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「昭和」という国家/司馬遼太郎

2016-05-09 22:44:42 | 参考資料-昭和(前期)

昨日、ロシアの軍事パレードの話を書きながら、こんなことを書いた。

司馬遼太郎がはしなくも、日本はロシアが怖かった、だから、革命が起きて相手が混乱した時、しめた、と思ったんだろうと書いていたけど、いろいろ読んだり考えたりして私もこの要素はとても大きいと思うに至りました。

不滅の連隊は不滅らしい

記憶で書いたのだが、間違っていたらいけないと思って本を探してぱらぱらと再読した。「しめた」ではなくて、ちょっと表現は違うんだけど、趣旨はあっていると思う。

今となっては、司馬遼太郎氏の日清、日露戦争に対する見取りは正しくないと言わざるを得ないのだけど、それはそれとして司馬氏がシベリア出兵について語った部分を引用しておく。

この本。

「昭和」という国家 (NHKブックス)
司馬 遼太郎
日本放送出版協会

 

<引用開始>

日本の植民地主義、帝国主義は日露戦争の後に興りました。

極端にいいますと、日比谷公園で群衆が国民決起大会といった感じの大会をやり、日露戦争の講和条約に対してああいう甘いものは反対だ、もっとたっぷりロシアからふんだくれとやった。

そこから私は日本の帝国主義がはじまったと思うのですが、それは夜盗、強盗のたぐいでした。

<ここから、こんな話が続く。

良いというわけではないにしろ、イギリスの帝国主義にはそれなりに実質があったが、日本のそれはまねごとの帝国主義だった。それを維持するためにいたずらに大海軍を誇示し、大陸軍を誇示していった。そこには産業、工業的に裏付けのあるリアリズムがなかった。>

いつでも、ロシアの、ソ連の脅威が語られました。日露戦争が終わったあと、軍部はロシアの復讐を恐れていたのですが、そのうちロシア革命がおこりました。

これは幸いだと思ったわけです。

そして、ロシア革命でシベリアががら空きになったときに、シベリア出兵という、実に恥ずかしい、いかがわしいことを日本政府は行動に移しました。

シベリアで兵隊たちは死に、土地の人に迷惑をかけた。そして、ロシア人にいまだにシベリア出兵の恨みを忘れさせない。そういうアクションをして、リアクションを考えず、やがて何をなすこともなく撤兵しました。何億円という当時の金を使って撤兵した。シベリアを取ってどういう利益があると考えたのでしょうか。要するにシベリア出兵は、恐怖心の当の相手が、やや引っ込んだように見えたようなもので、今でも悪評の高いことですね。日本の近代というのは、実にがさつなものであります。

結局、対ソ恐怖心というものは、日本の軍部に非常に濃厚な遺伝子として残りました。むしろ日露戦争前の恐怖心よりも強い形で残った。

<引用終了> 

となって、ここからよく知られている話だと思うけど、ノモンハン事件の頃、日本が放ってた特務機関(ほぼスパイ)が、ソ連の軍は非常に近代化しているといくら情報を送っても、中央で握りつぶされ、それこどろか、そういう人たちを「恐ソ病」とレッテルを貼って、そういう人たちをラインから外していったという話が綴られる。

 

■ 「昭和」

「昭和」という国家、という本は1986年(昭和61年)から1987年にNHK教育で12回シリーズで放映されたものを、1998年にまとめて発行されたもの。番組タイトルは『司馬遼太郎・雑談「昭和」への道』。

司馬氏の話が上のようになんとなくまとまりがないのは、会話の書き起こしだから。しかし、今となって思うにこれを時に激高を抑えつつ語っていた司馬氏の声が思い起こされる仕立てなのでこれでよかったんじゃないかと思った。(映像は、NHKアーカイブスにあるという話なのだが現時点では私はわかりません)

 

この本には、最後に田中彰氏による「解題」とでもいうべき非常に長い文章が付いている。司馬氏の考え方を様々な他の著作を引用しつつ解きほぐす。次に、この番組の企画を立てたNHKのプロデューサー栗田博行氏による、企画から本放送までのエピソードが収録されており、これが実に興味深い。

私は実はこの本をおそらく1999年か2000年ごろに購入したと思うのだが、このエピソードを今日まで読んでいなかったことに今日気付いた。解題の途中で放り投げてしまったのだろうと思う。

企画立案に至る司馬氏とNHKスタッフのやり取りも興味深いが、番組に対するリアクションの話がひときわ私の興味をひいた。

番組の本放送の告知はノモンハンの死傷率が高かったことを司馬氏が語る30秒程度のものだったようだが、これを昼間数回流したところ、さっそくノモンハンを体験した者だがという人からファックスが寄せられ、そこには「…司馬遼太郎氏は『白血球』を血液に持っておられるのだろうか…日本民族体をむしばむ病原菌の媒介者と考察するが如何か…」、などと書かれていたそうだ。

これをこのディレクター氏は「よくある論法が慇懃無礼な文章で綴ってあった。」と書く。よくあったわけなのね、なのですよ。

白血球が云々というのは「白」つまり「赤」ではない人のことなんでしょうね。で赤は病原菌だという論法。よく考えればノモンハン事件の解明とこの紅白論争は関連していると言っているも同然なので、むしろ今となっては興味深い言明のような気もする ^^;

また、「昭和62年3月31日。全ての放送が終わった。切迫した気分で司馬家に車を走らせることも起こったが、結局はすべて無事終了することができた。」「われわれは組織の中にあるが、司馬家は社会の中に裸で浮かんでいることを思い、胸が痛んだ。」という言もある。

栗田氏の小さな論考は、昭和を語るということがどれほど大変だったかを示しておいてくれたという意味で非常に重要だと思う。

そして、本放送の結果、

…全期間を通じて戦争体験世代を中心に素晴らしい手紙や葉書、モニター報告が寄せられた。その最後の十数葉をお送りする時、「これらが、それだけぶん日本人の言論行為の成熟であることを喜んでいます」という旨申し添えた。後日先生にお会いした時「ほんとうに市民の方のご意見はりっぱでしたねエ」と、あの人なつこい少年の笑顔が輝いた。

と結んでおられる。

結局、「昭和」(20年までの昭和という意味でカッコがつく)とは、多くの一般人の後押しがなければ自由に語ることすらできない時代だったし、おそらくその余波は今もあると考えるべきなのだろうと思う。

 


 

この国のかたち〈1〉 (文春文庫)
司馬 遼太郎
文藝春秋

 

この国のかたち〈全6巻セット〉 (文春文庫)
司馬 遼太郎
 

 


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2 コメント

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朝鮮欲しい『明治カルト』から『昭和カルト』へ (ローレライ)
2016-05-10 20:49:44
朝鮮欲しい『明治カルト』が満蒙欲しい『昭和カルト』へ病気が進んだ事は朝鮮人中国人ロシア人の『対日トラウマ』になっている。日本内地で記憶がリセットされている!
返信する
冗談じゃなくてそれが問題 (ブログ主)
2016-05-10 22:35:40
それは重要な問題なんだと思うんですよね。

つまり、民主主義を定着させ人々の妥当な見識が反映されるようになったら、無駄に「欲しい!」願望が収まると思ってたらそうでもなかった、ってのが21世紀日本を外から見た時の現状の総括かもよな、ってところ。
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