メガリス

私の文章の模倣転用は(もしそんな価値があるなら)御自由に。
私の写真についての“撮影者としての権利”は放棄します。

今週もファンタジー。NHK『篤姫』第2回

2008年01月14日 04時32分00秒 | NHK大河ドラマ『篤姫』

 NHK大河ドラマ『篤姫』第2回を見た。
  先週に引き続きファンタジー路線をひた走っている。

  第1回で於一(おかつ、のちの篤姫)の父親に直訴に来た西郷吉之助が、そのことを詫びに来る。父は許すが、於一の兄が「父上がお許しになっても俺は許さんぞ」と言い、太さ5センチ弱ほどの木刀で殴りかかる。
  薩摩の実戦剣法として有名な野太刀自顕流(のだちじげんりゅう。薬丸自顕流)のつもりかもしれないが、本来なら裂帛の気合を込めて絶叫する 「ツェーッ!」という声が実に弱々しい。ただ「ツェーッ」と“言っている”だけ。全く迫力の無い腑抜けジゲンリュウだ。そのせいなのか、西郷は計3回も肩を強打されたのに、平気でスタスタ歩いて帰っていく。
  有り得ない。
  本当なら第一撃「一の太刀」で西郷は肩を砕かれ地べたに這いつくばり、下手をすればショック死である。
  物語の展開上、ここで自顕流での乱闘場面を織り込む必要があったらしいのだが、脚本の田渕久美子氏が馬鹿なのか、演出の佐藤峰世氏が馬鹿なのか、とにかく自顕流というものを全然判っていないか或いは軽視しているため、まるで見当違いの間抜けな場面になってしまっている。
  この後に自顕流がらみの場面が再び登場する。
  西郷とその仲間数人が子供たちと自顕流の稽古をしている所に、肝付尚五郎少年が通りかかる。尚五郎は西郷に「手合わせをお願いしたい」と申し出る。
  自顕流には「手合わせ」など無い。自顕流は「一の太刀」による一撃必殺を目標に稽古をする。「手合わせ」なんかしたらどっちかが大怪我するか死ぬ。
  結局、大久保正助(のちの大久保利通)が「手合わせ」の相手をして、尚五郎は肩を打たれ負けるのだが、大久保の家で肩を冷やしてもらう程度のことで済んでしまう。有り得ない。
  自顕流は他の剣術とは全然違うのだということをさっぱり判っていない、か、完全無視している。
 
 鹿児島には「明治維新は薬丸流が叩き上げた」という言葉があるそうだ。泰平の世に“平和ぼけ”していた他藩の武士たちにとっては信じ難いほどの野太刀自顕流の圧倒的な強さが幕末維新期における薩摩藩士の活躍を支えたのだ。脚本田渕久美子氏と演出佐藤峰世氏は、多分そういうことも知らないのか、無視している。

  今週も、於一は尚五郎と一緒にお出かけをしている。有り得ない。

↓参考文献。『薩摩の秘剣 野太刀自顕流』著:島津義秀(新潮新書)