誰も予想していなかったっぽいのだが、プーチンがシリアに展開しているロシア軍は撤退する、ただし基地回りの部隊はこの限りでない、という命令を出した。(S-400は当然残す。S-400については IS→トルコ→NATO問題)
撤兵の理由として、このオペレーションの目標は達成したからと言っていた。
この話と符号するなぁとか私は思うのだった。
去年10月にはダマスカスにISの旗が翻っているはずだった?
要するに、ロシア軍の目標は、
シリアをISなるカバーを使って分割しようという作戦(カバーにカバーを重ねても結局は the West の作戦ね)を粉砕すること、
これだけだとシリアのための戦争手伝いだが、
それに伴いロシアが得る利益は、
シリア分割によってシリア、トルコあたりがジハードの拠点となることを阻止、ってのがまず大きい。トルコがジハードの拠点でそこからグルジアを通ってチェチェンにイスラム過激派が送りこまれてることは既にロシア回り+一部欧米では共通認識。この路線はアフガニスタンにムジャヒディーンを投入した頃からそう。
(私は昔ムジャヒディーンだったんだよ、俺、というアフガニスタン人に北米で会ったことがある。彼も右も左もわからないまま、トラックに乗せられてトルコに連れられていったんだよ、と言っていた。)
さらに、力による国境変更は止めるべき、というのを文字通り達成したともいえるでしょう。
クリミアの騒ぎの時に、自分でクーデターをしかけておきながら、そしてその一方で、アルヌスラ(アルカイダ)、続いてISを準備してシリア分割を狙っておきながら、各国首脳に「力による現状変更はまかりならん」などと言わせていたこの偽善を暴露したというのも地味に大きい。
何度も書きますが、シリア政府からの正式の依頼を受けてシリアという主権国家の国難を救援するために軍事力を行使していたのはロシアとイランだけです。
その他の国々、アメリカ、イギリス、フランスはどんな権利があってシリアに入り込んで軍事行動してんだよ、という話。今もってアメリカの大統領選挙の候補者の一部が、シリアに飛行禁止区域を設定しろーとか言ってますが、一般アメリカ人たちは、俺らになんの権利があるんだよとすっかりネガティブに見ていたりする状況がある。で、これがトランプを押すしかないという判断にかなり寄与した。
(日本では、トランプ支持のこの側面、つまりネオコン+介入主義者の蛮行にいい加減みんな気がついて、これはもう撤収するしかないと判断したアメリカ人がたくさんいるんだよ、ってことを盛大に無視してる)
■ いずれにしても話し合いが必要になる
で、なんで勝つまでやらないのかという疑問を持つ人もいる気がするけど、それは、そこはロシアではないから、ってのが第一でしょうね。
シリアのことはシリア人が考えるべきと再三言ってきたことと矛盾しない。
でもって、今後はクルド独立問題が再燃するからシリア、イラク、トルコ、イランは話し合わないとならんわけですよね、いずれにしても。で、これは最終的には現地人同士が考えることってことじゃないですかね。
トルコは、今はぐじゃぐじゃだけど、いずれにしてもクルド問題を放置できないことがオープンになったのは副次的利益としてよかったんじゃないっすかね。
現状のトルコは、クルド人はクルド人であるが故に殺されるべき、とかいう、どこのナチスだよ、っていう体制を堅持しないわけにはいかなくなってたけど、誰が考えてもこれは長持ちしない。(クルド人を全滅させない限り)
■ 日本は誰の味方をしているの?
