2022年夏の時点で、いまだに1/35スケールの適応キットが国内外に存在しないガルパン車輌は幾つかあります。上掲の最終章第2話のワンシーンに登場した青師団高校チームのベルデハⅡ軽戦車もその一例とされます。スペインが開発した戦車の一種で、同車輌の前身にあたるベルデハⅠの1/35スケールのガレージキットはスペインのメーカーのFC MODELさんから出ていますが、ベルデハⅡのほうは出ていません。
上掲のワンシーンの車輌の部分を拡大してみました。右奥にⅠ号戦車B型、左奥と左前にⅡ号戦車F型、右手前にCV35、そして左の中ほどにベルデハⅡが見えます。既に撃破されて擱座している姿で描かれます。
このうち、Ⅱ号戦車F型とCV35はプラッツより公式キットが発売されています。Ⅰ号戦車B型は公式キットはまだ出ていませんが、イタレリやタコムなどから適応キットが出ています。
なので、上図のベルデハⅡのみが、キットが存在しないことになります。母国スペインのメーカーのFC MODELさんですら、ガレージキットでも出していません。
その主な理由としては、史実のベルデハⅡは1輌が試作されたのみで、第二次大戦中の1944年に完成したものの、それ以降は進展がなくて実戦投入もなされずに終わってしまった経緯が挙げられます。
1944年頃に撮影されたベルデハⅡ試作車輌の写真です。ベルデハⅠとよく似た外観で、主体背面および前面が丸いのが特徴です。車体下部の状態や足回りはほぼ同じですが、砲塔の位置や車体上部の形状が異なります。
1944年に試作された1輌のベルデハⅡは、上図のようにスペインはトレド、アルカサルの陸軍歩兵学校に保管されて現存しています。多少の補修がありますが、ほぼ1944年完成当時の状態を保っているそうです。ガルパンの青師団高校の車輌はこれと外観が違わないため、この唯一の現存車輌をモデルにしていることが伺えます。
このベルデハⅡには、かなり以前から個人的になんとなく惹かれるものがあり、出来たら1/35スケールでの再現製作を試みたいなと考えていました。車体下部の状態や足回りがベルデハⅠとほぼ同じですから、FC MODELさんのベルデハⅠの1/35スケールのガレージキットを購入して改造するという手はどうか、と思いついて検討したこともありました。その商品紹介ページはこちら。
しかし、最近の円安進行により、キット価格はドル換算で約9300円に相当し、これに相当額の諸手数料や配送料などが加算されて総額は20000円を超えるため、FC MODELさんの品の購入は見送りました。
そうなると、あとは自作するしかありませんが、ベルデハⅡの場合は車体形状が割合にシンプルで、砲塔もⅠ号戦車のそれに似ているため、プラ板の組み合わせでもいけるんじゃないか、との感触がもともとありました。既に適応キットが国内外に存在しないガルパン車輌のうち、ビゲン高校のStrv m40L軽戦車、聖グロリアーナ女学院のハリー・ホプキンス軽戦車を作ってきていますが、それらよりは楽そうなベルデハⅡの形状であったからです。
そこで、まずは基本情報を集めることからとりかかりました。スペインの軍事博物館の代表格であるとされるエルゴロソ陸軍装甲車両博物館に英文で問い合わせメールを送り、設計図面に関して問い合わせましたが、3日後の返信にて丁重に断られました。代わりに現存実車の概要資料と実測数値資料、画像8枚などをいただきました。それによって、実車が試作された1輌のみで、いまもアルカサル陸軍歩兵学校に現存することを教えられたのでした。
図面は断られましたが、実測値データと実車画像があれば、1/35スケールの図面は立ち上げることが可能です。上図のようにノートに数値と図面をまとめ、プラ板等でどうやって構築し再現するかの原案を作りました。この準備作業に約一週間を要しました。
ところが、1/35スケールでの図面の描き起こし段階で問題点に突き当たりました。スペインからの実測値データと、ガルパン公式資料での数値が合わないのでした。例えばベルデハⅡの全長ですが、実測値は4.498メートルとなっています。ガルパン公式資料つまり最終章公式サイトのメカニックページでは、5.12メートルと記されます。63センチの差があるわけで、1/35スケールに直すと約1.8センチの差になります。
試しに双方の数値でそれぞれ1/35スケール図面を描いてみました。それが上図の上下の側面図で、上が全長4.49メートルでの描図、下が5.12メートルでの描図ですが、同縮尺の図面でかなりの差があることが分かりました。約1.8センチの差は、1/35スケールサイズにおいては相当の差であるのだ、と理解出来ました。おまけに全高や全幅の数値も異なりますから、図面に落としこむと全然違って見えます。
さらに問題だったのは、最終章第2話のワンシーンにてベルデハⅡとⅡ号戦車F型とがあまり違わない大きさに見える点でした。見方によっては遠近の関係によってⅡ号戦車F型のほうが大きいように思われたりします。そのⅡ号戦車F型の全長が4.81メートルですから、それと同程度かやや小さく見えるベルデハⅡが5.12メートルというのには違和感を禁じ得ません。ガルパン公式資料には時々誤りがみられるのが常識になっている点を考え合わせれば、スペインからの実測値データの4.498メートルのほうが信頼に足る数字として受け止められます。
そこで、スペインからの実測値データに基づく全長4.498メートル、全高1.572メートル(最終章公式サイトのメカニックページでの全高は1.74メートル)にて描き起こした上図の図面で製作してみることにして、この図面を原図として三面図を作成し、プラ板へのトレース図もあわせて準備しました。上図の全長が12.8とあるのは、全長4.49メートルつまり449センチの1/35が12.8センチであることを示します。
この図面が、アニメの劇中車の外観ともほぼ合っているように思いました。最終章公式サイトのメカニックページでの数値に合わせると全長も長過ぎるし、全高も高過ぎて色々と違和感を覚えるのでした。
なお上図は、上部転輪を4つ描いていますが、これは間違いでした。原図から三面図に描き直す際に現存実車に合わせて3つに修正しました。
トレース図からプラ板に車体側面部分を写したときの状態です。この作業の前に紙に試験的にトレースしてチェックしましたが、特に問題が認められなかったので、プラ板への本番作業となりました。
カットした状態です。横に引かれた二重線は、フェンダーの位置を示します。このプラ板カットパーツを二枚作って左右の側面板としました。
三面図からトレースしてカットした、車体各部のパーツを全て揃えて準備しました。これでベルデハⅡの車体がほぼ構築出来ます。
仮組みしてみました。左右のフェンダーのパーツはまだ付けていませんが、車体の輪郭の雰囲気はだいたい現存実車に似ています。現存車輌の画像があると色々と細部の様子が分かり、全体の輪郭も明瞭に抑えられますので、スペインから送っていただいた画像8枚というのは本当に重要で最高の資料でした。
フェンダーの片方、左側のみを試しに仮組みした状態です。この時点で、だいたいベルデハⅡの形にはなったかな、と思いました。同時に、問題は砲塔だな、と感じました。Ⅰ号戦車の砲塔に似ていると前に書きましたが、似ているのは輪郭だけでサイズは異なります。前部のみ角張っていて、あとは丸くて低めの砲塔ですが、これをプラ板でどうやって作るか、武装、特に主砲はどうするのか、といった問題が次第に不安を伴って頭を占めつつあるのでした。 (続く)