金曜日、トランプはNational Defense Authorization Actに署名した。
この法律の日本語訳は米国国防権限法というものだが、内実としてはむしろナチス時代の授権法に近いのではないかろうかと私は思ったりする。狭義の軍事ではなくて広く「国防」だから、ぶっちゃけていえば、国防をたてにすべてを統括しちゃうといった趣。
一応表面上はこんなふうに書く。
国防権限法とは 対中強硬策 多く盛り込む
https://www.nikkei.com/article/DGXKZO39893360R10C19A1EA2000/
▼国防権限法 米国の国防予算の大枠を決めるために議会が毎年通す法律。2019会計年度(18年10月~19年9月)は18年8月13日、超党派議員の賛成とトランプ大統領の署名で成立した。国防予算を過去9年間で最大規模に積み増すなど、トランプ政権が掲げる米国の軍事力強化を色濃く反映した。
で、例えば2019年は
中国への強硬策を多く盛り込んだ。通信機器大手の華為技術(ファーウェイ)と中興通訊(ZTE)、監視カメラ大手など中国5社から政府機関が製品を調達するのを19年8月から禁じる。20年8月からは5社の製品を使う企業との取引も打ち切る。環太平洋合同演習(リムパック)から中国を排除し台湾への武器供与を進める。
ということから、大喜びしてしまうわけだけど、もし一旦敵に認定されたら、とてつもない圧力でかかってこられるわけですが、そういうの懸念しないんでしょうか?
あと、アメリカが民主主義だとか、草の根民主主義的だとか、自由貿易だとか、ルールがどうしたこうしたとつい2年ぐらいまで多くの「識者」が言っていたわけですが、一体何の冗談なんだよ、と何度も書いてますが、また書くしかないね。
ということで、金曜日トランプが署名したのは2020年向けのもので、その1つの効果として、またまた、ノードストリーム2が問題になった。
ノードストリーム2に協力してる企業は、30日以内に仕事を止めないと制裁を課す、というもの。予想される制裁内容は、米国へのビザの発給が停止される、米国内の資産を凍結する、といったところ。
米国内じゃなくて、米国は西側諸国に広く同じことをさせる可能性があるわけだから、西側各国に資産を置いているところは、失うものがあるから米の言うことを聞くだろう、っていう寸法。
その効果として、ノードストリーム2のパイプライン設置をやっていたスイスの企業Allseas が、すべての作業を停止したそうだ。
Big bully at work: Firm laying Nord Stream 2 pipeline halts all ‘activities’ faced with ‘crushing sanctions’ by US
https://www.rt.com/business/476541-nordstream-sanctions-bill-pipeline/
Allseas社は、米国国防権限法の制定を受けて、停止し、米国当局からのすべての推奨事項を聞き入れることにしたと書いているんだそうだ。
“In anticipation of the enactment of the National Defense Authorization Act (NDAA), Allseas has suspended its Nord Stream 2 pipelay activities,” the company said, adding that it would phase out its operations “consistent with the legislation’s wind down provision” and would heed all recommendations from US authorities.
Allseasにとっても迷惑だよね、これ。だって米の軍門に下るヘタレと言われることは避けられず、かつ、工事途中で仕事を投げ出すんだから、違約金、損害賠償金をガスプロムから請求されることは確実でしょう。
米政府が何か補償してくるわけもない。
というところで、こうなると、当然、ドイツが圧力をかけられているに決まってるよね。お前の資産凍結してやるぜ、とかなったらドイツ政府のみならず、各企業にも当然影響が出る。
金曜日には、ポンペオがドイツの外相と電話会談したようだ。
US secretary of state discusses situation around Nord Stream 2 with German minister
https://tass.com/world/1101941
これってさ、この局面は米の「いじめ」パワーがさく裂して、米の側とか小姓の日経とかが、そーれみろ、米国様のお通りだい、とかいう展開になる可能性は一応あるけど、これって欧州各国、特に欧州企業に禍根残しまくりになると思うわけだが・・・。
みんながみんな、上から命じられたら従うべく対応を考える以外にやることない、ってな人たちばかりではないと思う。
まして、かかっているのは、ユーラシアの将来 vs 巨大ナチのアメリカなわけだすよ。
ナチメリカになってもアメリカの優位性が生まれるわけでないところが本家ナチとの違いかも。本家ナチは腐っても工業力があった。
ドイツはここで引くということは、中露市場での信用を落とすだけでなく、アメリカからLNG買わされることになれば、工業国として高コストに耐えろという話でもるわけだから、ほとんどもう、将来がかかってるようなもの。
ドラマは続く!
■ 追記
当然っちゃ当然だけど、トルコストリームにも同様の措置がかかっている。アメリカ、なんかこう、最後のカケに出てるみたいな趣でカッコ悪すぎ。
Sanctions against Nord Stream 2 and TurkStream come into force - US Treasury
https://tass.com/economy/1101955
■ 観覧席
ちょっと遠目に見渡すと、今回イランの大統領&外相を日本に招いた話も、イランに中国&ロシアの方に行く、就中ロシアと接近していることをやめさせるためなのではないかと、ちらっと思ったことを書いておきたい。
イランはロシアに行かない、ロシアは金がないから by 岡崎久彦
という氏が亡くなる直前に言っていた言葉を思い出す。行かせてはいけないという話でしょ。
しかしながら、日本はそんなに愚かでもない、ってのが結論なんじゃないかなと私は見ている。意外でしょ? でもイラン周り、ロシア周りはドイツと同様(※同様は言い過ぎ。1/20ぐらい)アクロバットしながらも関係を絶やさないようにしていると思う。昨日は茂木がモスクワにいた。
だから、国内で地政学派 vs 一極妄想派の戦いがあるんでないかと思ってみてる。
12月27日に、ロシア、中国、イランがイランの前の海で軍事演習をするので、これが無事進むかどうかにまず注目だわ。
ロシア海軍のバルチック艦隊は現在、ついこの間インドとのINDRA-2019という演習を終えて、イランのチャーバハール港に向かっている。
演習海域はインドといってもバングラデシュの方(あの逆三角形の右側の方)ではなくて、アラビア海側(左側)でやっていた模様。
Russian Baltic Fleet warships set off for Iran after joint drills with Indian Navy
https://tass.com/defense/1101663
ってことは、ずっとアラビア海にいるといったようなものですね。
そして、イランはチャーバハールを開発して、ハブにしたいと思ってる。元々大部分の人口が国の西側に偏重していているので、今度は、パキスタン寄り、インド寄りの方を開発したい。その中心に構想しているのがこのチャーバハール港と考えられている。
この南北回廊のアラビア海側のイランの入り口がそこ。
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