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ロシア:エネルギーから見たウクライナ問題/石油天然ガス・金属鉱物資源機構

2014-05-01 22:03:34 | 欧州情勢複雑怪奇

ロシア:エネルギーから見たウクライナ問題
http://oilgas-info.jogmec.go.jp/report_pdf.pl?pdf=1404_out_j_ukraine.pdf&id=5246
石油天然ガス・金属鉱物資源機構という、本格派の団体さんの本村眞澄氏による4月21日付の分析。

素晴らしいです。今回のウクライナ問題の発端から背景まで非常に詳しいレポート。

日本のジャーナリズムってどうしてこういう先生のお話を真面目に読み込んだ上でものを書かないのかと残念に思う。

2014年のウクライナ問題の発端は2月22日の政変にある。クリミア問題、続いて起こったウクライナ東部での騒擾は、国際的に最も影響の大きい事象ではあるが、2月の政変から派生した事象であり、エネルギー問題から見れば周辺的な事態である。
22日の政変の淵源、目的、プロセスを分析することにより、ウクライナを取り巻くエネルギー問題の解明に資することができる。

とまとめてらして、では、この政変はなぜ発生したのか、わけてもなぜこの時期に発生したのかも推論してらっしゃる。それによれば、むしろ2013年のロシアの対ウクライナ、対EUのエネルギー政策が良好すぎたからではないのか、と。

政治的にはこのレポートの3ページから5ページあたりが興味深い。

まず一つは、昨年末にウクライナのヤヌコビッチ政権がEUとの連合協定(これは加盟確定条約ではない)で破綻した後ロシアを頼った。その時ロシアが出してきたオファーが非常に太っ腹だった。この影にはウクライナのエネルギー利権の確保についてのなんらかの約束がロシアとの間であった可能性はあるだろう、と推測される。だからこそ、それが邪魔だと考える勢力はクーデータであろうが政権を崩壊させる必要があったのではないか、と。

もう一つは、この間見たパイプラインの、とりわけSouth Streamの契約が間近に迫っており、これが成立するとロシアとEU間のエネルギー状況はかなり安定して「しまう」。

この状況を単なる経済事情として見る人は、「安定する」なわけだが、それを「安定してしまう」と危機感を持つ人々がどうもいる。それはEU各国というよりアメリカの一部の人々、つまりネオコンの人たちだろう、と。

今回Victoria Nuland氏というネオコン一派の人が登場していることからも、この推論は正しい確率は高いでしょうね、と私も思う。あまりにも話というか登場人物があいすぎている、実際。

神聖同盟とパイプラインで使った図。水色のラインがサウスストリーム。



■経済はゼロサムではない

このレポートは、状況説明だけではなく考え方の上でもとても参考になりました。

初歩的な議論ではあるが、政治は基本的にゼロサムゲームである。当事者同士では勝つか負けるかという点に関心が集中する。ビジネスはプラスサムのゲームが基本であり、当事者はウィン・ウィン、即ちともに利益を上げなくては意味がない。対応を誤れば、双方が損害を被るというルーズ・ルーズの関係となってしまう。

パイプラインによる天然ガスの供給は、供給側にとっては安定的な市場を確保できると同時に安定供給の義務を負うものであるが、一方で需要側も安定的な買い取りの義務を負うと同時に安定的な調達が保証されるという利得がある。すなわち、パイプラインによる供給は「双務的・互恵的」であり、プラスサムをもらたすインフラであると言える。パイプラインが政治の論議と馴染まない理由は、この点にあると考える。

このご指摘は非常に重要だと思う。

なにか、パイプラインを繋げると供給者のいうがままになるといった錯覚がまきちらされているが、冷静に考えれば需要があるから供給されているわけで、片方が一方的に力を持つ話ではない。

特に、現在のドイツの例などは良い例だと思う。ドイツは天然ガスを大幅にロシアから供給しているだけでなく、6000社といわれる会社がロシアに進出している。これは、ロシアの人質だろうか? むしろ、これを引き上げるぞとロシアが押し込まれているとみても全然おかしくない。

つまり、ドイツは体力がある分のその体力を十分に使ってロシアに押されないよう自分も押しているという関係。小国はだからむしろロシアではなくてドイツの傘下に入っていると読むこともできる。

それに対して日本のエネルギーときたら、南と西の、それもグループ分けとして英米グループに依存しているわけで、これって現代の南進論じゃないのかと最近思ってる。南進論にひきづったのは、今回は右派。安全保障はゼロサムじゃないということが理解できない人たちが多すぎる。

■ ネオコンの考え方は「嫉妬」に由来する?

