江戸の妖怪、怪奇、怪談、奇談

江戸時代を中心とした、面白い話を、探して、紹介します。

猫の審判  猫の彫刻の優劣を判断させた話 「安濃津昔話」

2023-01-13 17:27:19 | 奇談

猫の審判  猫の彫刻の優劣を判断させた話  「安濃津昔話」


                                 2023.1
これは、化け猫の話ではなくて、猫に彫刻の優劣を判断させた話である。

津藩の誉れである彫物師田中岷江は、享保二十年に伊賀の中柘植で生れて、文化十三年に八十二歳で津において歿した。
藩に抱えられて十二人扶持を受けたが、その技術は大変に精妙であった。
眠江の弟正好は淵田氏の養子となって淵田の姓を相続したが、これまた彫刻の妙手であった。

或る時、兄弟が彫物に腕前について賭をした。
それは、おのおの一個の鼠を刻んで、それを猫に見せ、一番に飛び掛られた方の鼠の作者を、優勝者としようというものであった。
猫の審判こそ、最もえこひいきの無い公平なものであるとの考えからであった。

それで弟の正好は色々と考えを練って、鰹節を材料に使って精巧な鼠を作った。
形が鼠で、中身が鰹節、これに飛付かぬ猫はいないであろう。
こんどこそ、兄貴の鼻もへし折ることが出来るだろうと、自信満々であった。

それに反して、岷江は無雑作に薪の中から一本の木を引っ張り出した。
それを以て一匹の鼠を作り上けた。
そこで二個の鼠を一室に並べて置いて、襖の間から猫を入れた。
すると、猫は例の如くじっと首を下にし、二匹の鼠を、ややしばらくニラんでいた。
やがてパッと飛びあがった。
そして一疋の鼠をくわえて室外へ走り去った。
あとに残ったは、鰹節で作った鼠であった。

技を称賛したとの事であった。


この話は、弟の淵田氏の子孫が言い伝えた話である。

「安濃津昔話」より

 


三尊佛の亀と大蛇 「安濃津昔話」

2023-01-13 17:25:44 | キツネ、タヌキ、ムジナ、その他動物、霊獣

三尊佛の亀と大蛇      「安濃津昔話」

                       2023.1

 享保十五年二月十二日、四天王寺から藩の役人へのこのような届出があった。
『寺の内の蓮池からはい上ってきた(甲良ぼしに出てきた)亀の甲に、三像仏の御姿が、ありありと見えております。
余りの不思議さに、捕え置いて、御指示を待っております。』との事であった。

すぐに差出させて、殿様の御覧に入れた。
それから寺へ差し戻した。
寺では、その翌日から四日間、一般人に公開した。
それで、毎日群集が押し掛けて、大賑合いであった。


 元文五年六月五日、雲出屋の安右衛門からの報告には、『町裏(大門通西側住宅地と外堀との間の道)の御堀の土手のすすきの中に、大蛇の尾や頭は見えずに、胴体が四尺ばかりの所だけ見えましたが、その太さは確かに二尺廻り以上でありました』との事であった。
 上記の蛇は証拠のない事であるが、亀の甲は四天王寺の七不思議の一つとなっているものである。

「安濃津昔話」より


富田の猫  侍女に化けた猫

2023-01-13 17:07:05 | 化け猫

富田の猫  侍女に化けた猫

                          2023.1

安濃津(三重県津市)城主の富田氏の子息である千丸は、慶長九年に亡くなり、其の墓は、四天王寺(三重県津市)の宗宝院にある。


千丸が闘病中に側付の老女の一人に、いつも額綿帽子でもって顔を隠しているのがあった。
その素振りに不審な点があるので、或る武士が機會を見て、不意に『綿帽子拝見!』と声掛けて、手を延ばして、それをはね除けた。
すると意外にもその顔は人間ではなかった。
世にも怖ろしい大きな虎猫であった。
ソレ!と三四人の武士が飛びかかって、引っ捕えて繩を掛けて縛り上げた。
城主に、その由を急いで報告した。城主は一見して大いに驚き、書院の庭の梨の大木に搦めつけさせた。
日本犬、唐犬の強そうなのを三四匹をつれて来て、けしかけさせた。
しかし、猫は平然として目を細くして睡りかけている状態であったが、犬たちはかえって尻尾を下げて、後ざすさりして、怖がっていた。
それで、鉄の鎖でしっかりと縛り、大手門前の橋の欄干に繋いで、晒し物にして諸人に見せた。
しかし、或る夜、番人の隙を窺って、鎖を切ってどこかへ逃げてしまった。

