2016年に、ロシアは2019年にも財政破綻をすると森永卓郎は言っていた。
森永卓郎の「経済“千夜一夜”物語」 北方領土返還の好機
http://wjn.jp/article/detail/0427775/
週刊実話 2016年9月29日号
昨年、ロシア中央銀行が発表した見通しによると、ロシアの予備基金および国民福祉基金は、2019年にも底をつくとみられている。原油安が、ロシア経済を破壊しようとしているのだ。
他者の破綻願望:ロシア編を評価してみる
だから、金で北方領土を取り返せるのだ、と氏は言うのだった。
だがしかし、既に昨年こんな状態になっていた。
ロシア、森永卓郎の予想を粉砕する
そこからまた1年、森永予測の運命の2019年が終わろうとしている。
だがしかし、既に、ロシア経済は堅調としか言えなくなっている。特に、欧州、日本、米が揃って国債買っても投資家が普通に儲けられないじゃないかそれ、というような代物を出す中で、まったくの整数のついた国債を発行しているのがロシア。財政黒字、貿易収支黒字、経常収支黒字という中で。
つい先だっても、
ロシアは自分で自分の経済を「防弾」型にした。
彼らは外債があってもそれは全部中央銀行の準備金で払える(つまり借金が小さい)
利率も下げてきた、通貨はとっても安定してる。
財政に余裕があるから自国経済のために財政出動できる
“They’ve made themselves bulletproof,” says James Barrineau, co-head of emerging-market debt for Schroders Investment in New York. “They can pay off all their foreign debts with their central bank reserves. Plus, they’re cutting interest rates. The currency is very stable. And they have room on the fiscal side to spend on their economy.”
ってなことをニューヨークのある投資ファンド担当者が言ったというので、bulletproof(防弾)になったロシア経済という感じであちこちで引用されている。
この記事が出てきたのはForbes。ここ
要するに、西側は制裁とか金融波乱でなんとかして潰そうとしたんだけど、失敗したわな、って話ですね。
それどころか、上で書いたように、投資家にとっては望ましい正常なレンジの国債がそこにあり、ロシア市場の企業の配当も普通に手堅い。となったら、適切な投資先と言わずになんといったらいいんだろう?と経済紙なら考えるしかなくなってきてる。
で、金融という面からも頑張って上手くやり遂げてるなといったところのロシアですが、金融じゃなくて国民経済という観点から見た時にも達成したものは結構あると思う。
市場経済導入の混乱の中で多くの人がいろいろと学習して、手堅いマネージメントが定着していることもその1つ。借金とか利子について非常に疎かったソ連時代から見たら長足の進歩としかいいようがない。
さらに、この間にソ連時代にデカくてなかなか事業再編できなかったものを再編してきてる、というのが今後にとってとても大きいんじゃないかと思う。
石油関連などのオリガルヒ問題ばかりに目がいくけど、ロシアにはそれ以外にも天然ガス、原子力、鉄道、航空機などなど、巨大な組織がある。それらをそれぞれ組織再編をして、概ね縦型構造で株式会社化して、必要があれば資本を入れる(つまり、株式を売って投資先となる)、だが最終的な上部構造の経営権は国家側に強くある、という形にしてる。
これはホントに、どこの国もなかなか手が付けられないことをやったと言えるんじゃないでしょうか。
多分、ロシア鉄道はこのままいけば、ほぼ国営のままでいけるのではあるまいか。2012年ぐらいを目途に大きく民営化という話だったのだが、様子が変わってきてる。冷静に考えれば、今後の見通しとして、アジア各地と欧州がつながる設計になるので、その分通過料収入も見込めるんだから、収益構造も変わってくるでしょう。ここらへんを考えたら、金がないから切り売りする、みたいなことをする必要はもうないと思われる。
部分的にプロジェクトごとにファイナンスする形にしたっていいわけだしね。例えば、イランにはロシア政府がローンを貸しているが、その一部はおそらく鉄道事業に使われると思う。それはロシア鉄道の利益になるはず。紐付きローンみたいだけど、イランは資本が必要なので参加者全員にとって良いローンとなるでしょう。
これはつい先日11月24日の記事。イランが発電所、鉄道向け事業のために2000億円ぐらい金貸してと言っている、と。もしこれが達成するとロシアのイラン向けローンは5000億円ぐらいになる、という話。
Iran asks Russia for $2bln loan to build power plants, railroads - energy minister
https://tass.com/economy/1092159
ということで、ロシアをなんとかして貶めようと頑張ってるアングロ・シンパ界隈を後目に、事態はまるっきり5年前の予測を覆してる。
森永卓郎さんには、是非コメントしていただきたい。
■ トリック
どうして森永の言うようなことを信じるアホたれが多数いるのかというと、ロシア経済を語る際のトリックが効いていると思うな。どんなトリックかというと、森永が書いているように、ロシアは石油に依存している、というもの。
