評判になっていた本だけあって、オンライン予約してから数ヶ月して漸く手元に届き、昨日読み終えた。著者は元NHKの記者だった。既にNHKを退社し(辞めさせられたと書くべきかもしれないが)現在は大阪日日新聞社の論説委員かつ記者なので、元NHK記者となる訳だ。
かの森友学園問題について、全国報道では「朝日が火を付けた」と言われ、その通りなのだが、関西方面では朝日の報道に先んじて一番最初に報じたのはNHKで、その原稿を書いたのが相澤記者だった。その相澤記者がNHKを退社するまでの一部始終を書いたのが本書である。
私には偏見があったと思う。NHKの記者は、誰も皆現政権寄りの記事を書くのだと思い込んでいた。そんなことはないのだ。相澤記者は自称右翼ながら、真実を報道しようという記者魂に富んでいて、安倍政権に都合の悪いことでも原稿に書く。スクープを狙ってもいる。NHKの記者も新聞社の記者と同じように特ダネを狙っていることも初めて知った。
例えば、相澤記者による、森友問題のスクープ原稿の概略は次の様になる。
「大阪・豊中市内にあった国有地を国が学校法人に売却した金額が公表されないことから、豊中市の市議会議員が金額の公開を求めて大阪地方裁判所に訴えを起こした。この土地に建設中の小学校の名誉校長には、安倍総理大臣の妻昭恵氏が就任しています。会見で木村議員は”近畿財務局が売却した過去3年間の土地の代金はインターネット上公開され誰でも見られる様になっている。この土地だけ情報公開を請求しても金額を出さないというのは、背景に何かがあると見られても仕方がない”と訴えました」
しかし、この原稿はデスクにより書き換えられる。
相澤記者は籠池理事長への単独インタビューにも成功していた。大坂地検特捜部への突撃取材も敢行し記事を書いていた。現政権に都合の悪い記事は、彼の上司やNHK上層部によって何度も書き替えさせられた。そのやり取りに多くのページが割かれていた。
「安倍官邸vs.NHK」との本名は適切ではないと思う。これではNHKが官邸と対立しているように読めてしまう。本書は”真実を報道しようとする一記者”対”安倍官邸へ忖度をして記事を書き換えさせようとするNHK上層部”という構造になっている。
籠池夫妻は詐欺容疑で逮捕されて、問題の本質が目くらましされ、財務省関係者全員は不起訴で森友問題が一応の終焉を迎えたかに見えた昨年の5月14日、相澤氏は考査部への異動を告げられ、記者から外された。
森友問題の本質は、なぜ大阪府は認可条件を満たない学校を認可しようとしたのか?なぜ国有地を近畿財務局は破格の値引きをして売却したのか?にあったのだ。まだ何も解明されていないと考える相澤氏は、この問題の真実究明の報道の為にはNHKを退職し大阪日日新聞へと転職せざるを得なかった。