レーガン政権の発足した1981年、当時国防次官補であったRichard Perleは、1970年代にドイツ、イタリア等によって進められたソ連の天然ガスを自国にまで運ぶという『シベリア天然ガス・パイプライン』について米上院の公聴会において証言し、「欧州諸国がソ連のエネルギーに依存することは、米国と欧州の政治的・軍事的連携の弱体化に繋がる。ソ連の天然ガスが日々欧州に流れて来るという事は、ソ連の影響力も日毎に欧州まで及んで来るという事だ」と米国政府の懸念を表明した。

この部分、今思うと、アメリカの暗い将来を予測させるのに十分かも。

リチャード・パールといえば、暗闇の王子とかなんとか言われていた人。イラク戦争で世界的に有名になりましたね。

私は、こういう考え方を適当にふり落とせなかったことが、今日のアメリカの不評に繋がっていると思う。つまり、目的がおかしいの。目的が自分のためで、ドイツ、イタリア国民のwellbeing(幸福、快適な様子)に考えが及んでいない。

さらにいえば、じゃあドルを使って石油を買う諸国民は毎日アメリカの影響力の下に暮らしているってことでしょ?コンピュータのネットワークを使う諸国民は、日々アメリカの・・・とか。

で、こっちならいいわけでしょ? こっちなら、グローバルなのです、となる。

要するに、パールのような考え方というのは、字面を見るとそうかなと思うけど、具体的な関係に落とし込んで考えると、物事が上手く行っているとしたら、それは、win-winだから、つまり、「俺もいいけどお前もいいよな」という関係だからこそ成り立っているという点を根本的に見ていないと思う。ある意味著しく反経済的。

根本の動機が「嫉妬」なんじゃないかと最近思ってる。自分の係らないところで他人が幸せな関係を築くのが許せないらしいのだ。

■ 反経済では多分進まない

このレポートによれば石油、ガス業界は基本的にどの会社もbusiness as usual、業務は基本的に通常通りです、という態度のようだ。石油、ガス業界でロシア利権をふいにしたいところはないでしょう、どう考えてもという通りのことが起きている。

でもSouth Stream計画は半年とか1年大人しくしてから、ということになるのかなと思ったら、オーストリアとロシアはMOU(覚書)を交わしたそうだ。

Gazprom, OMV Sign MoU on Austrian Section of South Stream Gas Pipeline
http://www.novinite.com/articles/160203/Gazprom,+OMV+Sign+MoU+on+Austrian+Section+of+South+Stream+Gas+Pipeline#sthash.1k6mGcph.dpuf

ただ、ブルガリアから上陸してオーストリア側とイタリア側に分岐する計画のうちイタリア側はペンディング・・・みたいだ。本文を読むとendというのではない。

UPDATE 1-Gazprom ends plan to build South Stream pipeline to Italy
http://www.reuters.com/article/2014/04/30/gazprom-southstream-italy-idUSL6N0NM6ZY20140430

その一方で、ロシアはEUのあるエネルギー政策をWTOに提訴すると言ってもいるので、South Streamがやっぱり問題視されているんでしょう。

Russia sues EU over ‘Third Energy Package’ - report
http://rt.com/business/156028-russia-sues-eu-energy/

ということは、このパイプラインが通ってしまうことが問題だと考えた人たちがクーデータを押した、少なくとも推進した可能性は高まるのかもしれない。

■ ウクライナ危機の推進団体予想

まとめて考えてみるに、クーデター推進派は二派の複合体なのだろう。

(1) パイプラインのこれ以上の伸張を阻止すべし

 (EUとロシアの関係が深まり、仲良しになってしまったら困る)

(2) NATOを拡大して、ロシアを軍事的に追いつめよう

 (本気でロシアを解体したい派、そこまでやる気ないけどNATOを維持するためには敵が必要だ派)

で、現在のところ(1)が強くみえる。今回の事件はEUとロシアの接近を好まないアメリカの仕掛けだ、という考えは欧州および南アジアで強い。パイプラインと竣工時期にまで考えが及んでいる人は少ないが。

しかし、現在のNATO事務総長のラムッセン氏は対露強硬派だが今年後半で任期切れなので、(2)派にも、今がチャンス!とかいう人がいたという可能性も捨てきれない。

その上プーチンはオリンピックで動けない。これはチャンスだ!ぐらいに思ったんだろうなぁ・・・。

アメリカ覇権が本当に残念なのは、ここらへん。オリンピック一つ人々に楽しませることができない。この心の余裕のなさ。昔はここまでじゃなかったと思うんだけどなぁ。


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