<残骨灰>横浜市売却に賛否 金属回収「違和感」
8/17(木) 11:29配信 毎日新聞
<残骨灰>横浜市売却に賛否 金属回収「違和感」
横浜市営斎場の一つ、久保山斎場=横浜市西区で、石塚淳子撮影
横浜市は今年度から、市営斎場で火葬後に残る「残骨灰」の売却を始めた。残骨灰には有価金属が含まれるため、リサイクルに新規参入する業者が増えており、残骨灰処理の適正化や啓発活動を進める一般社団法人全国環境マネジメント協会によると、前橋市など20以上の自治体が残骨灰を売却している。しかし、遺灰である残骨灰を“モノ”のように売却することに対し、心情的な面から批判的な意見も根強く、賛否は分かれたままだ。
【表】各地の残骨灰売却状況は?
残骨灰には副葬品や棺などの燃え殻のほか、遺体内にあった金属製の医療器材なども含まれるため、多くの自治体が専門の処理業者に異物の除去と埋葬を委託している。一方で、治療した歯などに金、銀などの有価金属が含まれ一定の価値がある。
横浜市によると、市内に4カ所ある市営斎場では年約3万件の火葬が行われ、57トンの残骨灰が出る。2015年度までは斎場ごとに入札で業者を選び、1年契約で埋葬などの処理を委託してきた。
処理の委託に関しては、兵庫県姫路市や三重県松阪市で1円入札する業者が現れるなど、受注競争が激化している。残骨灰から有価金属を回収して利益を得る目的とみられる。
こうした事態を踏まえ、横浜市は16年度の入札で、有価金属の売却禁止を契約の条件に加えた。それでもリサイクル目的と疑われる低額応札があったため、今年度からは契約内容を売却に変更。5月末に今年10月分までの入札を行い、計3000万円超で売却することを決めた。落札業者には有価金属のリサイクルを認める一方、残った遺灰を埋葬・供養するなど適正な処理を求めている。
同市健康福祉局は「業者に有価物の売却を禁じるのは現実には難しい。契約の透明性と公平性を確保するため、売却の道を選んだ」と説明。遺族の心情に配慮するため、売却益は斎場の植栽や設備の改善などに充てて利用者に還元する方向で検討している。
前橋市は20年以上前から売却を続け、入札で今年3月に約2800体分を623万円で売却した。業者には慰霊祭の報告書を提出させている。名古屋市は委託業者が回収した有価金属を売却する方式を採用。昨年度は2万4000件以上の火葬で出た残骨灰から有価金属を約12キロ回収し、売却益約1800万円を一般財源に組み入れた。
一方、北九州市は、市民から「死者に対して不遜ではないか」との声が上がり、1991年に売却をやめた。
日本葬送文化学会会長の長江曜子・聖徳大教授は「人の体の一部なので、尊厳ある扱いが必要。葬儀や火葬は家族の絆を確認し、命の大切さを伝える場。売却はモノのように扱っている感じがして違和感がある」と話す。
全国環境マネジメント協会は「利益重視の業者は有価金属以外を投棄することも考えられ、環境問題が起きる懸念もある」として、横浜市に売却をやめるよう求めている。【石塚淳子】
◇大阪市は売却せず
大阪市は残骨灰を売却せず、斎場の敷地内の埋葬地に埋めている。遺族感情なども踏まえ、これまで売却を検討したことはないという。【椋田佳代】
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