原油価格が下落して日本にとっては全体的にいいことなんだけど、アベノミクス的にはどうなんだろうとちょっと思った。経済って難しいものですね。
さて、原油が下落すればロシアは苦境に立っている、ルーブルが下がればロシア経済は疲弊している~とかいろいろ勇ましいことが語られるんだけど、どうも話がなかなか続かない。
なかなか続かないといえばウクライナ。今ではすっかり忘れられてないですか? せいぜい、ロシア軍が攻めて来る~とかいう記事が出回るぐらい。
しかし、financial times、bloomberg等ではなんだか趣が変わってきている模様。トーンとしては、プーチンを許すな~、ロシアはクリミアを侵略した~とか相変わらずの事実誤認、罵詈雑言には事欠かないんだけど、記事の本旨を追うと、ウクライナ経済をどうするのかのメドが全く立たない状況を前に、ついに何か泣き言を言いだしてないか?的な何かがある。
(1)
How Russia outmanoeuvred the west in Ukrainian finance
http://www.ft.com/intl/cms/s/0/c141d720-770c-11e4-944f-00144feabdc0.html#axzz3KeafZskB
ウクライナの財政事情についてロシアはthe westを出し抜いたんだ、と。これが11月28日。
さらに、2日後には、フィナンシャルタイムスの社説が、ウクライナの経済崩壊は食い止めなければならない、と書いた。must beですよ。ここまで1国に入れあげる経済紙ってなんですか、なわけで、あなたたちが本丸ですね~とか言いたくなる。あはは。
(2)
The economic collapse of Ukraine must be halted
http://www.ft.com/intl/cms/s/0/91620f78-76f5-11e4-944f-00144feabdc0.html#axzz3KeafZskB
The IMF and western donors need to inject $15bn of emergency funding
IFMと西側の支援者は、緊急資金として150億ドル(1兆5000億円+)を投入する必要がある
とか高らかに言っている。しかし、食い止めるっつたって、既にウクライナにはIMFが17億ドルだか貸して、それ以上にじゃんじゃん貸すというわけにはいかないわけでしょ。また、それ一回で話がすむ話でもないでしょう。そもそも根本的にどうやって食っていくのか分からなくなった国家にしちゃったんだし。
(東部の見解も聞いて、単純に連邦化すればいいだけだったのに、それすら拒否して「テロ対策」をさせてそれこそ無辜のウクライナ人を殺害するよう教唆し続けたのがEU/USA。)
どれだけ突っ込んでも終わらないのがウクライナというのはロシアが一番良く知っているので、ロシアは当然笑ってるだろうなとまぁ誰でも思うんだけど、ウクライナは連合協定を結んだので、たかり先はEUが第一優先。去年まではEUとロシアが等距離だったけど、今年からはもうEU一直線です。
で、ロシアの側はそうやって手当した資金からガス代を払ってもらえるので、こうやってずるずる行くなら行くでもいいよ、というところはあるでしょう。
■ 30億ドルのブービートラップ
しかし、実のところ置かれている現状から考えると、ロシアはそれ以上に上手を取っていた、と。上の(1)に詳しい話が書いてある。それは去年ロシアがウクライナに貸した30億ドルの債権について。
といっても、この話は今年の春頃に既に報じられていて、そこから2回ぐらいまた報じられていた時期があったけど、また出て来た。なぜだろう・・・と今回は気合を入れて読んで考えた。なるほどこういう想定なのかと、ようやくわかった。ロシア、強いっすね。
Take, for example, what the Americans now call “the booby-trap bond”, a $3bn bond issued by Ukraine to Russian holders a year ago, which is due in December 2015. It is not only enforceable under English law, but was registered on an Irish exchange. It has cross default clauses that are triggered if Ukraine misses a payment to any other entity controlled or majority owned by Russia. That includes a $1.6bn payment to Gazprom due at the end of this month. Oh, and Russia can call a default (which triggers a further default on the rest of Ukraine’s roughly $16bn bonded foreign debt) if the country’s debt to GDP ratio rises above 60 per cent – due, perhaps, to extortive Russian gas prices and a Russian-backed invasion and insurgency.
