小説の感想です。
『ネクロポリス』（上下巻、恩田陸著、朝日新聞社）
数世紀前にイギリス人と日本人の植民が進み、文化・民族的にも混血を果たした不思議な土地、V.ファー。この土地の住民たちの間では、年に一度「ヒガン」という行事が行われていた。この行事で、住民たちは普段は聖地として立ち入り禁止になっているアナザー・ヒルという場所に集う。アナザー・ヒルには死んだ人間が「お客さん」として現れるのだ。それはV.ファーの人間に限られているが、現れ方に法則はなく、必ずしも縁者のもとを訪れるとも限らないので、住民たちはアナザー・ヒルに滞在中はブラックダイアリーと呼ばれる日記帳にその日あった出来事、出会った人などを克明に記すことを義務付けられている。
この不思議な行事は機密性が高く、部外者の参加は厳しく制限されているのだが、東京大学で文化人類学を学ぶジュンイチロウ（ジュン）は、先祖をたどればV.ファーの血を引いているということで、今回運良くアナザー・ヒルを訪れる許可を得る。文化人類学的見地からヒガンをじっくり研究しようと思っていたジュンイチロウだったが、しょっぱなから殺人事件が起こり・・・？
というようなお話です。
いやあ、実に恩田さんらしい作品でした。
奇妙で不思議なV.ファーといい、アクがあって野次馬的なその住人たちといい。特にジュンの親戚筋の面々の個性的なこと。シノダ教授というキャラクターなんか、いかにもミステリ好きの教授然としていて良かったですよ。
主人公ジュンがいわば読者と同じ、V.ファーについてほとんど何も知らない人間なので、彼と一緒にふむふむと言いながら読み進めることができるのですが、このジュンがどうも「見やすい」体質というか、しょっぱなからお客さんを目撃しまくったり、次々と起こる不可解な事件の現場に居合わせたりと忙しいです（笑）。
下巻の半ば以上まで、次々と事件が起きるもののどれひとつ解決せず、これどうやって落とすのと思っていたのですが、ちゃんとオチがつきましたね。ミステリ的な「実は○○は○○だったのだ！」という仕掛けもあり、楽しめました。しかし別に謎解きメインということもないと思います。メインはV.ファーの不思議さかな。
不思議な雰囲気醸し出すのが実にうまい作家さんだと思います。最後の最後、ちょっと怖いオチでした。
ただやっぱり読む人によっては好みが分かれるかも。V.ファーにすんなり入り込んでいけそうな人は大丈夫かと思います。
