江戸の妖怪、怪奇、怪談、奇談

江戸時代を中心とした、面白い話を、探して、紹介します。

河童を倒す秘術  「閑窓自語」

2024-11-21 21:26:06 | カッパ

河童を倒す秘術  「閑窓自語」

           2024.11

肥前の島原の社司の某が、このような事を語った。

かの国(肥前:佐賀県長崎県の一部)にも、かわたろうが多くいる。
年に一二度ばかりは、必ず人を海中に引き入れて、精血をすった後に、遺体を返す。
誰が、思いついたのかは分からないが、こんなことがある。

かの亡骸(なきがら)を棺に入れず、葬らず、ただ板の上にのせ、草庵をつくって、そこに安置する。
しかし、香華(こうげ)をそなえておかなければ、この屍の朽ちる間、その人を殺したカワタロウの身体は、腐っていく。
カワタロウは、元々人間では、捕らえることができない。
そして、どの河太郎の仕業とも知ることが出来ない。この方法は、奇術であるそうだ。

カワタロウは、身体が腐っていく間、かの死がいが置いてある草庵のほとりを、悲しみ泣きめぐる。
人間には、カワタロウの姿が見えずに、ただ泣き声だけが聞こえる、と言う。
もし、誰かが誤って香華をそなえると、カワタロウはその香華を取って帰り、それを食べれば、その身体(からだ)は、腐乱しない、と言う。

死骸を、棺に入れて葬れば、この場合も、カワタロウの体も腐敗しないそうだ。

おおよそ、カワタロウは身をかくす術を持っていて、死ななければ、その姿を見る事がない。
多力にして姦悪の水獣である、と言われている。

「閑窓自語」広文庫より

 


河童(狸だという)に教えられた家伝薬  「池底叢書要目」

2024-11-20 21:21:57 | カッパ

河童(狸だという)に教えられた家伝薬  「池底叢書要目」

                  2024.11

俚俗の談に、こんなのがある。
近古、水虎(スイコ:この場合はかっぱ)がいて、怪をしたが、何某(なにがし)が剣を抜いて、その手を切りおとした。
水虎は悲しんで、切られたその手を請い受けとって、膏薬でもってつないだ。やがてもとのように手が付いて治った。
何某は、怪しんで、その薬方を聞いて、伝えた、と云うことであった。

この書物(何かは不明)を見るに、その説は記載されていない。

これによって、考えるに、それは河童ではなく、実は狸であろう。狸には、確かに、その証拠がある。

小笠原系図(信濃の守 清宗の系譜)に云う。
ある時、清宗は、厠(かわや)に行ったが、奇怪な物がいて、厠に入るのを、邪魔をしていた。清宗は、剣を抜いて、それを切った。すると、たちまち手が切れて落ちた。見ると、狸の手であった。
一両日の後の夜陰に、窓の外から声があった。
清宗にこう言った。
「お願いです。あの手をお返し下さい。」と。
清宗が言った。
「お前は、何者か?」と。
「狸で御座います。」と答えた。
清宗はまた問うた。
「手は、もう切り落されている。手を取り戻しても、何の益も無いだろう。」と。
狸はこう答えた。
「膏薬で、手をつなぐことが出来ます。」

清宗は、件(くだん)の手を狸に返してやった。
狸は、手を得て帰っていった。

また、二三日して、狸は窓の外に来て、言った。
「おかげさまで、膏薬であの手をつなぐことが出来ました。このように治りました。」
清宗は、狸の手が、治っているのを見て、不思議に思った。
そして、狸のその薬方を教えてくれるよう、要請した。

狸は、その薬方を授けた。
今に至るまで、その家の家伝の膏薬となった、と言うことである。

池底叢書要目 広文庫より


マンボウ、封(ほう)と視肉、  河童   「分類故事要語」

2024-11-19 21:19:43 | カッパ

マンボウ、封(ほう)と視肉、  河童   「分類故事要語」

                    2024.11

林羅山先生の梅村戴筆に曰く
本草綱目の獣部に封(ほう)と視肉(しにく)は、同類のように記してある。
関東の海中に大きな魚がいる。その肉を切りとっても、その魚は、痛みを感じない。潮にひたりながら本のように愈えると、言われている。その肉は、俗にウチキと名づけられている。
視肉の類(たぐい)であろうか?
又、封の小児の形ようなるものとあれば、かわたろうの類(たぐい)であろうか?

