東芝の株主総会が大騒ぎだった模様だけど、海外では主にウェスチンハウスの倒産が大きく報じられていた。どんな会社かというとこんなに古くて立派な会社なんですよというなんか死亡記事のお悔み欄のような褒め方にも見えた。
しかし、そんなに立派な会社なら一体全体どうしてウエスチングハウスはそんなに借金だらけだったのだろうか。むしろその負の来歴にあまり具体的な光があてられないことが不可解だ。
で、その問題の種について東芝さんは、
――WHを買収してからの約10年をどう総括するか。
綱川氏「今振り返ると非常に問題のある判断だった。(原因は)一言で言うのは難しい。ガバナンス(企業統治)や意思疎通など経営の全般的なことを中心にした問題だと考えている」
と語り、米で建設中の原発については、これ以上の追加コストはないだろうとお考えの様子。
東芝社長、WH買収「問題ある判断」 海外原発事業から撤退
http://www.nikkei.com/article/DGXLZO14678770Z20C17A3TI1000/
さてしかし、どうなんでしょうね。
というのは、ウェスチングハウス自体も今後スポンサー探して再生する気なわけでしょ。しかしその目途が立っていない。ということは未完の米4基+中国4基について誰がどうやって金出すの、という話は残るわけだし、完成するまでにさらなる遅れだってあるかもしれず、そうなればまたお金でしょう。まだまだ東芝は油断できないんじゃないですかね。
一時韓国の原子力公社がウエスチングハウスを買うんじゃないかと言われていたけど、昨日あたりこの公社がきっぱり断っていた。
韓国は原発輸出に大きな野望を持っているから購入意欲があるんじゃないかと思われたんだろうけど、日本の様子を見ていて、これは嵌めるプロジェクトなんだなと思って引いたのじゃなかろうかなど思った。
ウエスチングハウスは、米国に4基、中国に4基、工事中のものがあっていずれも工期がのびのびになっているだけでなく、インドで6基今年中に契約しようとしている。
インドは警戒感を強めている感じもあるのでこの話がどうなるかはわからない。
インドの記事を読んでいたら、だってなにしろウエスチングハウスが売り込んでるAP1000は、まだ一つも動いていないんだよ、どれも建設中なのでまったく実績がないわかだからそれだけでもリスクだろう、いくらになるかもわからない、みたいなことが書かれていた。もっともな話でしょう。
少なくとも1基でも安定運用が可能になったのを見てからだって別に遅くはない。
で、その間自分んちの設計で間に合わせればいいんだろう、となるんじゃないだろうか。ちなみにインドで現在稼働しているのはロシア製なので、ロシア製と比べて高いとか安いとか遅いとかどうだのこうだのを比べられるポジションにいるので、インドの記事は書いてることがあっさりというより、バッサリで面白いかも。
Assurances notwithstanding, India must not enter into a contract with a bankrupt company
http://www.thehindu.com/opinion/op-ed/say-no-to-westinghouse/article17745500.ece
多分、中国も、とりあえず一緒にやるけど(1基は今年中にできる予定)、基本は自国設計でいきますという態度となるでしょう。
中国が第三世代を作れないだろうと見越してAP1000を売り込んで、それをガンガン作る予定だったのに中国が自分でできちゃったことが失敗だった、みたいなことをウエスチングハウスの関係者が言っている、という記事もあった。
But industry sources said the Pittsburgh-based firm underestimated China's ability to develop its own home-brand third-generation designs, with China's own "Hualong 1" reactor selected over the AP1000 for a number of domestic nuclear projects.
