笠の川の民が天狗に裂き殺される 「土佐風俗と伝説」 天狗怪禽
2024.6
長岡郡岡豊(オガウとルビがふってある)村(高知県南国市岡豊村)笠の川と八京(やきょう)の境に、瀧戸(たきど)と称する谷がある。左右の山から、年老いた樹木がおおいかかって昼もなお薄暗かった。夜は、特に天狗の遊び場のようで、笛太鼓の音の響がすると言って、その場に近寄る者も無かった。
今は昔、笠の川の一人の農夫が、この谷の辺(あたり)にささやかな畑を、もっていた。そこで、甘藷を栽培していたが、毎夜兎が出てきて畑を荒したので、ある晩に、兎を追いに出かけた。その夜は朧月で、雨が降っていたので、蓑笠を着て行ったが、それから一向に帰ってこなかった。
それで、村中で大騒ぎで探した。
数日して、瀧戸の上の扇谷に、無惨にも八裂きの死体となっているのが、村人に発見された。
皆は、天狗の仕業と断定した。
その後、又瓶岩の重之丞と言う男も何物かにつかまれ、扇谷の辺(あたり)に落とされたと言う話がある。
村民は皆、扇谷を非常に恐れ、今に至るも、その谷の水を一滴も汲まないようになった。
所の名にも不飲谷(のまずのたに)と言う名が残っている。