とあるおっさんは
よめに
そのつくりかけようとしていた
とりなべを
「私は
食べないわよ」
と
言われ
目に
なみだをため
家を
とびだした
おっさんは
手ぶらで
とびだしたもんだから
いくところがなく
しかたなく
当店に(とうてんに)
来(き)たみたいだった
そのおっさんの
よめが
「鶏肉は(とりにくは)
もも肉(にく)しか食(た)べない!!」
と
言(い)うので
せっかく
スーパーで買(か)ってきた
とりの「むねにく」
と
とりの「てばもと」
を
さっきいったスーパーへ
もどり
もも肉(にく)と
交換(こうかん)してもらうわ
と
よめに
言(い)ったまでは
よかったのだが
「くやしさ」
と
「はかなさ」
と
「せつなさ」
と
「結婚して37年
おれはこのよめと
いっしょに暮(く)らしてきたのに
なぜよめの
このみを
いまの
いままで
しらなかったんだ
おれのよめは
とりにく
は
もも肉しか食べない
と
言うことを
知るよしもなかった
おのれのみじゅくさから
にじみでてくる
ジレンマ」
で
こころのなかが(心の中が)
いっぱいになり
目からなみだを
あふれさせながら
いきおいよく
家を(いえを)
とびだしたので
ついつい
てぶらで
でてきてしまった
みたいだった
その
とあるおっさんは
とつとつと
そのできごとを
ぼきに
しゃべったあと
すこし
すっきりしたのか
笑顔がこぼれだした
ぼきは
そのおっさんに
いまから
いえにかえり
スーパーで買(か)ってきた
鶏(とり)のむねにく
と
てばもと
を
交換(こうかん)しに行(い)くの??
と
聞(き)くと
「はずかしくて
そんなことは
できない
値引(ねび)きされ
見切り品の(みきりひんの)
鶏のむねにく
と
みきりひんの
とりのてばもと
やで~
いまさら
返品(へんぴん)なんて
わしは
ようせんわ」
と
言うので
じゃー
その
とりのむねにく
と
てばもとは
どうすんの?
と
ぼきが
その
おっさんに
たずねると
その
おっさんは
もう
すてるんや~
と
言うので
ぼきは
「いまから
いえにかえり
ひとりで
なべをして
たべたらいいやん」
と
そのおっさんに言うと
すこし
考えてから
そのおっさんは
「いや
もう
すてるんや」
と
言うので
「ほな~
ここへ
もっておいで~な~
ふたりで
たべよ」
と
ぼきが
そのおっさんに言(い)うと
その
おっさんは
さもうれしそうに
「え~~ほんま~
もちこみになんで~~
いいの~~??」
と
言(い)ってきたので
「そんなの
かんけえねぇ~~」
と
ぼきが
言うと
そのおっさんは
「じゃ~
いまから
家に(いえに)
食材を(しょくざいを)
とりにもどってくるわ~」
と
いきおいよく
せきをたった
せきをたったとき
いきおいよく
たったので
おっさんのすわっていた
いすが
うしろにこけた
そして
すぐさま
とうてんを(当店を)
でて(出て)
こぐと(漕ぐと)
かしゃかしゃ
と
おとがなる
自転車(じてんしゃ)に
またがり
すごいいきおいで
かしゃかしゃ
と
いわせながら
はしっていった
62さいだった
しばらくすると
その
おっさんは
スーパーの
ビニール袋(ぶくろ)を
ふたつ
ぶらさげて
当店に(とうてんに)
もどってきた
そして
そのスーパーの
ビニール袋から
見切り品と(みきりひんと)
シールの貼(は)ってある
とりのむねにく
と
てばもと
を
とりだした
さらに
べつの
ビニール袋(ぶくろ)から
はくさい
にんじん
えのき
とうふ
を
当店の机の上に(とうてんのつくえのうえに)
ならべた
おっさんが
いえに
しょくざいを
とりに
かえっているあいだ
ぼきは
なべの
よういをした
おっさんが
