1日付けで、アメリカがイラン向けの大規模制裁をついに発動した。やるやると言われていたそれ。
Trump to reinstate all US sanctions on Iran, targeting over 700 entities & individuals
Published time: 2 Nov, 2018 14:33
Edited time: 2 Nov, 2018 15:47
https://www.rt.com/usa/442966-trump-iran-sanctions-return/
これは米を含む国連常任理事国5か国+ドイツが苦労して苦労して引き出したものだったのだが、それをトランプが蹴った。そこで、米はこのいわゆるイラン・ディール以前の制裁を戻したというのが基本線。
アメリカは自分で脱退しただけでなく、イランと石油取引するなと世界中の国を従わせようとしたが、ロシア、中国、インドなどがそんな義理はないと突っぱねたり、欧州がそれでも我々はイランと取引するとデカい声で吠えてみたりといろんなことがこの何カ月間かに行われた。
結果的に、8カ国が米国の制裁をオマケしてもらえる見込みになったらしい。なんでこんなことがオマケなのかというのがそもそも謎で、どうしてアメに他国に従わせる権利があるんだよ、という話であり、なんで他国はそうあっさり従うんだよ、という話でもある。
米国 イラン産石油輸入制限で8か国を適用除外に
https://jp.sputniknews.com/politics/201811025535557/
この8カ国は、インド、トルコ、日本、韓国、中国あたりは堅い線と言われているようだが公式発表は多分今もない。
各国それぞれ、全量ではなくていくらか減らしてOKをもらう、みたいな恰好にしていると思う。
これはつまり、2012年にイランをSWIFTから投げ出すという暴挙の頃にも同じことが起こって、その時に中国はほとんどしたがってなくて、日本、韓国あたりは半減した、ぐらいの恰好だったと思うが、今回もそれに近いことが起こっているものと想像する。
イランの側は、産経新聞あたりは、イランは苦境に立った~とかいう大喜びの記事を書いていたが、そこまではいかないでしょう。
迫る原油制裁 追い詰められるイラン、国民生活への圧迫必至
https://www.sankei.com/world/news/181103/wor1811030027-n1.html
しかしほんと、ネオコンになるとこうまで人間性が賤しくなるのかと産経を見るとつくずくそう思う。イランに罪がないばかりか、個々のイラン人には何の落ち度もないのに苦境に立たされることを、こうまで派手に喜ぶんだなと、呆れてものもいえない。私がイラン人だったら、お前らこそ地獄に落ちろとまず思うだろう。
2014年にロシア経済を崩そうと通貨をいじって、ロシア一般国民の生活を混乱させた時に、日本を含む西側勢が大喜びをして、ロシアで時ならぬ通貨暴落で困った人を探し出してきて泣いてる様を競って報じていていたこととまったく同じ。
西側というところは、他人の生き血で食ってる。それどころかそれを寿ぐことを生業として恥じない。江戸時代のお殿様も家臣団も決してできなかったようなメンタリティーだとしみじみ思う。
■ ロシア版SWIFT「SPFS」
さてこの話は、しかしイランだけの問題ではない。そして石油だけの話でもない。決済の話が隠れたテーマですね。
どうしてアメの言うことを聞かないとならないかといえば、金融決済システム、わけてもSWIFTというネットワークから外されたら商売ができなくなるから怖い、というのが下敷きになってる。
これは2014年に、ロシアもクリミア危機の時にSWIFTから外すぞ~とオバマ政権から脅された。しかしSWIFTの側がそんなことないですとなんとなく煮え切らないままに終わった。
どうしてそうなるのかといえば、その時も書いたけど、こんないい加減な政治的な動機でどこかを外す、みたいなことをしたら信用がガタ落ちになるからですね。ガタ落ちになっても、頭もやる気もない人たちだけならそれでいいけど、今日の世界は違ってる。
中国は自分ちの国内決済システムを持ってる。ロシアも作ると言い出した。
その時言ったそれがSPFSというもので、もうできてる。
Russia's alternative to SWIFT payment system poised to eclipse the original – MP
https://www.rt.com/business/442946-russias-analogue-of-swift/
で、このシステムを中国と繋げればそれだけでも大きいが、それだけでなくこのネットワーク内なら、SWIFTという西側御用達の、結局のところ米財務省にみんな抑えられちゃうネットワーク以外で収支決済を完了できる。
つまり、制裁されたって使える仕組みがここにある。
あと多分、この決済システムはSWIFTみたいに銀行単位ではなくて、企業or 事業体単位でアカウントを開くという構造なのではなかろうかと思う。
そうであるなら、銀行間取引ネットワークによる決済の独占構造みたいなのが壊れるという話ではなかろうかとも思う。