石油関連の割合が大きいのは、ロシアの輸出産品の話。ほぼ6割が石油関連。
しかし、ロシア経済は、輸出型というより内需型。経済全体としての石油関連は低く見積もる人で10%台前半、高くても2割台。
年取った人は誰でも知ってるようにソ連は閉鎖系の自給自足経済をやっていたところなので、もれなく産業はある。ロシアはそのコンパクト版なので、内側の経済を建て直せば普通に内需主導型になる。で、なった。
輸出しなければ経済が回らないという構造ではない、というのも2つ目のポイントでしょうね。
輸出してお金を稼がないとならないのはむしろ日本とかドイツのようなところ。なぜなら、エネルギーを買わないとならないから、この代金を稼がないとなんない。逆にロシアは、内側にエネルギー資源があり、穀物は輸出するほどあるんだから、輸出でお金が稼げないなら稼げないなりに輸入も小さくすればいい(事実そうやって急場をしのいだこともある)。
■ オマケ
ゴールドの持ち高のトップ20。ほぼ最新。何年もずっと持ち高が変わらないUSAが1位。う~ん・・・とみんな思ってるわけだが。
で、ロシアは毎年増やしてここまで来た。しかし、冷静に考えるとソ連が金を持ってなかったなんて考えられないので、やっぱり盗まれたんでしょうね。ウクライナみたいに。
だがしかし、また盛り返して来た、と。
このペースで行くとあと2年ぐらいフランス、イタリアを抜く可能性は結構ある。そのあたりで、ドイツ・ロシア・中国が並んでユーラシア共同宣言をする、とか言ったら面白いだろうなと想像してしまう。
フランスがなんとかしてロシアとヨーロッパの関係を改善しようとしているのは、ひょっとしてそれがイヤなんだじゃないかと夢想してしまう。
■ オマケ2
ロシアの国家財政を追及できなくなったからなのか、いやいや問題なのは家計債務だという説を、「土田陽介:三菱UFJリサーチ&コンサルティング 調査本部 研究員」さんがぶちあげられておられる模様。
ロシアの知られざる「家計債務」リスク、米国利下げの影響で急拡大か
土田陽介:三菱UFJリサーチ&コンサルティング 調査本部 研究員
http://www.asyura2.com/19/kokusai27/msg/819.html
家計債務問題といえば、誰しもアメリカの個人借金問題の方が深刻だと思うわけで、どれだけこれが喫緊の課題なのか・・・ってところだとは思いますね。
そもそも、教育、医療がまだまだ無料のところが多いロシアと、それらがダイレクトに家計を圧迫するアメリカじゃ、インパクトが違くね??といったところ。
あと、旧ソ連圏はソ連崩壊時に住宅を安く分配したので、各国軒並みどこも持ち家率がとても高い。
これら、つまり、住宅、教育、医療という基本条件の違いを加味しないで西側諸国と可分所得を比較するというのは、基本的な誤りだと思う。
とはいえ、このお話は、第二の森永説として、今後、追いかけたいと思います。
いずれにしても、金融じゃなくて国民経済を考えるトレンドを作らないと、西側諸国のいくつかはマジで手遅れになるんじゃないかと、そっちの方が心配。ロシアとか中国を叩いたからといって日本の国内需要が復活するわけじゃないですからね。
本題に戻って、2019年崩壊説の出所が2016年のロシア中央銀行発表、というのが要注意ですね。エリヴィラ・ナビウリナ総裁を始めとして、ロシア中銀には大西洋主義者、リベラル人脈が強いと言われています。彼らはロシア経済は資源依存だ、改革が必要だ、民営化が必要だ、外資の導入が必要だ、と叫んでいます。ちょうどこちらの記事の逆を行こうとしているのですね。そんな言葉に騙されないロシア政府がこの堅調な状況を作っているわけですが。プーチンはわかって彼らを泳がせているのでしょうか。その方がリベラルの馬鹿さ加減を国民がよく理解すると考えてのことなのか、という気さえして来ています。
ロシアでも、大学の学費が有償になったとのことですが、こちらは有償などという生易しいレベルではなく、私の住む州では、州立大学でさえ年間4万ドル近くかかる。子供一人卒業させるのに、1000万円以上かかる。とうてい親が全額負担できるはずもなく、多くの学生は、卒業と同時に借金をかかえる。(学生ローン)
就職でつまづくと、この学生ローンが足かせになり、自立できず、実家暮らしが続く。
運よくまともに就職でき、結婚すると家を買うため多額の住宅ローンを組む。アメリカの不動産高騰は異常で、20年前に3000万円程度だったものが、今は平気で1億円以上する。金持ちの親がいて、資金援助でもしてもらわないかぎり、普通の若者にはマイホームは手が届かない夢。
年をとれば病気もする。家族がこちらで手術を受けたら、かかった医療費が日本円でウン千万円。東京でも家一軒かえる金額。会社で加入している医療保険でほぼ支払えたが、それでも驚くような額を自腹から払った。高額の医療費が払えないと、破産するか、家を担保に又借金をする。
十分な預貯金もないまま、働けなくなり、収入がなくなると、今度はリバースモゲージをする。長年あくせくローンの返済にはげみ、やっと自分の物にした自宅を、今度は死んだら金融機関に譲渡する条件でのローン。
墓場にたどり着いて、やっとローンから解放される。
ちなみに、学費ローンでさえ、金利4%~7%するのに、カネを預け入れた際の金利は1%台。この差額は一体どこへ行った。
あぁ、なんと貧しいアメリカ人の一生か。
ちなみに、アメリカの教員は、あの長い夏休み、給料は出ません。なのでアルバイトをするというオチつき。