小説の感想です。
『悪意の手記』(中村文則著、新潮社)
15歳の時難病に罹った主人公は、じわじわと死の淵を彷徨ううちに死んで楽になりたい、と思うようになったが、思いがけず回復する。もう死ぬつもりでいたというのに、もとの日常に戻れと言われても、死の間際を見てきた自分はもう変わってしまった。大した悩み事もない同級生たちがひどく幼く愚かに見え、かつて親友だったKがふと「大人になりたくないよなあ」と洩らすのを聞いて、主人公はKを池に突き落として殺してしまう。しかし目撃者はなく、Kの死は事故として片付けられる。
以来、人殺しでありながらのうのうと生きる自分の存在に、それを許す世の中に疑問を抱き続ける主人公。そんな中で大学を辞めて始めたバイト先の雇い主は、未成年に幼い娘を惨殺された女性だった。少年が少年院から出てきたら、自らの手で彼を殺して自分も死ぬ、という女性に、「だったら俺がやってやる」と申し出た主人公は・・・?
というようなお話です。
ひとは何故ひとを殺してはいけないのか?という問題と、あまりにもくだらない動機で起きる少年犯罪に疑問を投げかけた作品、でしょうか。
この主人公の殺人は「カッとなって殺した」という動機ではないのですが、それでもひとを殺してしまったこと、それなのに捕まらずに普通の生活を送っていることに、罪悪感とはいかないまでも疑問を抱いています。そしてそのことばかりを考えるあまり、それが人生全体に暗い影を投げかけ、どんどん悪いほうへ悪いほうへ流れていきます。
考えすぎるタイプのひとが殺人を犯すとこんな風になってしまうんでしょうか。
だからと言って未成年時に殺人を犯して刑期を終えて出てきたらあっけらかんとしているというのも間違っているとは思いますが。
思ったよりも読後感は悪くなかったですが、良くもなかったかな。
タイトルに惹かれて読んだのですが、この作者の方芥川賞を取った方なんですね。・・・もの知らずですいません。