盛大に孤立していることになっているロシアだけど、カスピ海沿岸諸国との関係強化を図って尚意気軒昂の趣という感じ。
この問題は西側メディアはどうもあんまり取り上げないようだけど、結構なインパクトじゃないのだろうか?
日経さんの記事は充実してた。いちいちロシアは孤立回避の狙いがある云々という定型句をつけなければもっと読みやすいと思うんだけどね。
カスピ海25カイリの主権・漁業権で合意へ 沿岸5カ国
http://www.nikkei.com/article/DGXLASGM29H24_Z20C14A9FF8000/
【アストラハニ(ロシア南部)=石川陽平】旧ソ連南部とイランに接するカスピ海の領有権問題が約20年に及ぶ意見対立の末、初めて解決に向け動き出した。ロシアなど沿岸5カ国が29日の首脳会議で、沿岸25カイリ(約46.3キロ)にそれぞれ国家主権と漁業権を行使する水域を設けるとの政治声明を採択する。ウクライナ危機を巡って欧米と対立を深めるロシアは、カスピ海沿岸諸国と関係を改善し、国際的な孤立を回避する狙いがある。
沿岸5か国とは、イラン、ロシア、カザフスタン、アゼルバイジャン、そしてトルクメニスタン。
合意内容の基本は、それぞれに主権水域と排他的漁業権を設けて、残りのところは共同管理というところが焦点といえば焦点だけど、それ以外に全体として、カスピ海は沿岸諸国の共有のものですよ、ということが協調され確認され、合意されていることも重要だと思う。
その上で、沿岸国以外の外国の軍隊の駐留の禁止を盛り込み、会議の後、そうであればということで沿岸国で2016年に軍事演習しよう、とか言いだしている。
さらに、カザフスタンのナザルバエフ大統領は、ここを自由貿易ゾーンにしたらいいんじゃないのと提案してる。もし、核問題でイランがさらなる制裁をくらったとしてもこのゾーンがバックアップするという線も見える。
日経さんは、
ロシアには外交方針の軸を東のアジアとともに、南方にも移す思惑がある。水上や水中の共同管理を主張しているロシアが、25カイリの主権・漁業権設定で一部譲歩した背景にも、欧米以外の国々に接近する目的がありそうだ。
と結んでいるんだけど、欧米以外の国々とロシアとの関係は通常通りかそれ以上に活発なので、この結びって何?とちょっと笑った。
一部譲歩した背景は、そんな「お友達が欲しかった」とかいう話じゃなくて、カスピ海をロシアとイランでがっちり押さえる構想の一環じゃないでしょうかね。で、両国の真ん中にあるアゼルバイジャン、すなわちバクー油田というのが、19世紀後半から西欧諸国というか金融資本というかが欲しくて欲しくてたまりませんという場だったわけでしょ。だからソ連が崩壊した後ただちにこのへんが動いた。
しかしアゼルバイジャンは遠い将来まで欧州に流せるほどの天然ガスはないらしくて、では、と目がついたのが対岸のトルクメニスタンなんじゃないのかな、と思われます。ここはとても豊富に持ってる。トルクメニスタンがロシアがらみの政治的枠組みに微妙に入っていないのはそのせいでしょう。
しかし、トルクメニスタンとアゼルバイジャンがこの合意に入ったことで、トルクメニスタンの天然ガスをカスピ海を通してアゼルバイジャンにもっていって、そこからグルジア、トルコあたりを通して欧州に運ぶという案は、イランやらロシアやらの承認がなければ出来ない、ってことになるんじゃないですかね。だって、カスピ海の真ん中は共同管理区域だから。
もちろん、各国の経済活動まで制限するような話ではないから引き続き、いわゆる西側のプロジェクトは進むだろうけど、カスピ海をアゼルバイジャン、トルクメニスタン、イランを通して出来る限り西側の思惑通りに開発しよう、という話には待ったがかかったということじゃないかと思う。
そういう意味では、具体的には日経が指摘するように、領有権問題としてはロシアが一定程度どころかかなり譲歩した形だと思うけど、引き出されたものは、イランをより明確に独立志向にもっていく(西側に振り回されないようにする、という意味)、トルクメニスタン、アゼルバイジャンとの対話機会(というか合法的関与方法)ができた、ということで、ロシアは領有権よりも戦略的重要性を取ったということじゃないかと思う。別の角度からみれば、コーカサス安定対策の一環でもあるだろうし。
ロシアのプーチン大統領 「カスピ海は、この海に面した5カ国の戦略的な財産である」
イランのローハーニー大統領 「今回、5カ国の間で成立した合意は、これらの5カ国がカスピ海に関する問題において協力を拡大する意思があることを示している」
という、イランラジオの記事にあった纏めは、決して美辞麗句とか修辞ではないと思うわけです。考えようによっては要するに、各国主権と同様カスピ海主権みたいなものを沿岸諸国が打ち立てた、という感じじゃないですかね。
そういうわけで、私がかねがね勝手に「そうなったら面白いだろうな~」と思っている(冷戦というよりグレートゲーム v.2.2)、
「イラン、ロシア、トルコが徐々に非常に安定した関係になっていったら30年後どうなるのかな、と。」
というアイデアがまんざらでもないような感じになってきてて喜ばしい。
(このコンビはなんか怖い。左プーチン大統領、右:カザフスタンのナザルバエフ大統領)
■参考記事
冷戦というよりグレートゲーム v.2.2
グレートゲーム v.2.2:NATO、イランとロシアにカスピ海から締め出される
The Great Game: On Secret Service in High Asia | |
Peter Hopkirk | |
John Murray |
ザ・グレート・ゲーム―内陸アジアをめぐる英露のスパイ合戦 | |
Peter Hopkirk,京谷 公雄 | |
中央公論社 |