http://www.ft.com/cms/s/0/c141d720-770c-11e4-944f-00144feabdc0.html#axzz3KcqxS4Hm
こんな感じで書いてあるのを分解して考えるに、きっとこういうことだろうと思う。
まず、ロシアのこの30億ドル債権には、次の規定がある。
- クロス・デフォルト条項
- ウクライナの対GDP債権比率が60%を超えたら、債権者ロシアはウクライナの債務不履行を主張できる。
クロスデフォルト条項とは、
債務者の借り入れの一つが満期になっても返済されず、デフォルト(債務不履行:債務者が正当な事由がないにもかかわらず債務の本旨に従った履行を行わないこと)となった場合、債務者が抱える残りのすべての借り入れについても返済期日が到来していないにもかかわらずデフォルトになったものと見なされ、債権者は債務者に返済を要求できるというもの。
こういう状況で、ある日ロシアが、ウクライナの債務比率が60%を超えて、ああもうこの債務者(ウクライナ)は破産ですね、債権回収に入らしてもらいまっせ、と宣言する。
すると、クロスデフォルトのせいで、ロシアが保有する債権全部について、期限未到来だろうが、今すぐ返せと要求できる。
ロシアの債権は恐らく30億ドル分にはなんらかの優先権が付いているんだろうし(国家vs国家とか?)、それ以外の債権は恐らくガス債権が多いだろうと思われるので、これは対価物を引き渡した売上債権だから先取特権みたいなのがきっとあるはず。つまり多くの債権の優先順位が高い。
そういうわけで、ロシアがウクライナ債権の回収を始めると、それ以外の一般債権者が大損をこくという可能性が見える。
ウクライナ向け債権といえば、去年の秋ごろにTempletonというファンドが大量購入したことで話題になったけどここだけではないでしょう。
もちろん、それをきっかけにウクライナは本格的に清算という形になれば、現状の債権の状況から考えるとロシアの取り分が有利である可能性は高いんでしょう。担保もよく考えられてるだろうし。
そういうわけでこの、国家相手の金額としてはむしろ少額とも言える30億ドル債権は、今やthe booby-trap bond(偽装爆弾債券)と言われているらしい。
そして、ウクライナの対GDP比率は恐らく既に6割を超えているだろうと言われている。が、ウクライナ当局が直近の詳しいデータを出していないらしい。
つまり、いつデフォルトを宣言されても不思議ではない状況みたいなんだよ、と。
そうなるとこんな契約をしたウクライナの担当者は国家を裏切ってるからとなんとかいってこの契約を白紙にしたくもなる。これがウクライナ法によって契約されていれば、法律を勝手に作って遡及法で無効化するという手段もあるだろう。なんせクーデター政権なんだからなんでもあり。ところが、この契約はアイルランド法によって締結されているため、ウクライナが勝手に無効化できない。
まとめると、
- ウクライナは現在、ガスも買えない、石炭も足らないから買わないとならないけどお金がないぐらい困窮してる。
- なんらかの理由で、ロシアが、もうこりゃウクライナをデフォルトさせた方が有利だと思えば、ロシアは自分に都合のいいタイミングでいつでも紐を引っ張れる。
- ウクライナは念願のEU連合協定を結び、その際いつでも頼ってくれ、支援を惜しまないと言ったのはEUだと世界中の人が知っている。知らん顔はできない。デフォルトで経済が大混乱に陥ったら4000万人分の生活を、最低でも人道支援しないとならないし、その先の国家再建に付き合わないとならない。
結論:EU大変でっせ~。
しかし欧州というのは名うての無責任体質。このままずるずるやればいいんじゃないか・・・。
しかし、しかし、ウクライナの石炭とガス代はなんとかしないとならない。援助とローン契約をあっせんして繋がないと、ウクライナで凍死なんてことが発生するかもしれない。冬はあと4か月以上ある。どうするのよ! しかしこのウクライナに誰がお金を貸したいの?
結局EUが焦げ付き覚悟で用立てるんだろうか? 数百億単位でちょぼちょぼローン契約を締結しているけど、桁が違うんだよね、これ。
ウクライナをロシアから引き離すという雄大な試みをするわりには、どうも資金の算段がおかしい。これはヒトラーが、将兵300万という史上稀な規模で突っ込んだはいいけど3か月目ぐらいからこりゃ補給戦の混乱と遅れを修正できないっす・・・となった状況を思い出させる。
■ EU拡大って、やっぱり名前が既に不気味
一方、EU側でウクライナ、グルジア、モルドバ等々を含めたいわゆる東方拡大プロジェクトをやっていた責任者が、失敗だった、ドイツにも責任の一端はあるみたいな責任転嫁めいたことを発言している。
Former European top official criticizes EU over Georgia and Ukraine policy
http://agenda.ge/news/25285/eng
発言しているのは、Enlargement and European Neighbourhood Policy(拡大と欧州近隣政策)の担当者だったStefan Fule氏。だった、と過去形なのは10月31日をもってEUのバローソが退任したのでこれを機に編成があって、この人も止めたみたいだから。
EUの拡大と欧州近隣政策、ってつまり東欧、バルカンへの拡大という意味なわけで、それをドイツの仮面国家EUが担うという時点で、本当はもっとみんな気を付けた方がよかったんじゃないの???と思うんだけど、これを鋭意推進してきたのが過去10年ぐらいのEUでありUSAだった。やっぱりアメリカはナチスの味方だったんだなと笑ってみたい。(ナチズムファンの方、朗報です!?)
で、要するに、Fule氏は、ウクライナ、グルジア、モルドバがEU加盟に情熱を持っている時に、EU側がドアを閉ざすというのはおかしいだろうと、ドイツのインタビューで語ったということで、これはつまり、EUは大事な時に必要な資金を出さなかったという意味ではないかと思う。この間書いたシュピーゲルの別の記事と整合してる。
作戦課長が大本営のリソース配分の誤りを非難する、みたいな感じで、いよいよ負け戦めいてきた?
● マジでこの本いいです。というか、2000年以降のある種の基本本ではないでしょうか。いわゆるグランツ本。
アメリカ人が書いてるけどソ連の公開資料をふんだんに使って書かれたもの。2000年までの間、冷戦のせいでおおざっぱにいえばドイツは高く見積もられすぎ、ソ連は低くみられすぎだった、というところ。(日本に関する部分の数字はちょっとへんだと思うところがある。)
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詳解 独ソ戦全史―「史上最大の地上戦」の実像 戦略・戦術分析 (学研M文庫) |
David M. Glantz,Jonathan M. House,守屋 純 | |
学習研究社 |