それから幾年かを経た慶長の末、藤堂高虎が安濃津の城主になった時代に、丸之内にある菅平右衛門が拝領した屋敷内の植え込みの茂った林の中に、猫股が住んでいた。
平右衛門は、その後切腹させられ、それから屋敷は長井勘解由が拝領した。
その頃にも度々怪異な事があった。
それで、富田の猫股がまだ生きているとの噂がしばしばであった。


「安濃津昔話」より

 


「動物界霊異誌」中の蝦蟇(ガマがえる) その5 

2023-01-06 23:15:40 | キツネ、タヌキ、ムジナ、その他動物、霊獣

動物界霊異誌」中の蝦蟇(ガマがえる) その5  

                         2023.1

蝦蟇は、小間隙を潜る(小さな隙間にも隠れる事が出来る)

蝦蟇を捕えて入れた容器に、どんなにピッチリした蓋をしても、夜の間に逃げ出す、と言うことは、古来各地で伝えられている事である。しかし、著者は半信半疑でおり、蓋を堅固にしたと思っても、逃げ出す隙間のある時に逃げるのだ、と想像していた。

しかるに、その後に於いて著者の経験を綜合すると、蝦蟇の隠れ身の術などの伝説には根拠があると考えられる。

著者(岡田建文)が郷里にいた時、夏季には毎日のやうに台所の土間の流し口の辺(ほとり)に、四五寸ばかりの蝦蟇が徘徊するのが二ヶ年ぐらい続いた。
その蝦蟇の潜んでいる場所がどこであるかは、わからなかった。

しかるに、或るうっとおしい曇りの日の夕刻に、かねて土間の隅に置いてあり漬物の重石用の一尺立方の真四角な石の下からかの蝦蟇が這い出して来るのが見られた。

この石と土間との接触面には、ほとんど隙間がない。
不思議に思って、吾等夫婦は、石の下へ竃(かまど)用の火箸をさし込んで見ると、火箸だけは辛うじて入ったのであった。
そこで石を起こして見ると、裏の中央が、直径二寸除りのサカヅキ形に浅くくぼんでいた。
小さい煎餅なら三枚足らず、普通のお針用の糸捲きなら、一個がやっと入るばかりの隙間であった。

あの大きく太い腹の蝦蟇が、どうしてこの窪みへ潜り込んで、時間を過ごすのかと、大変不思議に思った。
この事を或る人に話したら、その人は是は信じられぬ事だ、窪みの大きさを見間違えたのであろう、と言い張った。

 


「動物界霊異誌」中の蝦蟇(ガマがえる) その4

2023-01-06 23:10:35 | キツネ、タヌキ、ムジナ、その他動物、霊獣

「動物界霊異誌」中の蝦蟇(ガマがえる) その4

                         2023.1

敵対の動物   

蝦蟇の敵は、虫類(江戸時代までは、蛇やトカゲ、蛙も蟲類に分類された。
足の無い蛇は虫。足のある昆虫は蟲である。いずれも虫偏である。)
に於いては蛇であるが、虫類の外では、主として獣類である。
獣が蝦蟇の敵たるは、喰わんがために敵となるのでは無く、蝦蟇に挑まれて敵となるのである。

蝦蟇には毒があるので、どんな動物にも食べられない。
餌にもならない。
蝦蟇から挑戦されない場合にも、諸動物は蝦蟇を畏れて、これと闘うのである。

或る人の話に、床の下でイタチとガマとが向かい合って死んでいたのを、見たと言う。
また猫も蝦蟇と相討ちの姿勢でどこかで死んでいたのを、見たと言う。
私の少年時代に、郷里の新聞紙が、どぶ鼠の大きいものと蝦蟇との闘いを報道したことがあった。
約一時間ばかり噛み合いをしたが、最後に鼠が、蝦蟇の口へ喰附いた時、蝦蟇は頭を振って鼠を二尺許り投飛ばしたら、鼠はそれっきりに死んだ、と書いてあった。

古人の雑録に大形の蛇が蝦蟇を呑んだ記述があったが、ガマの大きくないものは蛇に負けて飲み込まれる
らしい。

蝦蟇の体は、見かけより、頑健なものである。
かって、私の母(著者の岡田蒼溟の)は、夜分に庭先で、誤って三寸(10cm)位の蝦蟇を下駄で思いっきり踏んだ時、踏み潰ぶしたと思ってかわいそうがっていた。しかし、後になって見れぱ、平気で蟲を捕食していたと言う。
普通の蛙は、人に踏まれれば、潰ぶれてしまうのだが。