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生理心理学12:PPIとPPF

2010-12-25 18:20:52 | Weblog
12月24日開講の生理心理学補講授業「生理心理学が雲だ健康アセスメント2:PPIとPPF」で使用した資料です。

感情のところでおはなしした驚愕反射(startle reflex)なんですが、なかなか生理心理学では役立つ生体反応です。

お話したのはPPIとPPF。


1 PPI

既にまばたきのところでもお話したんですが、先行刺激抑制効果。

プレパルス抑制、プレパルスインヒビションなどとも呼ばれることがあります。

PPIとは、驚愕反射を誘発する刺激(110デシベル強の白色雑音)に100ミリ秒先行して、それ自体では反射を誘発しない微弱な刺激(70デシベルの音刺激)を提示すると、反射量が小さくなる現象。

ウィスコンシン大学の生理心理学者F. K. Graham先生が1975年に人間のまばたき反射(驚愕性瞬目反射)をもちいて最初に論文にしました。

私はこの論文を大学院修士1年の夏休みに読んでから熱病に冒されたようにこの研究領域にのめりこんでいきました。

当時はlead-stimulation effects(先行刺激効果)と言われていました。

半年がかりで実験環境を調査し、多くの関連論文を読みました。

そして1976年の一夏をかけて実験装置を作り、3つの実験を行い修士論文にまとめました。ああ、懐かしい。この年の夏休みは半田付けの夏でした。電源ボックスとTTL回路でつくるプリセットタイマーを3台作ったのが想い出されます。

博士課程最後の夏まで毎年新たな観点から実験を行い、心理学研究、Japanese Psychological Research, Perceptual and Motor Skillsなどに論文を掲載しました。以後、科研による研究成果も含め1992年には博士号を一連の研究をまとめた論文で得ました。この文末に、業績を記載しておきます。

統合失調症患者でPPIが消失ないし減弱することから、1990年代には心理薬理研究者を中心に、ラットをもちいたPPI研究が盛り上がり、2000年代は右肩上がりの成長領域となっています。2枚目のスライドを参照。

最近では青色LEDが赤色LEDよりPPI効果が長く続く実験結果を得ました。また、ニコチン離断症状下でのPPIに減弱効果があるかを確かめる実験を継続しているところです。来春もこの種の実験するので、喫煙者のかた、ご協力願います。


2 PPF

さてもうひとつの驚愕反射を用いた研究テーマがPPF。先行刺激促進効果。

これはGrahamの弟子のAnthonyさんが1980年以降に行った子どもを被験者として行った実験が発端。

先行刺激と反射誘発刺激との時間間隔を2秒以上に延長し、刺激に注意を集中されると反射が促進するという現象として記述されました。

1992年にアメリカの生理心理学会(SPR)に参加して驚いた。P. Langと共同研究者たちがPPFを発展させて、驚愕プローブパラダイムという研究領域を作り、大々的な研究を開始していたのです。彼はAnthonyの学位論文の審査担当。驚愕反射をもちいて、感情の研究に使えると直感したのだそうです。

驚愕プローブパラダイムとは、ある感情を惹起した状況で強い音刺激を提示し、驚愕性瞬目反射を測定するというもの。

快感情を惹起しているときは反射が小さくなり、逆に不快な感情のときは反射は大きくなるというもの。いや、わかりやすい。実社会でも経験することですよね。

不愉快な気分のときは、車の急ブレーキ音やドアを閉める音で飛び上がるほどびっくりするんですが、落ち着いているとき、愉快な状況ではたいして驚きもしません。

帰国した私は、さっそくサントリーの嗜好科学研究所の中川さん、永井らと共同研究をはじめることになります。音刺激をもちいた快不快感情と驚愕反射の実験はこのときに実施しました。

また臭い刺激が惹起する快・不快感情と驚愕反射の関係の実験も実施。呼気のピークから1.5秒後に臭い刺激を鼻腔に与える条件で、快・不快感情による反射の現れ方の違いが最大になることを発見。

