唐突に思い出したので覚え書きに。かれこれ何年前になるやら。
TRPGなるものが一部で流行り始めた頃(Dungeons & Dragonsなど)、どうも剣と魔法の世界に馴染めなかったところに現れたのがSF-TRPGの草分け、TRAVELLERでした。
TRPG自体にはそこまで馴染まなかったのですが(元々がSLG畑)、キャラクターメイキングや宇宙船設計、更には恒星系の自作で十分楽しめるというなかなかの優れものでした。
ただ、滅茶苦茶シブいゲームでしたねぇ。
・プレイヤーキャラクター(以下、PCと略す)は30〜40代のおっさんおばさんになりがち。そもそも18歳のキャラクターを作成してから、宇宙海軍やら海兵隊やら陸軍やら、あるいは宇宙商船会社で経験を積んでスキルを身につけていくシステムなので、ある程度「使える」キャラを作ると必然的にアラフォーに。※1
・モンスターっぽい宇宙生物や異星人を倒しても、経験値は入りませんしゴールドも得られません。そもそもこのゲームにファンタジーRPG的なモンスターは存在しません。※2
・ついでに言えばキャラクターの「成長」もありません(ゲーム内で手間暇かけると、技能レベルや能力値をちょっとだけ上げられますけれど)。
・戦闘でダメージを喰らうと、かなりあっさり死ねます。PCの方が死ににくいルールとか、戦闘による経験値はありません※3。
・宇宙を旅するRPGのはずですが、移動コストが洒落になりません。宇宙船で恒星間移動をする場合の旅費は、正規価格ですと100万円相当(1クレジット≒100円と概算)。キャラクターメイキング時に商船会社に入りますと自由貿易商船※4なる必要最小限の性能を備えた貨客船が得られる可能性がありますが、これは退職手当の一部として約30億円以上の船を480カ月均等払い(利子込み)で払い下げられたことを意味します。もしくは、偵察局※5の局員だと予備役偵察局員として偵察艦を貸与されます。こちらは有事に現役復帰が前提&宇宙船として最小の大きさなので海賊に襲われたら極めて不利だったりします※6。
・背景世界が結構がっちり固まっていました。もっともそれがデザイナー的には嫌で、銀河皇帝が暗殺されて内戦に陥ったり(『メガトラベラー』)、更に内戦中に悪の皇帝が開発させた、シリコン生命体を基に開発されたコンピュータ・ウィルスで文明が崩壊したり(『トラベラーThe Next Era』)と、背景世界を破滅させてしまい、却って多くのプレイヤーの興を削いだりしました※7。
よく、サイコロを忘れても電卓を忘れる奴はいない、と言われたゲームですが、まあ実際世知辛い展開になりがちなTRPGでした。
私的には『一兆クレジット艦隊』(予算と技術レベルの制約内で作った艦隊を持ち寄って宇宙艦隊の戦闘を競う)がお気に入りでした。
実際、SFにセンス・オブ・ワンダーを感じさせるように演出するのは結構難しいのですが、SFではなくハリウッド映画的な「普通の人間が知恵と勇気で苦難を乗り越える」タイプのお話しが好きな方にはおすすめです。和訳が入手困難になりつつあるので(ホビージャパンがライセンスした日本語版はもちろんレアアイテム、21世紀に入って雷鳴が訳した新版も版元の都合で絶版)、さあ遊びましょうとは言いづらいですけれどね。
※1 この点を解消すべく、当時の日本の専門誌ではヤングトラベラーなるティーンエイジャーPC作成ルールが掲載されました。その頃、TRPGを遊ぼうなどという人種は日本ではせいぜい大学生まででしたから、30代40代(下手すると60代)のPCへの感情移入が困難であったという事情もあります。・・・・・・当時の専門誌で紹介されていたアメリカでのイベント写真では大人(30〜40代以上)が結構写っていたりして、国情の違いを痛感したものです。
※2 各惑星の条件が良ければ(ハビタブルゾーン内に位置するか、もしくは他の条件によって生命が発生する条件が整っていれば)、原住生物が存在する事もあります。中にはバケモノじみた生物もいますが(カバかサイ並みの巨体にパワードスーツ同然の頑丈な外皮、かつ21世紀前半におけるマテリアルライフル顔負けの威力の何かを飛ばしてくる肉食獣)、あくまで野生動物以上の存在ではなかったりします。
※3 上級ルールですと軍事組織に属して戦った場合に経験値のようなものが得られましたが、あくまで戦場慣れしているかどうかを示すものに過ぎません。経験を積んだからといって直接PCが受けるダメージを減らせたり、武器の命中率や威力が上がる訳ではありません。
※4 標準設定のA型自由貿易船は200排水素トン、乗客定員8名+二等寝台(冷凍睡眠)8名、貨物積載量80排水素トン。ローンを抱えていると結構採算ラインを維持するのに苦労しますので、そりゃ寄港地で何でも屋を副業にしたくもなろうというものでした。キャラクター作成終了時にアラカンくらいの年齢のキャラだと、除隊恩典(退職手当みたいなもの、現物支給も現金支給もあり)が積み重なった場合ごく稀にローン完済のフネを得られることがありますが、得られるフネは40年落ちの中古ということになります。
※5 旧郵政省&旧電電公社+国土地理院+海上保安庁水路部+公安調査庁みたいなセクション。銀河帝国の一部門です。
※6 ルール上、恒星間航行が可能な宇宙船は100排水素トン以上。S級偵察艦と呼ばれる、プレイヤーに貸与されるフネもまた100排水素トンきっかりです。対するに、平均的な海賊船は400排水素トン。武装搭載量が4倍です(これもルール上、100排水素トンごとに1カ所、レーザー砲やミサイルなどの武装を施せます)。ちなみに正規海軍が運用する駆逐艦は数千排水素トン級、巡洋艦は数万排水素トン、主力戦艦は数十万排水素トン。武装や装甲やらセンサーやらを論じる以前に、大きさだけで絶望できるかと。
※7 後年出版されたGURPSトラベラーでは、文明崩壊の端緒となった銀河皇帝暗殺事件自体がなかったことにされていました。冒険といっても、例えば日本で言えば『北斗の拳』の世界で「北斗神拳伝承者や南斗聖拳の達人ではない」トラブルシューターとして、全面核戦争後文明が崩壊した荒野を舞台に、そこかしこでヒャッハーしているモヒカン頭の悪漢共を相手に冒険するTRPGが売れるかというと・・・・・・まあ、そんなTRPGをやりたがる人がそこまで多いとは思えなかったりします。