食材を(しょくざいを)
とりにかえっているあいだ
ぼきは
なべを
よういし
その
なべに
水道水(すいどうすい)をいれ
こんぶをいれ
テーブルの上に(うえに)
ガスコンロを
用意し(よういし)
その
ガスコンロの上に(うえに)
さっき
みずをはった
なべをおき
カチャ
っと
ガスコンロに火(ひ)をつけた
ひさしぶりの
とりなべなので
ぼきのこころにも
火(ひ)がついた
そして
ふたりぶんの
さら
2枚と(にまいと)
深皿2個(ふかざら2こ)
と
わりばしを用意し(よういし)
おたまと
あなあきのおたま
も
よういしていると
その
おっさんが
いえから
食材(しょくざい)をもって
かえってきた
こころに火(ひ)がついた
ぼきは
さっそく
とりのむねにくを
包丁で(ほうちょうで)
ひとくちだいに(一口大に)
ざくぎりし
なべにほうりこみ
つぎに
はくさいをむき
みずであらい
そのはくさいを
てでちぎり
ちぎってはなべにほうりこみ
ちぎってはなべにほうりこんだ
にんじんは
ところどころ
くろくなっていたが
そのまま
かわつきで
ぶつぎりにして
なべにいれ
えのきは
ねっこのところを
ほうちょうで
きりおとし
てもぎで
なべにほりこんだ
とうふは
てのひらにのせ
ごばんのめのように(碁盤の目のように)
ほうちょうをいれ
そのまま
なべにいれた
そのとうふを
いれるとき
すこし
たかいいちから
いれたので
なべのおゆが
はねて
おっさんにかかり
おっさんは
「あっちぃっちぃ」
と
言っていた
ぼきの
さぎょうを
そばで
みているだけの
おっさんは
たまには
あついおもいもせないかん
と
心に火(こころにひ)がついている
ぼきは
心の中で思い(こころのなかでおもい)
「にやっ」
とした
そして
いつしかできあがった
とりなべを
ふたりで
たべた
ぼきは
そのおっさんに聞(き)いた
「奥方は(おくがたは)
きょうの夜は(よるは)
なにをたべるん??」
すると
その62歳(さい)の
おっさんは
「れいぞうこに
いっぱい
嫁(よめ)ようの
高級食材が(こうきゅうしょくざいが)
入(はい)っているし
冷凍庫も(れいとうこも)
まんたんやねん
だから
なんかたべるやろ」
と
他人事(たにんごと)みたいに
言(い)っていた
たにんごとだった
とりなべを
食(た)べているあいだ
そのおっさんの
いろいろな
こごとは
つづく
その会社に(そのかいしゃに)
高校を卒業して(こうこうをそつぎょうして)
18歳で入社し(18さいでにゅうしゃし)
60歳で定年退職(ていねんたいしょく)をするまでの
42年間の
かいつまんだはなし
今現在(いまげんざい)
62歳で(62さいで)
60歳で定年退職をし(ていねんたいしょくをし)
下請け会社に(したうけかいしゃに)
嘱託で(しょくたくで)
はたらきにいっている
はなし
いま
はたらきに行(い)っている先(さき)の
仕事内容が(しごとないようが)
日(ひ)によってちがうが
60億円から100億円の
現金を(げんきんを)
段(だん)ボールに
入(い)れたり
段ボールから
だしたり
各支店に(かくしてんに)
まわしたり
する
しごとらしい
60歳の定年退職をするまでは
そのような
しごとではなく
ちがう仕事内容(しごとないよう)
だったらしい
そのおっさんは
奥様と(おくさまと)
結婚して(けっこんして)
37年たち
3人のむすこにめぐまれ
その3人の息子(むすこ)たちは
3人とも
30歳以上になり
家を出て(いえをでて)
家(いえ)には
よめ
と
そのおっさんの
ふたりだけ
あと
3年後の
65歳になると
厚生年金と
企業年金が
入り
毎月30万円くらい
収入(しゅうにゅう)があるとも
いっていた
