面白き 事も無き世を 面白く
住みなすものは 心なりけり

「宮廷画家ゴヤは見た」

2008年11月04日 | 映画
18世紀末スペイン。
宮廷画家でありながら、権力批判や社会風刺に富んだ作品も精力的に制作し続けるゴヤ(ステラン・スカルスガルド)。
カトリック教会を風刺した版画は教会内でも問題となるが、これは現在のカトリック教会に対する民衆が真に抱くイメージであり、教会の威厳を高めなければならないと主張するロレンソ神父(ハビエル・バルデム)によって、有名無実化していた「異端審問」の復活・強化の道具とされた。
ロレンソがゴヤを援護したのは、自身の肖像画を彼に発注していたからでもあったのだが、彼のアトリエで一枚の美しい娘の絵に惹かれる。
それは、ゴヤの友人である裕福な商人トマス・ビルバトゥア(ホセ・ルイス・ゴメス)の娘イネス(ナタリー・ポートマン)の肖像だった。
強化された「異端審問」により異教徒の疑いで捕えられたイネスを救ってほしいとゴヤに頼まれたロレンソは、拷問を受け牢に繋がれたイネスに面会したが、助けを懇願する彼女に対する憐れみとともに欲望のまま抱きしめる。
その後も釈放されないイネスを返してほしいと訴えるトマスから晩餐に招かれたロレンソだったが、尋問を受けて異教徒であることを告白した彼女は、裁判にかけられることになると伝えた。
怒ったトマスは、イネスが受けたのと同じ“拷問”によって、「自分は猿である」という告白を書面にとってロレンソに署名させ、イネスを戻せば書面は焼却するとして異端審問所長の説得を指示する。
トマスからの修道院に対する莫大な寄付金を持って説得を試みたロレンソだったが、審問所長は寄付金だけを受け取り、告白を無視することは審問の権威を損なうとして、イネスの釈放は許可しなかった。
この結果に、トマスはロレンソが署名した書面を国王に提出したが、処罰を恐れたロレンソは国外へと逃亡。
結局イネスは帰らぬまま15年の歳月が過ぎ、フランス皇帝となってヨーロッパに覇権を築きつつあったナポレオンが、スペインへと侵攻してきた…

「カッコーの巣の上で」「アマデウス」の巨匠ミロス・フォアマンが、共産主義政権下の故郷チェコスロバキアで学生だった頃、多くの人々に無実の罪を着せたスペインの異端審問に関する映画をつくりたいと思いついたアイディアが、50年の時を経て、ついに実現したものだとか。
さすが、人間の欲望を描かせたら天下一品の名匠。
権力を持つ人間のドロドロとした醜さが生々しく描かれていて、反吐が出そうなほどに重くのしかかってくる。
王制とカトリック教会による圧政、フランス革命、ナポレオンの台頭と、めまぐるしく権力が変転していった時代を、国王から貧民まで、あらゆる人間の姿を描き出す天才画家ゴヤの目を通して観客も体感する。
どこまでも権力に執着する人間の愚かしさと、どんな状況下であっても強く生き続ける人間の強さがスクリーンに映し出され、観客の胸に迫ってくる。
ロレンソ神父とイネスが“ようやく一緒に”歩いていくラストシーンは、切なすぎる…

観る者の心を打つナタリー・ポートマンの迫真の演技が素晴らしい。
後からじわじわこみ上げてくる、人間ドラマの秀作。


宮廷画家ゴヤは見た
2006年/アメリカ  監督:ミロス・フォアマン
出演:ハビエル・バルデム、ナタリー・ポートマン、ステラン・スカルスガルド、ランディ・クエイド、ホセ・ルイス・ゴメス、ミシェル・ロンズデール、マベル・リベラ

「レッドクリフ PartI」

2008年11月04日 | 映画
今を遡ること1800年前の中国大陸。
漢王朝が力を失い、群雄割拠の状況下で北方を中心に勢力を伸ばし、皇帝を操るまでになった曹操は、天下統一を名分として劉備軍を攻めたてた。
民を守ることを最優先して敗走した劉備には、義兄弟の契りを交わしている関羽、張飛の二人の司令官の他、猛将・超雲、そして天才軍師・諸葛亮孔明と優れた人材が集まっているものの、その兵力は約2万。
80万の兵力を擁する曹操軍との差は明らかであり、正に風前の灯の状況。
孔明は一計を案じ、江東を領有している孫権軍との同盟を画策し、単身乗り込んでいく。
孫権に謁見したものの、老臣達の反対にあって孫権は態度を保留。
しかし孔明は、孫権の軍師・魯粛の計らいで軍の総司令官である周瑜と面会し、歓待の宴席で心を通わせることとなり、これをきっかけに孫権軍との同盟に成功する。
劉備と孫権が手を組んだことを知った曹操は陣頭指揮をとり、80万の兵と共に赤壁へと向かった…

かつてコーエーのシミュレーションゲーム「三国志」に凝った自分にとって、待望の作品がついに公開された。
しかもそれが「映画の日」!
朝一番の回をネットで座席予約し、少々眠い目をこすりながら座席に座ったが最後、眠気も消し飛ぶ興奮度で大満足♪

「三国志」の中でもクライマックス・シーンともいえる「赤壁の戦い」の物語を、ハリウッドでも大活躍のジョン・ウー監督が満を持して映画化した本作は、100億円もの制作費をかけて見応え十分な大スペクタクル・シーンで観客を圧倒し、映像の迫力を存分に楽しませ、二時間数十分を一気に見せる。
世界規模で愛されている“英雄伝”でもある「三国志」には数多の英雄が登場するが、その中でも絶大な人気を誇る諸葛孔明と、絶世の美女を妻に持つ孫権軍の知将・周瑜との交友を中心に、勇気と友情、義と愛を描く歴史巨編。

卓越したアクション表現が冴える名匠ジョン・ウーであるが、本作でもその才能をいかんなく発揮している。
とにかく、戦闘シーンにおける英雄達のカッコよさは素晴らしい!
「白髪三千条」の国らしく、何百何千という敵軍の中に単騎乗り込んで蹴散らしてみたり、群がる敵を槍と太刀とで蹴散らしたり、「ヒーローは死なない」という王道まっしぐらの映像が心地よい。
「三国志」ではおなじみの、関羽、張飛、超雲ら劉備軍の猛将達が、スクリーン狭しと暴れまわる大活躍に胸躍る。

明らかに登場人物の人となりを紹介している、というシーンがあり、ある程度「三国志」を知る人間からは少々こっ恥ずかしいようなところもあるが、そこはご愛嬌の範囲内。
長槍を携えて迫り来る敵の前に立ちふさがる関羽の立ち姿のカッコ良さといったらない!
やはりジョン・ウーは、“英雄”の見せ方を心得ている。
「三国志」は彼が映画化するための脚本だったと言っても過言ではない!
(…過言かもしれない!?←どやねん)

題名からも分かるとおり「PartⅠ」であり、いかにもそういう作りになっているところはいささか“中途半端さ”を感じなくもないが、そんな些細なことはどうでもよくなるくらいに単純に楽しむことができる快作。


レッドクリフ PartI
2008年/アメリカ・中国・日本・台湾・韓国
監督:ジョン・ウー
出演:トニー・レオン、金城武、チャン・フォンイー、チャン・チェン、ヴィッキー・チャオ、フー・ジュン、中村獅童、リン・チーリン