はある。それはこの体制が作った金融支配のこと。これに裏打ちされているため、この体制下にある限り金融的に敵対されないという大きな利益を受けることができる。

しかし、このへんがだんだん難しいことになってきたのが現状でしょうね~と思う。

この体制を支えようとする自己申告的に「主」だと思ってた側の富の総量が、「客」、つまりオブジェクトとして「主」が工作するもの、と思っていた側を圧倒する、という構図を維持できなくなってきた、または、きつつある、いやすでに、もうそうだ、とそういうこと。

そうなると、ある物語への信仰は薄くなると思うわけ。

ということは、昨日まで客体、オブジェクトだった側が、俺もお前らに同じことをしてやる、と思う確率は上がるんだと思うわけです。

こういう現状にあって、ウクライナ、スコットランドという基本的に同質の問題を、まったく別の基準で裁いているイギリスを見ると、主客の主はその地位を滑り落ちてると思わざるを得ない。日本の立場もいずれ微妙なものになるんじゃないかと嫌な予感がする。


ヒューム (ちくま学芸文庫)
Gilles Deleuze,Andr´e Cresson,合田 正人
筑摩書房

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