河童を倒す秘術 「閑窓自語」
2024.11
肥前の島原の社司の某が、このような事を語った。
かの国(肥前:佐賀県長崎県の一部)にも、かわたろうが多くいる。
年に一二度ばかりは、必ず人を海中に引き入れて、精血をすった後に、遺体を返す。
誰が、思いついたのかは分からないが、こんなことがある。
かの亡骸(なきがら)を棺に入れず、葬らず、ただ板の上にのせ、草庵をつくって、そこに安置する。
しかし、香華(こうげ)をそなえておかなければ、この屍の朽ちる間、その人を殺したカワタロウの身体は、腐っていく。
カワタロウは、元々人間では、捕らえることができない。
そして、どの河太郎の仕業とも知ることが出来ない。この方法は、奇術であるそうだ。
カワタロウは、身体が腐っていく間、かの死がいが置いてある草庵のほとりを、悲しみ泣きめぐる。
人間には、カワタロウの姿が見えずに、ただ泣き声だけが聞こえる、と言う。
もし、誰かが誤って香華をそなえると、カワタロウはその香華を取って帰り、それを食べれば、その身体(からだ)は、腐乱しない、と言う。
死骸を、棺に入れて葬れば、この場合も、カワタロウの体も腐敗しないそうだ。
おおよそ、カワタロウは身をかくす術を持っていて、死ななければ、その姿を見る事がない。
多力にして姦悪の水獣である、と言われている。
「閑窓自語」広文庫より