初回
DQX毛皮を着たヴィーナス
前回
『毛皮を着たヴィーナス』ムチ
<獣小屋>
「ゼフェリン。なぜモチつきを?」
「獣小屋だっち」
「十五夜?」
「その足でわたしをふみつけてだっち・・・・蟻地獄のようだったっち」
「十五夜が?・・・・・」
彼女が歩いていって、その上からムチを取った。
そして微笑しながら、わたしを眺めて、そのムチを空中でビュービューとうち鳴らした。それから、ゆっくりと毛皮のジャケットの袖をまくりあげた。
「すばらし女性!」
「おだまり、奴隷!」
彼女は、さっと顔をしかめて嫌悪な表情になると、ムチをあげてびしりっとわたしの背中を打ちすえた。
が、すぐにやさしくわたしのからだに手をかけて、同情するかのように、
「わたし、あなたを傷つけたくないのよ。大丈夫?」
と恥じらいながら、たずねた。
「いいや、平気 ・・・・・たとえ傷ついても、あなたから受ける苦しみならば、わたしは最大の喜びです。もう一度」
「でもわたしには、たのしみではないわ」
「打ってください、情け容赦なく!」
わたしは不思議な陶酔のなかで叫んだ。
彼女は、またムチをふるって、わたしを打ちすえた。
「これで、満足?」
「まだ、まだ」
「足りないの?」
「もっと、もっと、ボクには、それが喜びなんですから」
「こんな獣みたいな遊び、わたし、気が進まないのにはじめちゃったのね。もしもわたしがほんとうに自分の奴隷をムチ打つような女だったら、あなたはきっとおじけづいてしまったでしょうね?」
「そんなことありません!ボクはあなたをわが身以上に愛しているのです。ボクのからだは、生きようと死のうと、あなたに捧げてあるのです。ですからあなただって、ほんとうに望むままにわたしにたいして振舞っていただきたいですね。その足でわたしをふみつけてください!」
「わたし、こんなお芝居なんか、きらいだわ」
「それなら、まじめな気持ちで、ボクを虐待してください」
薄気味わるい沈黙が起こった。その沈黙を破るかのように彼女は、
「これが最後よ」
と叫んだ。
「もしあなたがわたしを愛しておられるなら、もっともっと残酷に!」
「もしもあなたがわたしを愛するなら・・・・・」
と彼女は、わたしの口まねをして、一歩あとへさがり、陰気な微笑を浮かべて、
「それでは、わたしの奴隷になりなさい! そして女性の手のなかへはいったということがどんなことだか、よくおぼえてらっしゃい!」
といいも終わらぬうち、ぽんとわたしのからだを蹴飛ばした。
「おまえは、こんなにまでされて、それでいい気持ちなの。奴隷!」
それからまた、彼女はムチを振り回して、
「立て!」
と叫んだ。
わたしは両脚でたちあがろうとした。
「そうじゃない、膝で!」
彼女ははげしくわたしを乱打した。ムチはわたしの背に腕に、荒々しくふりそそがれた。一打ち一打ち肉にに食い込んで、焼き裂いた。その苦痛はわたしを恍惚とさせた。やがて彼女は、ムチの手を止めて、
「わたし、おもしろくなりはじめたわ。でも今日は、これでおしまい。おまえのからだがどこまで苦痛にたえられるかみたくなったわ。悪魔的好奇心よ。これからは、わたし残忍な喜びを味わわせていただくわ。おまえが泣いて叫んで慈悲を乞うまで、感覚を失ってしまうまで、容赦なくムチを打つわよ。さあ、お立ち!」
わたしは立ち上がって、彼女の手に接吻した。
「なんという不謹慎!」
彼女はわたしを蹴飛ばして、
「さっさと出て行け、この奴隷!」
次回
『毛皮を着たヴィーナス』呼吸