http://uk.reuters.com/article/uk-china-nuclear-westinghouse-idUKKBN1710C2
こうやって並べてみれば、ロシアの第三世代プラスであるVVER-1200が商業運用に入ったという記事が無視されたのも無理はないような気がしてきた。やっぱ、悔しいのか、みたいな。
■ ほんとに大丈夫なのかAP1000
いやしかし、であればなおさらその西側さんチームの余裕のない姿勢が不安を誘う。
東芝とウエスチングハウスの話を読んでいて非常に不安になるのは、インド人が言う通り、この機種は今のところ世界中のどこでもまだ運用されていないわけで、で、このAP1000なるものの工期の遅れは単なる遅れで済むものなのだろうか・・・。
つまり、次から次から出てくる問題点というのは、1つ作ってしまえばかなり解決しちゃえるものなのか、それとももっと深刻な問題なのか・・・。
1月にウォールストリートジャーナルが書いていた記事が参考になる。なんなのこの手作業って感じでいろいろ問題が起こっているように思えた。(記事は有料の壁に阻まれてこのリンクではちょっとしか読めないけど、このタイトルで検索すると中味を貼りつけてらっしゃる方がいます)
東芝の苦境を物語る中国原発事業の誤算
http://jp.wsj.com/articles/SB12796882447964964591404582528381470392016
万一、今年中国で完成されるはずのものが完成されなかったら、これってアレバの二の舞状態になるということ??などという気がしてきたりもする。
東芝はもう付き合いきれないってんで手を引いたとすれば、それってアレバからシーメンスが手を引いたのと似てるかも。
このへんで書いた通り。
ハンガリー、新規原発着工にEUがゴーサイン
■ 総じていえば、これも多極化なのに
どうなるかわからないけど、でもまぁ考えてみれば、石油も天然ガスもあるんだし、太陽光他の他のエネルギー資源の利用も本格化している中では、原発にかかる比重は減ってる。中国も言われてるほど原発作らないんじゃないかという観測もある。だけどそれでもは場所と使い道によっては効率的だというところもあるでしょう。
だからこれからは、各国ごとにそれぞれのベストミックスを追及するということになるんでしょう。というか、そもそもそういうものでしょう。
日本の場合の特殊性はこの列島があまりにも地震に満ち満ちている(冗談のようだがそう書きたいぐらいだ)ことで、これを無視して、ドイツがどうだアメリカがどうだと考えることがまず間違ってる。あの人たちの多くは生涯に一度も不意に地面が揺れるような事態を経験してないんだから。
ということから考えると一体どうして、アジアに原発を売り込む先兵となろうという気になったんだろう、東芝、というのがますます不思議になるし、やっぱり引き続きこれは東芝単体の判断ではなかっただろうとも思う。
だってとっても国際政治的なんだもの。
例えば、インドとの原子力協定がらみではなかろか、ってところはどうですかね。まずアメリカとやって、次に日本と協定したでしょ。このディールの中に日本に保証持たせてインドに原発作る、みたいなことがあったのでは、などと想像してみる。そして2011年以前の日本は、原発神話堅持の状態だった。
インドはアメリカのユニオンカーバイドが1984年に大事故を起こして以来、外国企業の事故対応には非常に厳しいので、原発の場合ならプラント建設の責任を厳しく問うに決まっている。
これこれこの事故。ボパール化学工場事故
もしそうなら、ウエスチングハウスとインドの契約はまとまらない、となる見込みは大きいのだろうか。さてどうなるものか。今年の様子を引き続きウォッチしよう。
』さんの紹介だと『ウエスチングハウス社は、もともと潜水艦や空母のエンジンを開発・製造してきたアメリカの名うての軍需産業でもありました。』がアメリカの原子力産業の衰退の、軍需部門をノースロップグラマン社に売却、したそうですね。『東芝はババつかみ』『blog.goo.ne.jp/tomorrow_2011/e/131394e574277a2a46dfaccdd6c447cf/?page=2』
そのへんは私も読んでますが、しかしそれにしても不可解。オリジナルの会社を再編して1999年に新しくできたのが現在のウエスチングハウスなわけですが、そこで持ちこされた資産がどういう採算性があったのか、が問題なんじゃないですかね。多数持ってるライセンスは別会社になっているのもポイントか。
ということは、東芝があんなに高い値段で買ったことそのものが大問題だった可能性大だったんでしょうね、多分。