産業技術総合研究所での共同研究でも臭い刺激の効果をウィスキーの香を用いて実験し、スコットランドで開催された学会で報告していい評判だったことは懐かしいですね。

来年また、この種の実験を某企業と共同で研究する機会を得ました。まだまだまばたきは面白い研究領域になります。興味ある若手諸君、ぜひいっしょに研究しましょう。

年明け早々、実験協力をお願いしますので宜しく。


2010/12/25・記


PPIや驚愕プローブパラダイムに興味のある方は以下の文献を参考にしてください。

山田冨美雄・宮田洋 ヒトの驚愕性瞬目反射におよぼす先行刺激効果.心理学研究, 1979, 49, (6), 349-356.

Yamada, F., Yamasaki, K., & Miyata, Y. Lead-stimulation effects on human startle eyeblink recorded by an electrode hookup. Japanese Psychological Research, 1979,21,(4),174-180.

Yamada, F., Yamasaki, K., Nakayama, M., & Miyata, Y. Distribution of eyeblink amplitude recorded by an electrode hookup : Re-examination. Perceptual and Motor Skills, 1980, 51, (1), 1283-1287.

Yamasaki, K., Yamada, F., & Miyata, Y. The effect of signalling upon control of an aversive stimulus: A study of the signal properties. Japanese Psychological Research, 1980, 22, (3), 125-133.

山田冨美雄・中山誠・宮田洋 反射喚起と先行刺激抑制効果の独立性:ヒトの驚愕性瞬目反射を指標として.心理学研究, 1983, 53, (6), 383-386.

山田冨美雄 聴覚誘発眼輪筋反射と主観的驚愕度におよぼす誘発刺激の刺激特性の効果.生理心理学と精神生理学, 1983, 1, (1), 11-18.

Yamada, F., & Miyata, Y. Enhancement of the lead-stimulus inhibition induced by key-pressing to S1. Annual Report of Kansai College of Acupuncture Medicine, 1985, 1, 9-13.

田多英興・山田冨美雄・福田恭介(共編)まばたきの心理学:瞬目行動の研究を総括する。北大路書房、京都、1991年

山田冨美雄・堀川隆志・錦織綾彦・堀浩 触覚先行刺激による音眼輪筋反射の変容。  臨床脳波,1992, 34,(10),635-640.

山田冨美雄 瞬目反射の先行刺激効果:その心理学的意義と応用。 多賀出版,東京,1993年

中村美幸・永井 元・中川 正・山田冨美雄 驚愕性瞬目反射による食品の匂いの嗜好評価. 日本味と匂い学会誌、1995, 2 (3), 259-262.

田多英興・山田冨美雄・福田恭介 瞬目活動 宮田洋(監修)・藤澤清・山崎勝男・柿木昇治(編集)新生理心理学1巻「生理心理学の基礎」16章 p266-279. 北大路書房、京都、1998年

山田冨美雄 感情評価のパラダイム:驚愕プローブパラダイム. 生理心理学と精神生理学, 2001, 19(2) ,37-44.

山田冨美雄 瞬目による感性の評価:驚愕性瞬目反射と自発性瞬目による感情評価. 心理学評論, 2002, 45(1),20-32.

永井元、山田冨美雄 驚愕性瞬目反射パラダイムによる食品の香りの快不快評価. Aroma Research, 2002, 11, 240-243.

百々尚美・畑美絵・増本康平・山口雅彦・永井元・山田冨美雄・外池光雄 驚愕プローブパラダイムを用いた食品の香り評価. 日本味と匂学会誌, 2002, 9 (3), 631-634.

山田冨美雄  眼球諸機能の計測「瞬目活動」 産業技術総合研究所人間福祉医工学研究部門(編)「人間計測ハンドブック」pp.121-129、朝倉書店、2003年.

山田冨美雄・井上茂之・百々 尚美・井上 千一・河本ゆう子・辻本実紀・橋本康子・寿美谷明美・中村順子・永井元  テーラー方式モノ作りをサポートする人間環境評価システム. 大阪人間科学大学紀要, 2003, 3,61-70.

