【動画】ラグビーとアメフットのキックの違いを五郎丸歩、西村豪哲両選手で比較=林敏行撮影

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 観客の視線を一身に浴び、H形ポールめがけて楕円形(だえんけい)のボールを蹴り込む。得点に直結する重責のポジションがキッカーだ。ワールドカップ(W杯)で日本の得点源となるラグビーの五郎丸歩(ごろうまるあゆむ、ヤマハ発動機)と、アメリカンフットボール・Xリーグの富士通で連続日本一を狙う西村豪哲(ひでてつ)。同じ29歳の「キック職人」が語り合った。

 五郎丸 キックを蹴る時は他の14人が体を張って得てくれたチャンス。それを蹴れるという責任、今では代表でやっているので、国を勝利に導く重要な道具だと思っていますね。

 西村 アメフットも同じ。このキックでチームの勝敗が決まる、という緊張感の中でプレーできるのがキッカーの醍醐味(だいごみ)。

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 ラグビーとアメフット、ボールの大きさは、ラグビーの方が大きくて重い。

 西村 ラグビーは難しいと思う。自分がトライを決めたり、試合中にどこかを痛めたりした中で蹴らなくてはいけない。アメフットは蹴るだけなんで。

 五郎丸 息が上がった状態で蹴らなくてはならないシチュエーションもある。肩が痛かったり、右足が痛かったり。でも、芯に当たったら、ラグビーボールの方が簡単に飛ぶと思う。それより、アメフットは最初からボールが置いてあるわけじゃなくて、人が置くんですよね。

 西村 そう。投げる人、ボールを押さえる人がいて、あうんの呼吸で蹴る。タイミングやテンポが大事。3人で一緒にご飯を食べにいったり、よく話をしたりしている。

 五郎丸 置く人がちょっとズラしたら外れますよね? かなりの信頼関係が必要だ。

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 ボールの置き方、助走の入り方、体重移動の仕方……。蹴り方には、こだわりがある。

 西村 五郎丸さんの蹴る前のルーティンに興味がある。色々なポーズをしてますよね。

 五郎丸 ルーティンは大切にしている。まず、ボールを2回まわして、立てる時は少し前にボールを倒して立てる。後ろに3歩、横に2歩下がって、そこで右手を使って重心移動のイメージを作る。その後、体の芯に力を寄せるために手を胸の前で合わせてから、助走に入る。

 西村 僕も毎回同じように蹴ることを意識している。アメフットは蹴るまでの時間がラグビーに比べて短いので、ポーズを取ることはできない。むしろ、何も考えずに、パン、パン、パンと蹴る感じ。ボールは少し左側に倒して立ててもらう。助走はホップ、ステップ、ジャンプじゃないですけど、必ず3歩。しっかり踏み込んで蹴る。

 五郎丸 一番意識するのは体重移動。軸足ごとゴールまで持っていくように蹴ることを意識している。遠心力でボールを蹴るわけだけど、ヒットの瞬間は直線運動になるように。

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 ラグビーは角度のない所から蹴ることも多いが、距離はある程度一定だ。アメフットはゴール正面付近だが、遠い距離から狙う必要もある。

 西村 斜めから蹴るって、難しくないですか?

 五郎丸 いや、斜めの方が好き。正面の方が狙うところがありすぎるし、お客さんも喜ばない。狙うのはH形ポールの向かって右側。データ的に右利きは左側に外すことが多いらしい。だから、練習から右側を狙うようにしている。

 西村 僕は試合会場に行って、H形ポールの奥に何かのポイントを見つけて、それを狙っている。練習では、H形ポールを使わずに、電柱など、「点」で狙う練習をしている。

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 そんな2人が共通しているのは、キッカーというポジションに誇りを持っていることだ。

 五郎丸 このポジションに立てる選手って、そういないし、責任感を感じてプレーできるというのはプレーヤーとしてはありがたい。

 西村 アメフットは目の前で9人が体を張って、相手を止めてくれている。そういう人のためにも決めなくてはいけない。チームのみんなが信頼してくれているからこそ、責任を感じて蹴ってます。

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 《ボールの大きさ》 ラグビーボールは重さ410~460グラム、アメフットは397~425グラムの範囲内とルールで決められている。最大と最小の中間値で比べると、ラグビーの方が24グラム重い。同様に比べると、長さは0・65センチ、ラグビーの方が長い。ラグビーは両手でパスをすることが多く、アメフットは片手で投げることが多い。

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 《ごろうまる・あゆむ》 1986年3月生まれ、福岡市出身。佐賀工高で花園に3年連続出場。早大で3度の大学日本一を経験。昨季はヤマハ発動機の初の日本一に貢献。185センチ、100キロ。

 《にしむら・ひでてつ》 1985年10月生まれ、東京都出身。日体大でアメフットを始め、2009年から富士通。昨季は初の日本一に貢献した。07、15年の世界選手権韓国代表。180センチ、82キロ。

■取材後記

 2人の最大の違いは助走だ。方向の正確性が求められる五郎丸は、西村に比べて蹴り足が描く弧が小さい。振り幅が小さいほど、正確性は増す。約10歩の助走をとりながらも体重移動をスムーズにできているから、振り幅を小さくしても距離を出すことができる。

 十分な助走をとる時間がない中で距離を出そうとする西村は、毎回3歩の助走で、テイクバックとフォロースルーを大きくし、「蹴り足のしなり」を最大限に生かしている。

 キッカーには自分の「ミートポイント」がある。「ボールのここを蹴れば入る」と確信を持てる「点」とも言える。蹴り方は違うが、2人はこの「点」を高い確率で射抜いている。

 私も関学大時代、アメフットのキッカーだった。当時、心がけていたのは、天候、芝の状態などに左右されない「機械」になること。五郎丸の取材は大雨、西村はけが明けだったが、2人の蹴るリズム、弾道、コースは一定だった。まさに「精密機械」だ。(