季節はずれのインテルメッツォ(続)

音楽、文学、絵画、スポーツ、シェパード等々についての雑記帖。

教育再生会議?

2009年05月21日 | その他
聊か旧聞に属するが何とかという教育系諮問会議に陸上の朝原選手とノーベル賞受賞の小林さんが選出されたそうである。

僕はこういったきな臭い会議を好まないけれど、その正体が時折こうやって顕れる。

小林さんという科学者は、ノーベル賞をとるまではまったく知らなかったから人となりをはじめ、親しみの持ちようがない。

朝原選手は、僕が陸上競技に関心があり、昔から期待して見ていたから、一方的な好感は持っている。

大きな期待を受けながら、世界の壁は厚く、世間で評価される成績はなかなかあげられず、いよいよ引退も目に見える形で迫ったころ、予想もしない形でオリンピックの銅メダルに輝いた。

競技が終わった後の浅原選手はじつに嬉しそうであった。ここで「私も同じくらいうれしかった」と書くのが日本の作文のお決まりであるが、そんな嘘は書かないよ。しかし、赤の他人のことなのに、じんわりと「良かったなあ」と感じたことは本当だ。人間というおかしな動物の特徴を僕も人並みに有しているわけである。

そこで朝原選手にも、ひとつ「出来損なっている」子供たちの鑑になってもらおう、というのが会議に呼ばれた理由だろう。

出来損なっているとは誰も言っていないと言うなかれ。「再生」という文字がすべてを語る。

トカゲの尻尾が切れたら再生するというが、子犬の尻尾が伸びるのは再生とはいうまい。

出来損ないと目するから再生させねば、となるわけだろう。千葉県知事選挙で森田健作のマニフェストにも堂々と「なぜ今の若者はこんなになってしまったか。教育の再生を全力で目指す」といった主旨が謳われていた。

まあ僕は、白状すれば、中学高校のころ、爺さん婆さんの世代も気に入らなかったが、自分と同じ世代の連中もたまらなかったから、この歳になってから自分の世代と若い世代を比較してあれこれあげつらう趣味はまったくなくて、その点はさっぱりしたものである。

若い奴は、と苦虫噛み潰すやつは自分が若くないという苦い思いを正視できないのだろう。ただそれだけだ。歳をとるのは辛いものなあ。だから若い人よ、君たちもやがてジイサンバアサンになることを忘れるな。ミゼレーレだよ。

再生のための会議で朝原選手にはすでに発言のシナリオが渡されているようなものだ。夢を持ち続けることの大切さ、及び努力は必ず報われる日が来ると知って欲しい。こんなところだろう。自分はこれこれのおかげでそれを持ち続けた、と。しかも、その申し出を受け入れたということは、彼(ら)も自分に割り振られた役目を果たそうと務めるだろう。

夢を持つことは大切だ。でもちょっと考えてみよう。夢を持たぬ人というのは本当にいるだろうか。

努力だって大切だ。しない人もいるかもしれないが、殆どの人がする。

しかし、必ず報われるということはない。むしろ報われないことのほうがはるかに多い。

結果が出た人は努力を重ねたからだ。それは本当だ。仮に僕がロトに当たったとしよう、それは僕が購入する努力を惜しまなかったからさ。

夢を持ち続けたことも本当だ。ここでまた宝くじを持ち出したっていいぞ。不真面目だと顔をしかめる人はどうぞ。

つまり僕は努力とか夢の性質について言いたいのである。報われた人は他の報われなかった人たちを、努力と夢見ることが足りなかったと見做し勝ちなのだ。これは大きな間違いだろう。一般に成功者の言動が鼻持ちならないのはそこからくるのだと思う。

成功を収めるのは多くの場合ほんの偶然による。芸術分野での評価は赤の他人がするし、科学の世界では2番目の発見者はまったく無視される。発表が1分でも早ければ、という世界なのである。

それは当の本人たちがよく知っているはずなのに、いざ祭り上げられると鼻白むような談話を連発する。野依さん(ノーベル賞受賞者)が座長を務めていた諮問会議の「提言」を読んであきれちまった。そろいもそろって付ける薬がない手合いだ。

詳しく議事録を読めば誰がどういう発言をしたかまで分かるが、ここではいくつか紹介のみ。

マンションの各家庭に床の間をつくる。ピンと来ない人には指導がくるだろう、覚悟しておいたほうが良い。

どこをどう突けばこんな奇天烈な提言が出てくるのかな。当然何か思いついた「理由」はあるだろうが、我田引水の極みであることだけは間違いあるまい。

もうひとつ。名刺に己の座右の銘を入れる。結構だねえ、重松です、と名刺を渡されて(僕は持っていないけれどね)名前の下に「愛」なんて書いてあったら噴出すか吐き出すかするでしょう。敬天愛人なんてあったらマジマジと顔を見つめたくなるでしょう。いっそ僕としてはバカヤローと書きたいが、それでは配るわけにいかないしなあ。大真面目な偽善者しか思いつかないアイデアさ。

好漢朝原君がこんな空気に馴染んでしまわぬように祈る。

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