前回の続きです。
ケンボウ先生は、ことば用例採集に情熱を燃やした。辞書の基本となることばを四六時中採集し、その数145万語と書かれている。それを基に、現在進行形で使われている言葉を多数採用した。徹底的に現代に即した辞書を目指す『三国』は「国語辞書=お堅い」とういイメージを覆した言葉が多々あるという。用例が面白いので、敢えて書くことにすると
【エッチ】いやらしい(ことをする)ようす 【A】キス (以下【B】ペッティング、【C】性交などと続く。確かにある時代こんな風な表現があった)。序文で、辞書はことばを写す”鏡であり、ことばを正す、”鑑”でもあるという「辞書=かがみ」論を展開したケンボウ先生の信念の具体的発露の結果だった。
一方、山田先生の信念は「辞書は文明批評」
【政界】(不合理と金権が物を言う)政治家どもの社会 【よのなか】愛し合う人と憎み合う人、成功者と失意・不遇の人が構造上同居し、常に矛盾に満ちながら、一方には持ちつ持たれつの関係にある世間
『新明解』は、それまでの辞書に多かった”いいかえ”や”堂々めぐり”を打ち破るために、長文も厭わず、このとばの本質を捉える方針を採用していた。主観的過ぎるとの批判を受けつつも、今までの辞書からは考えれない面白さが受けて、2000万部もの売り上げ。この辞書を題材にした赤瀬川原平著『新解さんの謎』はベストセラーとなった。
ケンボウ先生がことば採集に執念を掛け過ぎるあまり、新しい辞書編集がなかなか先へ進まない現状にイライラした山田先生は、ケンボウ先生が主幹する辞書とは別の辞書作りを開始した。源流『明解』の分流点がそこにあった。『明解』では助手の位置に甘んじなければならなかった山田先生の積年の思いでもあった。源流から別れた二つの川は大河となった。
両先生を対比しつつ、ともに生涯を辞書作りに捧げた、巨星お二人への敬愛に満ちた本書、読み手の力不足により、そこに書かれた面白さを十分に伝えられないことが残念である。
辞書は引くものと考えてきたが、読む面白さもあることを教えられた。我が家にあるのは『新明解』(第五版:山田先生最後の版)。第三版ほどの迫力はないかも知れないが、今後は読みを加味したい。
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