ふとNHKのオンラインサイトを見たら、シリアの停戦が壊れたことについての記事があった。日本はアメリカ側というよりアメリカそのものなんだなぁとか思ったりする書きっぷり。
米 シリアめぐるロシアとの停戦協議打ち切り
http://www3.nhk.or.jp/news/html/20161004/k10010717021000.html
アメリカ政府は、停戦が崩壊したシリアをめぐり、ロシアが停戦を守る責任を果たそうとしないとして、これまで米ロで続けてきた協議を打ち切ったことを明らかにし、シリアの内戦の平和的解決がさらに遠のくことが懸念されます。
シリアでは、ロシアが擁護するアサド政権とアメリカが支援する反政府勢力が先月、米ロ両国の仲介でいったん停戦に入りましたが、1週間余りで戦闘が再燃し、アメリカはロシアに対して停戦を維持する措置を取るよう繰り返し求めてきました。
しかし、アメリカ国務省のトルドー報道部長は3日の記者会見で「ロシアは、停戦を守る責任を果たそうともしなかった。それどころか、ロシアとアサド政権は市街地や病院への激しい攻撃に見られるように停戦と異なる選択をした」と述べ、ロシアを強く非難し、停戦を実現するための協議を打ち切ったことを明らかにしました。
と、徹底的にロシアが守らなかったのでアメリカは打ち切った、と書いてあるわけですが、事情を毎日見て来た人たちからすると、
- アメリカは口では自分は守っていると言いながらテロリストグループへの支援を止めない(ロシア外務省の言い分)
- それでも停戦合意は続き、ラブロフ&ケリーが合意したものが発効する直前の9月17日、米+イギリス等NATO諸国がシリア正規軍を攻撃し60~80人殺害、ISISの行動を支援した。これによって停戦は終わったとシリア政府を代表するアサドが発言した
- ロシア政府、アメリカがテロ支援止めないと停戦は無理とでかい声で言い出す
- すると、アメリカ政府はロシアが停戦を蹴った、彼らはもともとやる気がなかったとのだと言い出した
というのが主要な経緯でしょう。
ここからわかることは、アメリカの現在の政権には交渉当事者としての能力がない、ということじゃないですかね。契約無能力者状態。ケリーやオバマと約束したって意味がないのだというのをここ1年(協議には半年)やってるわけですから。つまり、ぶっちゃけ、US/NATOの軍組織および情報組織は政権とは別のことをしている、ということです。
現在もシリア北部に米軍は少人数だけど新たな将兵を入れている。つまり、侵略行動は続行中です。シリア北東部をもぎ取るという考えがあるように見える。
しかし、そうはいっても、これ以上やって、米軍機が再びシリア軍 or ロシア軍を直接攻撃するようなことがあれば、ロシアは米軍機を撃つ可能性は高いので(一回目はやらなかったが怒ったし、抗議したのでこれが2回目へのウォーニングになる)、さすがにこれはないだろうとは一応思うけど、それがわからないのが、文民統制のない軍組織なわけですね。
と、ここらへんは今更もうどうでもいいんだけど、日本だけこの認識が支配的な国になっちゃうってどうなのと私はそこらへんが気がかりですね。
だって日本じゃ、こういう風にNHK他が報道すると自動的に8割方の人が信じる。残りは5%ぐらいが完全にこれは嘘だと思い、10%ぐらいが、なんかそれは多分違う、みたいな感じじゃないでしょうか。
この比率は、アメリカとも欧州各国とも、もちろん中東ともインドとも中国とも違うわけですよ。特に問題なのはアメリカのそれとの乖離具合でしょう。
日本はアメリカに従ってるつもりなんだけど、実際にはそのアメリカは日本が想定しているアメリカじゃない。シリアにおけるアメリカの蛮行に一番腹を立てているのは、少なくないアメリカ人でしょう。
■ 150:20
で、なぜ、アレッポ、アレッポと騒ぐのかといえば、US/NATOのプランとしては、もしダマスカスごと落とせないのなら、つまりアサドを倒せないのなら、アレッポをむしり取ってそこを適当な奴に渡して、アサドを倒したシリア人です、とかにして事実上独立させるつもりだった、ってことではないのか、と。コソボ式ですね。
