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『毛皮を着たヴィーナス』あらくれ

2019-09-23 00:38:09 | DQX毛皮を着たヴィーナス

 

初回

DQX毛皮を着たヴィーナス

前回

『毛皮を着たヴィーナス』呼吸

 <あらくれ>

 二週間あまりして、彼女の女友達たちは去っていった。わたしと彼女との間には、また水入らずの夜が来た。

 彼女は、この夜のために、これまで隠されていたすべての愛をたくわえておいたかのようにわたしにしがみついた。わたしの唇を彼女の唇に合わせ、彼女の両腕のなかに死んだように身を投げ入れるのは、なんとも幸福なことであろう!彼女の顔はわたしの胸に埋まり、完全にわたしのものになった。二人の目は歓喜に酔った。

 彼女は眠っているかのように身動きひとつせず、目を軽く閉じたまま、

「あのひとは、ひとつの点で正しいわ」

 とつぶやいた。

「だれのこと?」

「・・・・」

「君のあのお友達?」

 彼女は軽くうなずいた。そして、

「あのひとは正しいわ」

 とくり返してから、

「あなたは男じゃなくて夢想家ね。淑女の踊りの相手よ。きっと、奴隷としてもすばらしい奴隷ね。わたし、あなたを夫としては考えられないわ」

 わたしはびっくりして、ふるえた。

「あら、ふるえていらっしゃるの?」

「ボクは、あなたを失いそうで・・・」

「それでは、あなたは前よりは幸せではなくなったとでもおっしゃるの?もしも誰かがあなたと同時に、わたしから幸福をうけたら、それだけであなたのたのしみが減るとでもおっしゃるの?」

「ヴァンダ!」

「そう考えればいいのよ。そうすれば、あなたは決してわたしを失いはしないわ。わたしはあなたを深く愛してるわ。いつもあなたといっしょに暮らしたいと思うわ。ただ、わたしの気持ちで、あなた以外にもだれか男を・・・」

「なんということを!あなたはボクの胸を恐怖でいっぱいにする」

「それで、わたしを愛する気持ちが、いくつか減ってきて?」

「そんなことはありません」

 やがて彼女は、左手で身体を起こしながら、

「男の人をいつも変わらずに手に入れておくためには、その人にたいして忠実であること、それがほんとうにたいせつだと、わたしは信じているわ」

「もしもボクの最愛の女性が、不貞をはたらいたら、それこそボクには、苦痛に満ちた刺激です。最高の恍惚です」

「もしもわたしが、あなたにそのたのしみをさしあげたとしたら、どう?」

「ボクは、きっと恐るべき苦痛をうけます。しかし同時に、ボクはいっそうあなたを崇拝します。でも、あなたはけっしてボクをあざむかないでしょう」

「わたし、だますことなんか大嫌いよ。正直よ。でも、真実という重荷をほんとうに背負いきっている人がいるかしら?」

「あのギリシャのむかしの静かな官能的な生活がわたしの理想だといったら、あなたはそれにたえられるかしら?」

「大丈夫。あなたを失わないためなら、なんにでもたえます」

「それだから?・・・・なりたいんでしょう?」

「そうです。あなたの奴隷に!」

 とわたしは叫ぶようにいった。

「あなたが人生の盃をたっぷりのみほす間、ボクはあなたの召使いになって、あなたに靴をはかせたり、ぬがせたりしてあげたいです」

「わたしの奴隷になって、わたしがほかの男を愛するのをみて、がまんできるなんて!奴隷制度のないところでは、そんな享楽の自由なんかないわ。でもわたし奴隷が欲しいわ」

「ボクがあなたの奴隷じゃないですか」

「それで、よく聞いてちょうだい___」

 と彼女は興奮しながら、わたしの手をぎゅっと握って、

「わたし、あなたを愛している間は、あなたのものでありたいわ」

「一ヵ月ぐらい?」

「二ヵ月でも」

「それからは?」

「わたしの奴隷になるの」

「そしてあなたは?」

「わたしは女神よ。オリンピアの山の上から、ときどきあなたのところへ降りてきてあげるわ。静かに、こっそり・・・・」

 彼女はそういってアゴを両手のうえにのせて、遠くのほうをうっとりと見つめる様子をして、

「実現できそうもない金色の空想だわ」

 とつぶやいた。

「どうして、できないのです?」

「奴隷制度がないからよ」

「それでは、二人でどこか奴隷制度のある国へ行きましょう。アラビアか、トルコかへ」

「ほんとうにあなたは、そうするつもり?」

 と彼女は目を輝かした。

「そうです。ほんとうにボクは、あなたの奴隷になりたいのです。ボクを支配するあなたの力が、法律的にも正当化するのを望みます。ボクの生命はあなたの手に握られ、ボクは完全にあなたの意のままになるのだと思うと、ああ、なんという喜びでしょう。そしてときどき、あなたも恵み深くなって、この奴隷に死にもあたる接吻をしてくだされたら、ああ、なんという幸福でしょう」

 わたしは燃えたつ額のなかに埋めた。

「あなたはまるで熱病におかされているみたいね」

「お尻に注射ですか?」

「そうね」

 彼女はわたしの身体を起こして、胸に抱きしめて、接吻のあらしでわたしをつつみながら、

「あなた、ほんとうにそれをお望みになるの?」

「神にかけて誓います。いつでも、どこでも、お望みのままに、あなたの奴隷に!」

「誓うのね?」

「誓います」

「なんだかおもしろくなりだしたわ。空想じゃなくってよ。きっと、わたしの奴隷にすることよ。そしてわたしは、あらくれを着たヴィーナスになるようやってみるわ」

次回

『毛皮を着たヴィーナス』王子

 

 


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