言論の自由をたてにとって徹底抗戦をtwitterで宣言していた丸山穂高議員ですが、本会議には欠席している模様。
戦争発言の丸山穂高氏が欠席 辞職勧告決議案は結論出ず
https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20190516-00000094-kyodonews-pol
北方領土を戦争で取り返すことの是非に言及し、日本維新の会を除名処分になった丸山穂高衆院議員は16日、同日午後に開催される衆院本会議への欠席届を衆院事務局に提出し、欠席した。理由は明らかになっていない。衆院議院運営委員会は同日の理事会で、丸山氏に対する議員辞職勧告決議案提出について協議したが、結論は出なかった。
「憲政史上例を見ない、言論府が自らの首を絞める辞職勧告決議案かと。提出され審議されるなら、こちらも相応の反論や弁明を行います。」とぶち上げていたので、お説の拝聴を楽しみにしているわけですが、どうなんでしょう。
あなたが発言するその内容をいちいち精査していくことが、今後の日本のためになるだろう、って感じで待ち受けている私としては是非お聞きしたいものです。
そうでないと、また富永案件かよ、みたいになっちゃう。
えらそうなことを言って他人を追いたてることは大得意だが、最後は自分が逃げる。そして助かる、というパターン。
富永さんとは陸軍史上最悪の軍人の一人ではないかとかねがね候補にあがっている人で、1945年1月に直前までマニラ死守していた軍司令官が、部下を置いて台湾に逃亡したと言われている。
■ 自衛以外の戦争は国際法違反
丸山さんが現在何を考えているのか知りませんが、いわゆるタカ派にとってもっとも痛い発言はこれだったのではなかろうかと思ったりもする。
丸山議員発言は「不適切で論外」 前統合幕僚長が憤り
https://www.asahi.com/articles/ASM5G532CM5GUTFK00R.html
日本維新の会の丸山穂高衆院議員(大阪19区)が北方領土を取りもどすには「戦争しないとどうしようもなくないですか」と語ったことについて、自衛隊制服組トップの統合幕僚長を4月まで務めた河野克俊氏は14日、朝日新聞の取材に「非常に不適切で論外、むちゃくちゃです。自衛以外の戦争は国際法違反だと知らないのでしょうか。国会議員の発言で日ロ関係にもマイナスでしょう」と語った。
この朝日の記事はタイトルで逃げてる、ずるいよなぁって感じ。
この河野氏の発言で最も重要なのは、
自衛以外の戦争は国際法違反だと知らないのでしょうか
でしょう。
北方四島に対する戦争は国際法違反だ、なぜなら自衛戦争でないから、と言っているわけですよね、これ。だから不適切だ、と。
そもそも、北方四島に対する日本の主張は、大ざっぱにいえば、
登記もないし、現在占有の事実もないのにその土地は俺のものだと長年主張しているという外形を持ってる。
すなわち、サンフランシスコ講和条約で当該領土に対する権原を放棄している。そして、占有は継続的にソ連/ロシアが行っている。
サンフランシスコ平和条約第2条(c)項
(c) Japan renounces all right, title and claim to the Kurile Islands, and to that portion of Sakhalin and the islands adjacent to it over which Japan acquired sovereignty as a consequence of the Treaty of Portsmouth of 5 September 1905.
http://www.taiwandocuments.org/sanfrancisco01.htm
ここがとっても重要なのに、そうじゃないそうじゃないと日本の中の右派が言い張って来たが、外形的に強い主張、すなわち法的に維持できる主張であるとは普通考えられていない。左派は別の理由を立てている。
で、自衛隊ではこの事実関係をちゃんと教えているってことなんでしょうね。だから、現時点で、70年以上相手方が占有している、登記もない場所を取ることを「自衛戦争」の範囲に入れてない、というところのようです。
まぁどれもかしこも自衛戦争と呼んだらどれだけでも拡大していくことを戦前の経験から学習しているとも言える。
私はこの判断は適切だと考えます。この外形で戦争を起こしたら、それは日本の側の侵略戦争となる蓋然性は極めて高いと言わねばならない、ってところでしょう。
ただ、島民の人は追い出されたという事実があるわけで、だから法的枠組みを覆すことなく(日本は国連加盟と同時に敗戦処理を承認している)、土地の権原をソ連/ロシアにしたまま行き来を自由にしましょう、というのが基本のプラットフォームと言っていいんだろうと思います。これは冷戦時代からずっと変わらないんだと思いますが、むしろこれを拒否してきたのが日本の外務省、政府、与党 etc。
今回も出てらっしゃいましたが、元島民の方は、ロシア人はそこに70年以上住んでるわけですから、今ここで追い出したら自分たちの祖父母と同じ目にあうんです、とおっしゃっていた。
ここをまったく無視して考えているのが、日本の「右派」だし、この言論を許しまくって、対ロ敵視に使ってるのが日本の戦後という話でもありますね。
ポツダム宣言の、特に領土に関する文言をちゃんと日本国民にちゃんと教えてこなかった話、千島の権原放棄の話はこのエントリーの中に、孫崎さん、田岡俊治さんの動画をリンクしてあるのでご参考までに。
ポスト安倍が見えない日本(2)
ポスト安倍が見えない日本 (7):対処療法的嘘の限界(2)
■ 領土は戦争によってしか戻らない?