65歳で
毎月30万円
が
厚生年金と
企業年金でもらえ
定年退職した
退職金は
よめがたぶん
そのまんま
全額貯金(ぜんがくちょきん)
したみたいだった
そのおっさんは
約1200万円以上
の
退職金を
もらったみたいだった
そして
グループ会社の(かいしゃの)
下請けに(したうけに)
嘱託(しょくたく)として
勤務する(きんむする)
そのおっさんは
現在62歳だが
65歳になると
毎月年金で30万円
プラス
おっさんの
給与が毎月入ってくるので
いいくらしができる
家(いえ)のローンは
もうすでに
終(おわ)っている
そのうえ
毎月(まいつき)
勤務先の(きんむさきの)
企業積み立て貯金も(きぎょうつみたてちょきんも)
18歳から
していたらしく
貯金(ちょきん)もたんまりある
かりに
そのおっさんが
65歳になり
勤務先の給与が(きんむさきのきゅうよが)
15万としても
年金とあわすと
毎月45万円となる
そのおっさんの
こづかいは
けっこんしてから
づーっと
毎月1万円だ
給料は
まいつき
口座振替で
給与日の次の日に
よめから
毎月
おこづかいを
1万円だけもらう
毎月の
企業積み立て貯金は
給与から
てんびきされ
のこりを給与として
ふりこまれる
その
ふりこまれた給与は
ぜんがく
嫁(よめ)のもの
企業積み立て定期預金も
ぜんぶ
嫁のもの
かりに
かりにだが
18歳から
企業積み立て定期預金
を
毎月2万円していたとしたら
(2万円×12カ月)×42年間
と
言う
公式(こうしき)が
なりたつ
途中(とちゅう)
毎月の積立の金額が(まいつきのつみたてのきんがくが)
増えていれば
合計は
さらにアップする
これは
かりにのはなしだから
金額は知らない(きんがくはしらない)
へたすると
毎月5万円かも(まいつきごまんえんかも)
しれない
しかし
定年退職した日から
お小遣いは
毎月7000円に
へらされた
と
なげいていた
3000円も
へらされたら
もうやっていけない
と
なみだながらに
うったえていた
なので
そのおっさんは
たばこはすわない
携帯電話は
もっていない
おんなはいらない
安い酒(やすいさけ)だけあればいい
と
いっていた
その
なけなしの
こづかい7000円から
きょうの
鶏(とり)なべの
食材(しょくざい)を
かったものだから
いっきに
おこづかいがへったのだった
そのおっさんの
奥様は(おくさまは)
結婚(けっこん)してから
1度も働(いちどもはたら)いたことがないという
パートも
アルバイトも
しないという
その嫁(よめ)との
結婚は(けっこんは)
職場結婚だった(しょくばけっこんだった)
らしい
よめがわかいときは
きれいで
よくきがつき
よくはたらき
プロポーションも
ばつぐんだったらしい
かのじょをねらう(彼女を狙う)
だんせいが(男性が)
たくさんいてて
ライバルたちを
けおとして
「なんとか」「かんとか」
結婚できた(けっこんできた)
と
言っていた
そして
わしは
いまでも
よめを
「あいしてるんや」
と
言って
かえっていった
ぼきは
そのおっさんが
かえったあと
食器類(しょっきるい)
を
かたづけ
なべを
かたづけ
おまけに
洗い物を
した
よくあさ
起きると
おなかのちょうしがわるく
あさから
トイレに
れっつらゴー
だ
いや
おなかが
いたくて目が覚めたのだ
アルバイトに
出勤するまで
トイレに
3回
行き
それでも
下痢(げり)がとまらないので
せいろがんを
2つぶのみ
アルバイトに向(む)かった
ぼきは
いったい
さくや(昨夜)
なにをたべたのだろうか??
下痢と腹痛は(げりとふくつうは)
二日間(ふつかかん)つづいた
おちまい