訳者注:ウチキは、マンボウ(魚)のこと。封(ほう)と視肉は、古代中国の異獣。
封(ほう)は、「本草綱目(李時珍)」の獣部にあるが、その獣ノ四(寓類、怪類)の末尾にある。
李時珍 も、この「封(ほう)」を、怪類(=怪しいたぐい)に分類してあることから、その実在を疑っていたのであろう。

(かわたろうについて)
関東の人は「かわっぱ」と言っている。豊後の国に多くいる。人をも牛馬をもとり殺す。姿は、三歳の小児の様で、顔は猿に似て身に異毛がある。頭頂のくぼみに水があれば、強い。水がなければ力を失なう。
ある人が、「かわっぱ」を捕らえて殺した。しかし、切っても突いても、刃が通らなかった。
麻の茎を削って刺せば通る、と言い伝えられている。

「分類故事要語」 広文庫「かはたらう(河太郎=河童)」の項より

 


仙台藩蔵屋敷の河童  「耳嚢、初編」

2024-11-18 21:14:55 | カッパ

仙台藩蔵屋敷の河童

              2024.11

耳嚢、初編 

天明元年(1781年)八月のことである。
仙台河岸の伊達家蔵屋敷にて、河童を打殺し、塩漬けにして置き、人々に見せて、その後川へ流したそうである。その時見た者が語ったとして、松本伊豆守が見せられた通りに、書き記しておく。
その子細は、こうである。屋敷の内の小児などが、故なくて入水すること十年の間に四度であった。もしかして、河童の仕業であろう、と評議一決して、屋敷内の堀の水をかいぼりした。すると泥の溜りの濃い中を非常に早く潜っていくものがあった。人の手では、捉えがたくて鉄砲にて討ち留めたそうである。
                        
かたわらに曲淵甲斐守がいた。彼は、安永二年(1773)の秋、野州川方御普請見分として出張したが、そこで見た河童もこの図の通りであり、少しも違わなかった、と語った。身長が頭より足まで、おおよそ二尺七八寸も有って、意外にも肉太であった、との話である。

「耳嚢(耳袋)」 広文庫「かはたらう(河太郎=河童)」の項より


市井雑談集  干し首(首狩り)、河童、狸

2024-11-17 21:09:24 | カッパ

市井雑談集  干し首(首狩り)、河童、狸

                                   2024.11.17

縣巫(あがたみこ)は、弦を叩き、死んだ者の魂を招き、自分のロから、死者からの言葉を伝える。
(恐山のイタコのようなもの)
この事は、王充の論衡の記載されている。
かの巫女で、後仏(ゴブツ か?)と称するものを、懐に入れている者がいる。
これは、異相の人の洒落頭(されこうべ)を以ってこしらえた物であると言う。
本当の事かは、わからない。

(訳者注:昔、多分50年以上前に、インカ文明に関する展覧会で、干し首?を見たことがある。その説明によると、人間の頭部から、頭蓋骨を取り除き加工し乾燥させたモノである。おそらく、野球のボールより少し大きかったような気がする。この大きさだと、懐に入れておける。後仏とは、こんなものでは、なかろうか。)


高野山平等院で、水虎(スイコ:河童)が、人にとり憑いて、自己の姿を描いたものが、ある。
その内で、自分の姿を、「己躰此(おのれのカラダは、これ)」と書いたものがある。
怪異の物である。

又、宇治拾遺物語に、こんな話がある。
一人の僧がいて、一庵を結んで、長いこと修煉していた。
ある時、夜々に普賢菩薩が白象に乗って、彼の庵に来た。
庵主は、礼拝して感激の涙を流した。
ここに、一人の凡人がいた。
これを見て、偽物だとして、信用しなかった。
弓を携えてきて、矢を放った。その普賢菩薩は、矢にあたって、倒れた。
見ると、それは古狸の化けたものであった。

このような類(たぐい)も多いことであろう。

「市井雑談集」 広文庫より