しかしこれがどうも失敗しそうだってんで、アメリカ、というよりイギリスが、狂ったような報道を開始しているのが現在、と考えるといいんじゃなかろうか。
まとめると、
- プラン1は、首都ダマスカスごと、シリアまるごと →リビア型の破局的略奪
- プラン2は、ダマスカスではひとまずアサドを温存させ、アレッポを切り取ってシリアの一体性を破壊させ、シリア切り取り放題の実現化 → ユーゴ・コソボ型の分割
で、両方失敗したので、ロシアがアレッポで焦土作戦をしてる~とかいう記事まで見たし、史上最悪だの、プーチンはヒトラーだのもう悪口のインフレが凄くで何が何だかわかりませんが、まず、なんてか、焦土作戦って何だかわかってんだろうかとそこは口あんぐりですね。
そこで、このプロパガンダにもなってない妄想垂れ流し派となった西側プロパガンダの、かなり根本的な「仕掛け」はこれじゃないのかと思ったことをひとつ書いておきたい。
それは、アレッポは、200万近い人数がいる大都市なんだという点を抜いて報道していること、これが一番の肝なんじゃないかな。
つまり、そのうちの150万ぐらいはアレッポの西側にいて、そこはずっとシリア政府のコントロール地域。テロリストが入り込んだりとはあるけど概ねそう。
で、問題になっているのは、アレッポ東部の20万人ぐらいのところで、ここが2012年ぐらいからテロリストに取られて包囲されてるところ。
この状況はつまり、政府の方が圧倒的に支持されている、でしょ?
しかし、この状況、150万:20万 の構図を見せないで、わーわー言ってるのが西側メディアなわけです。
といっても多くのシリア人や現地に入ってるアメリカ人、イギリス人が一致して言っているのは、みんながみんなアサドが好きなわけじゃない、でもテロリストよりはいい、だから政府を支持しているんだ、と。
これってとてもリーズナブル(笑)。
さらに、今年の2月にロシア、アメリカの停戦交渉が形になった頃には、ロシア外務省あたりが中心になってシリアの反アサド政府のグループ多数と接触して、テロリストじゃないグループをしっかり見極めて、覚書みたいなのを交わしていっていたけど、そこでも、アサドが好きなんじゃない、でもシリアを失うよりは良い、とかいって政府の軍門に下るってなグループがいた。
そういうわけで、シリア国民の大多数からしたら、もうその東部アレッポこそガンなんだと思うわけですよ。つまり、US/NATOこそ糞だ、ってのと同義ですが。
あと、20万ぐらいがなぜ減らないのかといえば、テロリストが町に入り込んでいるから出られない、自分だけ出たら家族が、知り合いが報復されるだろう、等々で出られないと、アメリカ人でシリアに入って取材しているバネッサさんは言ってます。
Vanessa Beeleyさんが、ロン・ポールさんのところで話してる。
Why Everything You Hear About Aleppo Is Wrong
戦況的には、まぁ、もう西側テロリストがひっくり返すことは無理でしょう。というのは、そもそも西側テロ軍団は、トルコ、ISIS、イラク側とかに道路を通して補給しつつここを維持してたわけだけど、そうは問屋が卸さないロシア・イラン・シリア連合軍が補給路を断っていって、現状は、久しい以前からその20万のところ(東アレッポ)はポケットみたいに取り残された格好になってるわけです。
で、上のバネッサさんの言によれば、なぜロシアが病院を爆撃、と騒ぐのかといえば、病院はテロリスト側の施設になってるから、だそうです。
彼女が言うには、東アレッポには現在手術までできる病院は3つ、他はそこまでの施設がないものがいくつかある、で、その3棟はテロリスト側が占拠してて、屋上にはスナイパーがいるような状況らしいです。
まぁ、よくある話だよね、これってという気もする。
というわけで、ガラパゴス化があまりにも完全な日本が心配な私でした。