で、日本は一体誰の味方をしているんでしょうってのが懸念材料だわとか私は思う。
ロシア大統領 シリア展開部隊の一部 撤退を指示
http://www3.nhk.or.jp/news/html/20160315/k10010443481000.html
この中でも、「シリアの内戦終結を目指す和平協議が再開されたことを受けて、協議の進展を後押しする姿勢をアピールしたものと受け止められています。」
とかいって、あたかも、アメリカが平和勢力で、ロシアが妨害しているみたいな見取りを示すんだよね。アピールって何よ、アピールって。
平和協議に、「反体制派」の名まえで過激派を押し込もうとするのを阻止していったのは、ロシアの軍事パワーではなくて、外務省、情報関係者の地道な努力でしょう。どうやったかというと、シリアに無数にいるそれらのグループを丹念に洗っていって、シリアの再建に前向きな方を「反体制派(opposition)」に編成していった。
グループの一つが書いた覚書みたいなのがアメリカ人たちのオルタナティブ系サイトに上がっていたけど、彼らが一様に示していたのは、アサドは嫌だけど、シリアがなくなるより良い、という判断だった。
さらに、今回の取り組みは現実には米ロは協調体制だったという点も、NHK他の日本のメディアが微妙にへんな言い回しにしているところ。去年後半ロシア軍が攻撃を開始した時から、アメリカ国内の情報機関の人とか退役軍人とかがぞろぞろ出てきて、いいえそれはトルコが悪い、そうですISは西側の産物ですと、トルコはシリア側の国境閉じろ、等々と繰り返し繰り返し発言してた。こういうのって文字通り命がけだと思います。それでもやったのは、こここそこのフシダラな展開を撤収するチャンスだと思ったからだと私は認識します。
そういうわけで、NATO+αを支持するネオコン+民主党介入主義者(ヒラリーとか)の一群をアメリカだとすれば、確かに日本はアメリカのお味方だったでしょうが、ペンタゴン、情報機関の中のかなり正統性のある部分にとっては、日本はネオコン+αの味方みたいにしか見えなかったでしょう。
で、今後どちらに向かうのかといえば、トランプ、サンダースの勢いが止まらないのを見てもわかる通り、NATO+αを支持するネオコン+民主党介入主義者(ヒラリーとか)の一群が正面から盛り返すことはないと私は思います(陰から何かするとかはあるだろうけど)。
■ 感想戦
というわけで、なんつーか、10月からの半年間の戦いはスターリングラードの戦いのようだってのが頭から離れない、私。
シリアの反抗作戦とスターリングラードの戦い
でね、私はここでこんなことを書いているんだけど、
そのアナロジーだとプーチンはスターリンになる。・;・・・実際非常に深いところでそうだといえばそうなのかも、ですね、これは。つまり、スターリンは レーニン路線(どうあれ西側のプロット)を裏切り、プーチンはエリツィン路線(明白な西側のプロット)を裏切って「ロシアはロシアだ主義」に戻してるわけ ですから。
この、プーチンをヒトラーとは呼ぶがスターリンとは言わない、っていうのが、今回の the West の弱いところだったよなぁとか思ってみたりもする。
もし、プーチンをスターリンと呼んだら、では今回ヒトラーは誰なのか?という疑問が来るがそれは回避したい、という深層心理じゃないっすかね。
自分たちはヒトラーだ、とは言いたくないんでしょうね、やっぱり。スターリンがそれほど悪辣だと思うのなら、ヒトラーの方がよかったとゲロしちゃえばいいだけなんですけどね(笑)。
やっぱり嫌なんでしょうね。
覇権にモラルは不要なのか
アメリカは答えるべき疑問を突きつけられてますよ、実際。
そして、ドイツは再度、再再度、問題だらけでしょう。
世界強国への道/フリッツ・フィッシャー
■ プーチン、ウォルフォウィッツ・ドクトリンに終止符を打った
ってのもオマケであった。これはしかし今後にとって大きかった。
ロシア、カスピ海からクルーズミサイル発射
で、これとS-400とあわせて、このへんは直に日本にかかわってくるのに全く言及されていないのはどうしたことか。
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ホラムシャハルも十分いいですね。
今回イラン軍の根性が見えてよかったし、米軍と一緒じゃ全然パッとしなかったイラク軍がいつの間にかやる気になってるのも祖国防衛戦争スローガンのせいかもしれないですね。