世間ではそれほど話題になっているとはいいがたいが、ネット上ではMMT理論をお奨めるする説がたくさん出ていて面白い。
ついには東洋経済が松尾匡先生のお話を紹介していた。
「MMT」や「反緊縮論」が世界を動かしている背景
https://toyokeizai.net/articles/-/281897
そうそう、反緊縮の問題、特にギリシャでの騒動からこの線で考えればいいんだとなっていったように思う。
偶々数日前、ギリシャで盛大にギリシャ人を裏切りまくったチプラス政権が大敗北して、その後もっと簡単なアメリカ様的にOKな人が政権を取ったようだ。
ギリシャで有権者を裏切ったチプラス政権が総選挙で大敗した背景
https://plaza.rakuten.co.jp/condor33/diary/201907080000/
なんとなくこれは、シラクの次にサルコジが来て、シュレーダーの次にメルケルが来た、とか、鳩山の次に野田が来たみたいな経緯を思わせる。出来る限り国民の利益をといった風味のある人は蹴落とされるのが現代の世界の大部分のところにおける流儀。悲しいことではあるが。
さてしかし、なぜこういうことができるのか。あるいは易々と出来るようになったのか。
それはやっぱりブレトンウッズ体制のなせる業ではなかろうか。つまり、ここで出来たIMF/IBRD(その他含めて併せて世界銀行)が、融資と経済危機を機会として各国の政策を規定して、調整して、あるいは融資の条件にして、アメリカ主導の世界を築いてきたわけですね。
その際に、米軍やNATOというのはこれを「推進する」ための暴力装置だったのではなかろうか。そもそも、古くはマクナマラや、一極支配で有名なポール・ウォルフォビッツなどは世界銀行の総裁のポジションを取ったことがある。つまり、国務省のような文民っぽいところだけでなくそもそも米国防総省がこれらの「世界制度を支配する」機構の一部だったんだなという感じなんですよ。
私の感じだけでなく、こういうことに滅法明るいエコノミスト、マイケル・ハドソンが最近もボニー・フォークナーのラジオでその説明をしていたばかり。氏によれば、世界銀行はそもそも軍の一部として設置されている。初代総裁のJohn J. McCloyは、Secretary of War(戦争長官/陸軍長官、1947年までこういう役所があった)でヘンリー・スチムソン陸軍長官の下で補佐官だった人だよ、と。
The World Bank and IMF 2019
http://www.unz.com/mhudson/the-world-bank-and-imf-2019/
日米安保条約やそれに付随する条約諸々もそもそも原案は米国防総省が書いてるらしい、という話を思い出すだに、なるほどな、って感じがしている今日この頃。
といったことから考えると、MMT理論の出現と、それに伴う、
・通貨発行権のある政府にデフォルトリスクはまったくない。通貨が作れる以上、政府支出に予算制約はない。インフレが悪化しすぎないようにすることだけが制約である。
https://toyokeizai.net/articles/-/281897?page=2
といった認識というのは、IMF/世界銀行による影からの支配を真っ向から否定することになるとも言えますね。
ある意味で、それはつまりこの支配方法に疑念を持って、戦勝国だが別の道を取ったソ連は真に独立の道を言ったがために狙われ続けたという解釈も十分に成り立つのではないの? 国家主権を重んじる派は右派に多いはずだが、この件についてはどう考えるんでしょうか。考えると笑いが出る。
MMT推奨派は、やたらに中央銀行のことだけを言うけど、それだけが問題ではないでしょう。
通貨をどれだけ発行してもデフォルトリスクはないというのはいいとしても、その通貨を使って他国の他通貨と貿易する場合、あまりにも刷りすぎた国の通貨は当然値が下がることが考えられるわけで、必需品の輸入国の場合、ここにあるインフレのリスクはどうなるんだろう、というのも考えるべき課題じゃないですかね。
また、現在既に借金を背負ってる国は、その借金の通貨に対して自国通貨が暴落した場合、借金の返済が大変だ、というのもある。
途中から標準化された変動相場制だって見直すべきかもしれないし、文字通りmoney on moneyのFXにも規制が必要かもしれない。
MMT推奨派が言っていることを最も直近にやりやすい国は、ロシアでしょう。財務が安定している借金の少ない国で、やろうと思えば自給できる。つまり、通貨安から他国からの食糧の調達に困難をきたし、国内がインフレになる、といったリスクが小さい。
逆にいえば、基礎的な物資を輸入に頼っている国にとっては、今まで忘れていたリスクが顕在化する、ということもあるでしょう。
日本はこういう世界支配システムにおいてアメリカの一番子分みたいなポジションを作ってきている。そしてこれが故に日本の外務省、財務省などは日本という国にその他国民が預かり知らぬような巨大な誇りを持っているんだろうと拝察する。ということは、この人たちはMMTをきっかけとするこのシステムの崩壊に対する抵抗勢力ではある。
といって私は別にMMT推奨派を非難しているわけでもないし、できないというわけでも、やるなと言うわけでもない。むしろ、進展ぶりを頼もしい気持ちで見ている。でも、現実に調整すべきことは結構大変だよ、と思う。
また、アメリカにとってのそれと他国にとってのそれは同じではない。
アメリカは、自分の国はむしろ、IMF/世界銀行による支配構造の影響を受けていない。なぜならこれは、アメリカを本拠地としてその他世界をアメリカ主導の国々からなるシステムに導入しようという話だから。
アメリカの農業補助金はOKなのに、他国がやると社会主義だといって叱られる、みたいな話も問題はここにひっかかっている。なぜなら、農業という重要な産業もまた、他国を従わせるための道具だから。
その他の国はこのシステムのターゲットになる国なので、この支配構造の影響を70年受けてきている。それにつれてどの国の支配層も万遍なく「ワシントンコンセンサス」、つまり、アメリカさん主導のシステムを維持することを自分の務めみたいな発想になってる。
別の言い方をすれば、そうできない人たちは排除されてる。ということは、各国の人材を回復させるまでにはそれなりの時間がかかるともいうのじゃなかろうか。
もちろん、そうはさせじとまたまた「一極支配」を諦めない派が頑張るだろうし。
いやしかし、楽しい時代に巡り合えたものだわ。西邊邁さんにはあと10年ぐらい生きていてほしかった。