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溶融炭酸塩形燃料電池

2007-03-28 | 環境
燃料電池といえば一般的には自動車向けや小出力(1kW)の家庭用、あるいはもっと出力の小さいパソコンや携帯電話用が話題になります。これらはいずれも固体高分子形(PEFC)と呼ばれるものです。燃料電池は多くの場合、使用されている電解質により分類されます。この電解質というのは物質は通すけれども電気(電子)を通さない性質を持つ、燃料電池にとって心臓部に当る部品です。

固体高分子形燃料電池とは文字通り、電解質が合成高分子で出来たフィルムを使っています。この固体高分子の中をプロトン(水素イオン)がアノード側からカソード側に移動します。現在世界で最も台数が多いのがこのタイプで、家庭用1kWクラスのものは5,000台が使われているそうです。もちろん使われているといっても実験的に使用されているもの、つまり実用ではないものも多く含まれています。

ところで台数でみると固体高分子形が最も多いのですが、発電量で見ると溶融炭酸塩形(MCFCと略す)が最も大きくなります。これは名前のとおり電解質がリチウム、ナトリウムやカリウム炭酸塩から成っています。

この溶融炭酸塩形は300kW規模のものが最も多く導入されていますが、大規模なものでは3,000kWとか5,000kWというものもあります。FuelCellエナジー社(米国)は自社の溶融炭酸塩形燃料電池の設置状況を公表していますが、2006年までの累計で日本・韓国に限ってみただけで8,000kWに達しています。日本と韓国、しかもある一社のものだけで家庭用規模8,000台に相当するのですから、全世界では発電量から見れば溶融炭酸塩形が最も多いのが理解できます。

溶融炭酸塩形は固体酸化物形(SOFCと略す)と並んで高温型燃料電池とも言われます。溶融炭酸塩形の運転温度は650から700℃、SOFCは800℃以上になります。PEFCが100℃程度の運転温度ですから、かなり高温といえます。

高温型燃料電池の利点は、電池温度が高いので電池反応速度が大きくなる、高価な金属触媒を必要としない、COによる触媒被毒の心配がないことなどです。燃料電池のコストダウンで一番の障壁は白金触媒といわれますから、白金触媒を使用しないことは大きな利点です。さらにCOも燃料とすることが出来ます。化石燃料の改質で水素を作る場合、COを極力減らすためにさまざまな装置が必要ですが、MCFCではそれが必要ありません。

但し不利な点もあります。高温条件で使用されるので高価な材料が必要となる、電解質となる炭酸塩を作り出すために空気のほかにCO2をカソード側に常に供給する機構が必要になるなどです。高価な材料といっても運転温度はSOFCより低いので、これから材料開発をしなければならないということはありません。

溶融炭酸塩形の導入先は排水処理施設、ホテルや病院などです。排水処理施設では消化ガスを燃料にすることが出来るため、ホテルや病院ではコジェネレーション機器の一つとして導入されています。更なるコストダウンや性能向上が必要ですが、現状で最も商業利用に近い燃料電池と考えられます。

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