2020年東京五輪・パラリンピックのエンブレムを取り下げた大会組織委員会。各界の著名人が理事に顔を連ねる豪華な布陣だが、その責任の所在についてはあいまいな発言が相次ぐ。責任者は誰なのか。内部からも戸惑いの声が上がる。

 2日、衆議院の文部科学委員会。エンブレム問題の責任の所在があいまいではないかと問われた遠藤利明・五輪担当相は「組織委員会、審査委員会、デザイナーの三者三様、それぞれの立場で責任があるんだろうと思う」と語った。

 「三者三様」は、使用中止が発表された1日の記者会見で、大会組織委員会の武藤敏郎事務総長も使った言葉だ。「誰に責任があるかという議論はすべきではないし、できないと思う」。元財務事務次官の武藤氏は「新しいものを作っていくことが我々の責任」とも強調した。

 組織委の会長で元首相の森喜朗氏は、この記者会見には姿を見せなかった。使用中止を決めた会議後、記者団から「残念な結果になったが」と問われると、「何が残念なんだ?」と逆質問。「会見やってるでしょ」とだけ言い残して車に乗り込んだ。

 東京五輪をめぐっては、新国立競技場の整備計画が白紙撤回された際にも、「他人事(ひとごと)」と取られかねない発言があった。

 競技場建設の事業主体は文科省傘下の独立行政法人日本スポーツ振興センター」(JSC)で、組織委ではないが、森氏はJSCの諮問機関である有識者会議のメンバー。建設計画について下村博文・文科相や安倍晋三首相と協議を重ねるなど深くかかわってきた。

 6月に下村氏から当初計画の説明を受けた森氏は「よくまとめられた」と語っていたが、計画見直しが決まるとこう言った。「僕は元々、あのスタジアムは嫌だった。(外観が)生ガキみたいだ」

 安倍首相も「民主党政権時代に国際コンペで(デザインを)決めた。我々は引き継いで、その方向で進めていくしかなかった」と述べ、12年に当初案を決めた民主政権を批判した。(泗水康信、伊藤嘉孝)

■内部からも「一体感ない」

 大会組織委はどんな組織なのか。

 大会の準備や競技運営などを目的に、14年1月に東京都と日本オリンピック委員会(JOC)が1億5千万円ずつを拠出し、財団法人として発足した。スポンサー料などが運営費にあてられ、職員は都や民間企業から出向している約400人。企画や広報、会場整備など計10の局があり、エンブレムはマーケティング局が担当する。

 その上に政官財やスポーツ、芸術の各分野から選ばれた35人の理事がいる。トヨタ自動車豊田章男社長や作詞家の秋元康氏、五輪金メダリスト室伏広治氏らで、理事会で大会の基本計画などを承認してきた。

 エンブレムの取り下げは、武藤氏ら組織委がデザイナーの佐野研二郎氏や審査委員と協議して決定。森氏や舛添要一東京都知事、遠藤氏ら関係機関のトップ6人で作る「調整会議」で了承された。

 ただ、決定過程に内部では困惑の声も上がる。

 荒木田裕子理事(日本バレーボール協会強化事業本部長)は使用中止を報道で知ったという。「色々なことがクローズで決まっている。今の組織委には一体感がない。理事としてどう関わったらいいのか。もう一度、チームになってやらないと大会を盛り上げることはできない」

 別の理事は「決定事項は報告を受けるだけで、従わざるを得ない。(組織委は)名だたるメンバーの集合体だが、責任の所在がわかりにくいと感じる」と話した。(牛尾梓、斉藤寛子)

■「旧来型の企業や役所に似た印象」

 組織論の専門家は、強いリーダーシップの必要性を指摘する。

 早稲田大の藤田誠教授(経営・組織論)は「名誉職が多すぎて、誰が本当の責任者かわからない」と指摘する。「全体をコーディネートするトップが必要。理想は、試合中も常に選手と意思疎通を続ける野球監督のようなイメージだ」と話した。

 同志社大の太田肇教授(組織論)は「旧来型の日本企業や役所に似た印象だ。『集団的無責任態勢』なのでは」と語る。「政治力など見えない力で物事が決まらぬよう、誰もがわかる明確なリーダーを置くべきだ」と提言する。