久し振りにいい時代小説を読んだ。物語展開が面白い。読後感が爽やかで清々しい。そして、何よりも抑制された筆運びが美しい。最初の2回は図書館から借りてきて読んだが、その文章をじっくり味わいたくて、最近購入し3回目を読み終えた。
舞台となるのは、架空の、十万石ほどの神山藩。主人公の高瀬庄左衛門は齢50歳目前。郡方(こおりかた)を務め、藩内の村を見回り、その様子を御留書として、上役に報告する日々。
妻に先立たれた庄左衛門の一人息子が郡方のお役目中、崖から落ちて命を失うところから物語は始まる。嫁の志穂を実家に帰し、好きな絵を描くことで一人暮らしの寂しさ、無聊を慰めている。その志穂は庄左衛門の非番の日に絵を習いにやって来るようになる。
静かな平穏の日々を過ごす庄左衛門に思わぬ人との出会いがあり波風が立ち始める。脇役ともいうべき人物やその交流も良く書き込まれている。
志穂の頼みで人を見張る夜、偶然出会ったのが夜鳴き蕎麦の屋台を引く半次。暗い過去を持つが、江戸仕込みの旨い蕎麦を食わせてくれる。
江戸から戻り藩校日修館の助教となった立花弦之介は、何故か庄左衛門に一緒に新木村を訪れたいと語り、二人して郷方回りを始める。
剣の師匠の墓参りの折、師匠の娘芳乃と偶然再会した庄左衛門は若かった頃剣に打ち込んだ仲間と自分を思い出す。
そんな平穏に見えた日々が突然破られる。庄屋の次郎右衛門の病を見舞いに新木村を訪れた際、強訴に向かう百姓の一団に遭遇し、弦之介ともども庄屋屋敷に擒となってしまったのだ。その災難をなんとか逃れた二人には「士道不覚悟の疑ひこれあり、ただちに評定所まで出頭いたすべし」との一筆が待っていた。果たして庄左衛門と弦之介の運命や如何に??
実は強訴は藩の政争の一端だった。息子の死も其処に端を発していた。全てが明らかになり、政争は収束し、庄左衛門に再び平穏な日が訪れて来た・・・。
庄左衛門は人の誠を貫き、厳しく己を律する日々。そんな義父に微かな思慕を抱く志穂だったが、思いを断ち切り、目付け役筆頭の娘花江の側仕えとして江戸へと旅立っていく場面が哀切極まりない。
藤沢周平著『三屋清左衛門残日録』を連想させる作品で、是非この続きの「神山藩シリーズ」なるものを書いてほしい。
直木賞選考委員会が14日に予定されているそうな。河鍋暁斎の娘を描いた、澤田瞳子著『星落ちて、なお』も本作品もノミネートされている。この2作品がダブル受賞されることはないだろうか。
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