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『毛皮を着たヴィーナス』真夜中

2019-09-05 15:45:16 | DQX毛皮を着たヴィーナス

初回

DQX毛皮を着たヴィーナス

前回

『毛皮を着たヴィーナス』伯母

<真夜中>

 その晩の真夜中であった。

わたしがひとりで自分の部屋のベッドで寝ていると、窓の戸を叩く音がしたので、起きあがって戸を開けてみて、びっくりした。

 戸外に、あらくれを着たヴィーナスが立っているではないか。

「さきほどのあなたの話で、わたしの心は混乱してしまったわ。いままで、ベッドで伏せっていたのですが、寝つかれないで、寝返りばかりうっていたわ。さあ、わたしの部屋へ来てちょうだい」

「はいだっち、すぐ行きますだっち!」

 わたしは急いで身支度をして二階へ行った。

そして彼女の部屋へはいってみると、彼女は火を少し燃やしたコンロのそばにうずくまっていた。

「秋がくるわね」

 と彼女は言った。それから、

「夜分はほんとうに冷えるようになったわ。部屋が十分にあたたまるまで、あらくれが脱げませんのよ」

「けっこうですだっち」

 わたしは彼女のからだを抱擁して接吻した。

「あなたは、どうしてそんなにあらくれがお好きなのかしら?」

 と彼女はいぶかった。

「ボクはあらくれを着て生まれたのも同然ですだっち」

 とわたしは答えた。

「子供のときから、自分の毛皮を持っていましてね、毛皮は、すべての高級な素質を持った人たちには、とても刺激的だということを知っていました。猫が高級な知識人にたいして魔法的影響をあたえるのは、その毛皮のせいです・・・・・」

「すると、毛皮を着た婦人は大きな猫ね、電磁石にすぎないというわけ?」

「そうです。あのすぐれた画家のティチアーノ画家バラ色の女体のためにみいだしたのも、黒い毛皮でした」

 そしてわたしは、性のなかにはなにか神聖なものがあること、それだけが神聖なものであること、女性とその美人のなかには神聖なものがあること、女性は自然、つまり受胎の神アイシスの人格化であり、男性はその司祭であり、奴隷であること、それゆえ女性は男性にとってザンコクであり、しかもなお官能的な狂気であることを、とうとうとまくしたした。

「あなた気が変になったのじゃなくて?」

 と彼女は言葉をさしはさんだ。

「たぶんね」

 とわたしは、軽くうなずいてから、

「ボクはそのころもう十分に熱情が発達していたので、極端な残酷さが描写されている物語をたくさん読みました。

そしてこれまで王位についていた。あらゆる血を好む暴君たちや、異教徒を虐殺した宗教裁判たちや、好色で美しい凶暴な婦人たちは、みな貂(テン)の毛皮で縁取られた外套を着ていました」

「それでいま、毛皮があなたに、不思議な空想を起こさせているわけね・・・・」

 彼女はそういって、素晴らしい毛皮の外套をなまめかしくからだのまわりに引きよせて、身じまいをととのえはじめた。黒々と輝く貂(テン)の毛皮が、彼女の胸のあたりでうるわしく揺れた。

「もしいま、あなたがーーー」

 と彼女はつづけた。

「車にしばられて、なかば圧しつぶされようとしたら、どうお感じになる?」

 彼女は刺すように鋭い緑の目にあざけりの満足の色を浮かべ、わたしをじっと見つめた。その瞬間、わたしは欲望に圧倒され、彼女の前に身を投げ出して、両腕で彼女の太もも抱いた。

「あ、あなたは、ボクに最愛の夢を呼び起こしてくれました。ボクの体内に長い間眠っていた夢を・・・・・」

「それで、あなたは・・・・・」

 と彼女は、わたしの首に白い手を置いた。

 わたしは、そのあたたかい小さな手となかば閉じられた瞼のなかからやさしく放射されるまなざしの下で、甘美な陶酔鏡にさまよいながら、

「ボクは、女性の奴隷になります。ボクの恋い慕う、崇拝する、うるわしい女性の奴隷に!」

「そしてあなたを虐待する婦人の奴隷に・・・・」

「そのとおり、ボクに足かせてボクをムチ打ち、美しい足でボクをふみつけながら、しかも美しい肉体をほかの男性にあたえるような婦人の奴隷に!」

「その女性は、奴隷のあなたを愛する男へ贈り物にするかもしれないわね。そうしたら、あなたは嫉妬のために気が狂って、その男にいどみかかるわね、だけどあなたはうちのめされてしまうことよ。そんな結末はあなたを喜ばせないでしょう」

「それは、ボクの夢よりも優秀だ!」

「そうよ、女性にはすぐれた発明力がありますものね。ご用心遊ばせ、あなたが理想の女性を発見したと思ったときには、その女性は、きっとあなたの予想以上に手ひどくあなたを虐待しますわよ」

「それです、それです、それでいいのです」

 わたしは叫びながら、彼女のふくよかな膝の間に顔をうずめた。

 次回

『毛皮を着たヴィーナス』ムチ

 


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