山田冨美雄・百々尚美・外池光雄・増本康平・永井元・山口雅彦 驚愕プローブパラダイムを用いた香りのリラクセーション効果の検討。 第15回バイオエンジニアリング講演論文集, 日本機械学会、2003, pp.115-116.

山田冨美雄 うつとまばたき 上里一郎(監修)・北村俊則(編)「抑うつの現代的諸相:心理的・社会的側面から科学する」、Pp273-275、ゆまに書房、2006年

山田冨美雄 私と健康心理学第12話:ニコチンと心の病。 関西労健,72,26-27.

山田冨美雄 プレパルス抑制. 分子精神医学,2009,9(4),359-363.

心理学研究法12:因果をしらべるアプローチ

2010-12-25 18:05:31 | Weblog
2010年12月20日開講の心理学研究法でつかった資料です。

前日の12月19日(日)は本学で日本健康心理学会認定健康心理士の試験が開催されました。

本学と大成学院大学の学生さんが受験されました。

日曜日にもかかわらず、面接試験ご担当の先生方ほんとうにご苦労様でした。

普段は気軽に話しかけてくる学生たちが、とても緊張した表情で待機している姿が新鮮でした。

この話を枕に、この日の授業は健康心理学にとって必要不可欠にもかかわらず、余り国内ではなされていない実践型介入研究、コホート研究のお話。

阪神淡路大震災時の私達の介入研究を事例としてお話しました。

あれから15年が過ぎ、年を越したらすぐ16年としています。

受講生のほとんどは平成2-3年の生まれなので、震災発生時は4歳児。

保育園か幼稚園児なので当時の参事を覚えている人は少ないようでした。

大きなトラウマ体験、すなわち自然災害や犯罪被害、火事や事故災害は、急性ストレス障害(ASD)を生みます。

ASDは誰にでも少なからず発生する緊急時の適応反応のようなもの。

ところが半年が過ぎ、多くの人々が忘れかけているにもかかわらず、強い症状が現れることがあります。これが外傷後ストレス障害(PTSD)。

震災時の被災地の子ども達と震度4の地区の子ども達とを1年間比較しつづけた「自分を知ろうチェックリスト」の結果のグラフをおみせしました。

健康心理学の授業などでまたじっくりお話ししますが、同じ人たちを長期間にわたって調査しつづけつつ、健康心理学的な介入効果を評価するという研究。まさにこれこそ、必要不可欠にして不足している研究法です。

志高き若人たちよ、ぜひこの種の研究に目を向け、苦労を惜しまないでくださいね。

健康心理士はほんの入り口資格。それから先、なにをするかが大切なんですよ。

2010/12/25・記



生理心理学11:ストレスバイオマーカ

2010-12-25 17:56:57 | Weblog
2010年12月17日開講の生理心理学でつかった資料です。

生理心理学11回目はストレスバイオマーカのお話。

唾液でストレスの具合が分かるかどうかと言うテーマ。

ストレスによって影響される免疫のはたらきは分泌型免疫グロブリンAでみることができます。

ストレスを内分泌物質からみようとすると、コルチゾール。

交感神経系の働きは、消化酵素アミラーゼから。

というわけで、急性ストレスを与えたときのこれら唾液中バイオマーカに関する実験をお話しました。

こうした研究領域は、精神神経免疫学、ないし精神神経内分泌免疫学と呼ばれるようになりました。

主観的になりがちなストレスというものを、できるだけ客観的に測定しようという期待から生まれた技術革新の成果といえましょう。

理科の実験が好きな人は、ぜひ卒論や修論でこうしたテーマを選んでください。

これからもっとも期待される生理心理学の研究領域の一つです。

2010/12/25・記

p.s.
おそくなりました。アップロードが遅れたのは、年末の忙しさのおかげ。

忙しくいろんな仕事をしていると、パワーポイントをJGPファイルに編集し直す時間すらとれません。

まさにストレスに満ちた年末だったといえましょう。でも昨日の補講で年内の授業は終了。

たまりにたまったファイルアップにつとめます。