オマケですが、この間ネットの言論を見ていてしみじみ思ったのは、領土は戦争によってしか戻らない、取れないというのは一体どういう意味で言っているだろうってことですね。
正確にいうのなら、領土は
戦闘を代表的な手段としてその場に対する優越権を確保し、住民に目立った反抗がなく、その状態の継続が見込まれる
となった時初めて獲得なんじゃないでしょうか。
この条件において、戦争/戦闘は必ずしも必須ではないと思うな。ある住民集団が住民投票で独立を決意し、他国に保護を願い出る、という形式だってあり得る。この時、当該集団が独立で留まるにせよ保護を求められた集団は、戦闘によらない支配地域の獲得となる。
また、日本が琉球を接収したのは、強引ではあるけど戦争ではないでしょ? アイヌを蹴散らしたのも部分的に暴力的だが全体としては同化政策。つまり北海道は戦争によって獲得した領土ではなくて移民と同化政策によって確保した土地。
あと、日本人が「戦争」という時、多くの場合その意味は「戦闘」ですね。戦闘で勝つと終わると思っている、思いなしがちだ、というのは何かこう、日本人のかなり深いところにある思い込みのような気がする。
>元島民の方は、ロシア人はそこに70年以上住んでるわけですから、今ここで追い出したら自分たちの祖父母と同じ目にあうんです、とおっしゃっていた。
この元島民の方のお言葉はこちらで初めて知りましたが、器の大きさなどというありふれた言葉では表現しきれないほどの感銘を受けました。
本当の意味で北方領土問題を解決したいのであれば、まずは当事者の現状と意向を確認し、最大限尊重するべきだと思いますが、丸山議員は元島民の方のこうしたお気持ちを尊重するどころか、真正面から踏みにじるような(少なくとも、元島民の方にはそう受け取れるような)発言をしているのですから何をかいわんやですね。
それ以前に、2015年に起こした飲酒トラブルを受けて「在職中は飲酒しない」と自ら誓約したにもかかわらず、いつの間にかそれを蔑ろにしているのですから更に呆れます。
この件ではガルージン駐日大使はじめ、ロシア側が冷静な対応をしてくれたのが不幸中の幸いだと思います。
松下政経塾というのはアメリカのカイライ政治家を養成する機関ですね。維新とかいうのも国粋主義に見えて実は従米。
右派の主張で日ソ中立条約違反を最初言い始めたのは巣鴨プリズンに入っていた笹川良一ですね。国際条約なんか破るのを屁とも思っていなかったやる気満々の関東軍がなぜソ連を攻撃できなかったのは、能力がなかっただけです。
当時の軍人が生きているときは自分が弱かったことを言い立てることはさすができないので、がちがちの右翼が恥も外聞もなく言い始めたのが「順法精神」の強い国民に浸透した。
左派は大西洋憲章や千島樺太交換条約を持ち出すががこれは、自分勝手ないいとこどり。
満州・朝鮮・台湾・南方から無一文で引き揚げてきた人から見れば、ここまで領土問題を引きずっている日本の現状は異常だと思います。
私が中学のころ(昭和40年代)社会の先生が「日本は戦前の莫大な領土をみんなうしなったけど、今からは加工貿易で頑張らなあかん」と言っていました。単純素朴だけどそれでこつこつやってきたことを思い出すのが大事。領土問題の根っこは米国から、いかに独立するか。至難ですが。