ある意味、仮想通貨問題と似てますね。しかし仮想通貨と違って、ロシアやらイランが他国と取引する最大の品物は石油、天然ガスといったまったくの実物。
これをある意味で相対取引的に決済しちゃう、という点が新しいような気もする。
そしてもちろん、デフォルトでドル決済になっていた石油・天然ガス取引を、ドル決済以外でもできるようにしたという点ももちろん今日重要。そしてカザフスタン、トルクメニスタンなどロシアと親しい国々の売り物はエネルギー関連ばっかり。ここがこのシステムに入っていく。
何年か経ってみないとこの効果はわからないわけだけど、いやぁしみじみロシアはやることがデカいよなと今更なことを言いたい。
そして、2014年にも書いたけど、SWIFTで脅しをかけた人たちはアホ。恐怖支配のコツは、恐怖支配されているという事実を人々に認識させず、これが自然なのだと思わせることでしょ? それを、どうやって支配されてるかをこれだけ見せつけたら、そらもう崩れますがな、といったところ。
■ 個別決済、三角決済、などなど
で、そうやって銀行を通したSWIFTに乗らないと国際決済ができないというある種の思考の枠組みが壊れたら、考えられることはいろいろある。
インドが米ドルの代わりに中国人民元の使用を検討
http://parstoday.com/ja/news/world-i49275
新聞エコノミックタイムズによりますと、この計画はインドルピーと人民元の直接交換の可能性を整え、トランザクションの費用削減を支援するということです。
この提案により、インドは医薬品やオリーブオイル、砂糖などを中国に輸出する際、ルピー建てで行うことができる一方、電化製品などの規模の大きなものは、以前同様、ドルを使用することになります。
この場合、ドルがルピーより安定しているという前提があるからこうなんですが、これがどこかでそんなでもないよな、となったら、後は個別企業の判断ということになるでしょう。
しかし為替差損というのは非常に大きい。企業が利益を10%上げるのは大変なことだが為替はそのぐらい日常的に動く。しかし固定相場制にはそれ自体にいろいろ問題もあるし、この率を巡って戦争になりかねない。
ということで、部分的に、政府管掌で事業体を作って、そこが国内の輸出入決済を寄せて外国と決済する、相場は年に1回見直す、みたいな仕組みもあってもいいのかもなと思う。小規模事業者限定で。
もちろん、丸裸で市場に出て、為替差損で利益をゲットするという考えの企業があってもいい。2ウェーでいったらどう?
■ トルコストリーム
上のロシア版SWIFT「SPFS」の話で思い出したのだが、2014年にロシアが通貨安から大騒ぎになっている最中に、サウスストリームというブルガリアにあげてバルカンを通すパイプライン構想を止めて、トルコストリームにすることにした、という話。
バルバロッサ作戦 v2: サウスストリームやめました、トルコに行きます
サウスストリームは、ロシアに近しいブルガリアから入って、セルビアも通すから限りなくスラブのお友だち的な何かだった。それをEUが難癖つけて、事後法的にロシアはなんだらかんだらに違反してる~とか騒いで潰しにかかった。ブルガリアは、ものすごくおいしい話だったのに踏ん張れず、EUに屈した。
これでは頼りにならないから頑張れるトルコを上陸ポイントにするというのがロシアの態度だったが、これは先を考えれば、ブルガリアに上陸させてバルカンを南から北にあげる方法だと、決済通貨はユーロとドルの世界でしかない。しかしトルコにすれば、先は違った見通しになる、という判断もあったのではなかろうか?
トルコには既にブルーストリームというパイプラインが通っていて、そこにトルコストリームまるまる一本分の天然ガスが乗っかった。そして今、トルコ分がまるまるドル・ユーロ世界以外の決済で流れる可能性がある。
EUは実に愚かだったと思うなぁ。サウスストリームを通していれば、ロシアは欧州世界との関係が第一のロシアだったわけですよ。ところが、ウクライナ危機の制裁で、ロシアは中国に行き、そしてここでトルコの側でも将来の自分の世界にとってマイナスにならない方法で飯の種を確保してた。
南北回廊の話と併せてみるに、やっぱりこうフォーカスはNATO使って東欧、中東を制覇しようとした組みが負けてるという感じはひとしお。
エネルギー・輸送のハブになるアゼルバイジャン
こっちの北極海航路も、夏場は北極海航路を使うという選択肢が出て来たわけで、スエズの価値の減退をもたらしてる。冬場も今年の厳冬期にイギリスがロシア北極海からの天然ガスをスポットで買っていたことからも限定的にせよ稼働できるエリアがあるんでしょうね。多分北大西洋海流の影響がある地域に出るまでの一部に砕氷船が必要、みたいな構造なのでしょう。
ソ連は資源があって人がいて良いものできたらそれで何が悪い、という感じの人たちだから、紙切れ刷ったり数字いじって回して回すと50年後に国を盗める、みたいな発想をする人たちを嫌悪してたと思う(笑)。
ブレトンウッズに入れといわれて拒否した時、ソ連の誰かがあいつら(ウォールストリートとかシティとか)は極悪(evil)と言ったとか言わなかったとかいう噂は結構信ぴょう性があると思う。